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保育園における腸管出血性大腸菌O26:H11(VT2産生)による集団感染事例―東京都

(IASR Vol. 35 p. 127-128: 2014年5月号)

 

2013年9月、東京都内の保育園において、腸管出血性大腸菌O26:H 11(VT2産生)(以下、O26)による集団感染事例が発生したので、その概要と細菌学的検査結果を報告する。

1. 発生状況
9月5日、甲医療機関より管轄保健所にO26感染症の届出があった。患児A(1歳)はa保育園の1歳児クラスに在籍しており、8月30日より水様性下痢、発熱を呈し、8月31日に受診した甲医療機関での検査の結果、便からO26が検出された。保健所は直ちに家庭とa保育園に対して健康調査、衛生指導を行い、同居家族の検便を実施した。この時点ではa保育園において同様の症状を呈する児や職員は確認されなかった。

9月10日、乙医療機関よりa保育園の別の園児2名(B:1歳、C:3歳の兄妹)のO26感染症の届出があった。患児Bは9月2日より発熱、水様性下痢、患児Cは9月5日より発熱、腹痛を呈し、9月6日に受診していた。両名とも有症状期に登園していること、さらに1歳児クラスと3歳児クラスは別フロアに位置していることから、園全体の感染拡大の可能性を考慮し、園児全員と職員全員に検便を実施した(図1)。

全職員18名からO26の検出はなかったが、全園児58名中18名からO26が検出された。その同居家族全員37名(13家族)の検便を実施したところ、7名からO26が検出され、計25名がO26:H11(VT2産生)に感染していることが判明した()。

感染者の内訳は、1歳児クラスが12名中9名、3歳児クラスが19名中6名と多かったが、全クラスに陽性者を認めた。陽性者の家族では兄弟6名中3名、母親15名中4名が陽性で、7家族に家族内感染がみられた。

感染者25名中の有症状者は7名(28%)で、無症状者が18名(72%)と多く、有症状者においても、発熱3名、下痢3名、軟便2名、水様便2名、腹痛1名と症状は比較的軽度で、血便や溶血性尿毒症症候群を呈したり、入院した例もなかった。9月30日に全員の菌の陰性化が確認できたため終息と判断した。

2.細菌学的検査結果
9月6~30日の間に、糞便111件と医療機関で検出されたO26菌株3件が東京都健康安全研究センターに搬入され、検査を実施した。糞便の内訳は、園児55件およびO26が検出された園児の家族36件、そしてO26 が検出された園児および家族12名分の陰性確認20件であった。

検査は、分離平板としてCT添加ラムノースマッコンキー(CT-RMAC)寒天とクロモアガーSTECの2種類を用い、増菌培地にはCT添加トリプチケースソイブロス(CT-TSB)を用いて42℃一夜培養を行った。その結果、園児55件中15件、家族36件中7件、陰性確認は20件中3件(2名分)の計25件からO26が検出された。

25件のO26検出状況では、23件が直接培養・増菌培養ともに陽性(陰性確認の2件を含む)、1件が直接培養のみ陽性、1件は増菌培養のみ陽性(陰性確認の1件)であった。本事例で検出されたO26:H11はすべてVT2産生菌であった。

分離されたO26について、米国臨床検査標準化協会(CLSI)法に基づきセンシディスク(BD社)を用いて薬剤感受性試験(9薬剤:CP、TC、SM、KM、ABPC、ST合剤、NA、FOM、NFLX)を実施した結果、初発患児A由来株をはじめ24株はTC・SM耐性であったが、B、Cの兄妹およびその母親由来株と0歳児クラスの1名由来の4株がTC・SM・ABPC耐性であった。陰性確認で検出された3株(2名分)は、いずれもTC・SM耐性で1回目に検出された時と同じであった。

検出されたO26について制限酵素XbaI を用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果、本事例のO26は2種類の薬剤感受性パターンがあったが、同じ泳動パターンを示した(図2)。なお、同時期に都内で同じPFGEパターンを示すO26:H11(VT2産生菌)は認められておらず、本園における集団発生事例と考えられた。

3.考 察
初発園児の家庭では成人だけ2週間前に焼肉の喫食があったが、家族は菌陰性であり、感染源は特定できなかった。無症状や軽症者が多く、有症状でも通園している児が複数いた。多くの感染児が排泄の自立していない5歳未満であったため、おむつ交換等を介して家庭内そして保育園全体に感染が拡大したものと推測された。おむつ交換時における感染予防策徹底の重要性が改めて認識された。

これまでのO26集団事例では、そのほとんどがVT1産生株で、症状は比較的経度である。一方、VT2はVT1よりも毒性が強いとされているが、今回の事例では感染者の多くが無症状、あるいは有症状であっても軽症であり、重症者はいなかった。今後も事例の蓄積、検討が必要であると考えている。

 

東京都多摩府中保健所
 水田渉子 播磨あかね 宮石奉 稲葉洋美 坂野知子 佐藤 文 清水美和 
 田畑茉莉子 二宮博文 田原なるみ     

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 尾畑浩魅 高橋正  河村真保 小西典子 仲真晶子 甲斐明美

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