国立感染症研究所

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重症心身障害児施設において発生したRSウイルスによる呼吸器感染症の集団感染事例、2011年―沖縄県

(IASR Vol. 35 p. 145-146: 2014年6月号)

背 景
社会福祉法人五和会名護療育園(以後、当園と称す)は、沖縄本島北部に位置する重症心身障害児施設であり、入所者数は常時約80名(年齢は2011年当時で6~57歳)、職員数は約130名(医師、看護師、生活支援員、保育士、リハビリスタッフ、栄養士、薬剤師、臨床検査技師、社会福祉士、事務員等)からなる。当園の入所者の主な基礎疾患は脳性麻痺、水無脳症、髄膜炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、染色体異常、ムコ多糖症等多様である。2011年8~9月にかけて、当園にてRSウイルス(RSV)による呼吸器感染症の集団感染事例が発生し、病棟閉鎖を余儀なくされた。集団発生の状況について概観する。

事 例
2011年8月9日、入所者の1名が発熱、咳嗽、喘鳴を発症した。3日後に呼吸困難となり、近隣の総合病院に入院した。8月13日より同室(A室と仮称する)の12名の入所者において同様な呼吸器症状を呈する者が続出した。症例定義を当園入所者において8月以降に発熱、咳嗽、喘鳴を呈した者とすると、A室では8月21日までに初発例を含む11名が症例定義に合致し(A室の発症率92%)、うち計6名が入院となった(A室の入院率50%)。当園はA室を含み、全部で6つの病室に区分されるが、8月末日までに全病室において有病者が確認された。園内全体では園生30名が症例定義に合致し(全体の発症率37.5%)、うち7名が入院した(全体の入院率8.8%)。に流行曲線を示す。入院した者の診断名としては全員が肺炎であった。職員の中では症例定義に合致する者はいなかった。同時期、咽頭痛や軽い咳などの経度の呼吸器症状を呈した者は園生15名、職員3名が確認されている。気管切開、呼吸器管理を受けていた医療的ニーズの高い入所者の症状が重く、入院者はすべてこのような入所者であった(入院者の年齢は6~48歳)。園内にて9名に対して簡易迅速検査を実施したところ、RSVが3名において陽性となった。陽性の者から採取された検体のうち1名については、沖縄県環境衛生研究所でのPCR検査が実施され、RSV陽性が確認された。他にマイコプラズマ、百日咳、ヒトメタニューモウイルス、クラミジア、ライノウイルスなどについて複数の有症者について検査が行われ、いずれも陰性であったことが確認されている。よって、本事例はRSVによる呼吸器感染症の集団発生と考えられた。転帰については、幸いなことに入院した7名は全員回復し無事に退院した。最終の症例は9月5日の発症であり、9月12日までに症状の改善がみられた。初発例の発症より1カ月以上が経過していた。

当園における主な対策としては、罹患者の隔離、職員の手指消毒・マスク着用の徹底のほか、2011年8月23日~同年9月5日までの間、外部面会の制限、短期入所・日中一時支援サービスの停止、入所者の外出制限等に加え、病棟全体を閉鎖とした。

考 察
RSV感染症は通常小児において観察されることの多い呼吸器感染症である。乳児などにおいては細気管支炎などを呈して重症化することが知られる。健常成人の場合には軽症にて推移し、風邪として扱われることも少なくないと考えられる。

今回、重症心身障害児の施設においてRSVが侵入した事例を経験した。当園のような特性を持つ施設においては、重症者の多発のみならず、場合によっては生命の危険さえ生じるような状況となり得ることが明らかとなった。本事例において、RSVは外部から飛沫感染・接触感染により持ち込まれたと考えられるが、感染源が職員あるいは外部からの面会者であったのか、詳細は不明である。今後重要な対策として、市中からのRSVを含む感染症の侵入や伝播を防ぐべく、基本的な手洗いなどの手指衛生を徹底するとともに、どのような感染症が流行しているかについての情報収集を強化することが必要であると考えられる。それらの情報をもとに、職員および外部面会者に対する感染症への注意喚起を強化できる。

今回の事例において原因病原体の特定に沖縄県福祉保健所、沖縄県環境衛生研究所、沖縄県立北部病院の協力と、琉球大学医学部感染病態制御学講座助教・原永修作先生、国立感染症研究所感染症疫学センター・砂川富正先生から助言を頂けたことが大きな力となった。当園のように感染制御医のいない地域の医療施設においては、各行政機関、地域基幹病院、専門機関との連携は感染制御対策において非常に重要であり、諸機関との連携の有効性を実感した事例であった。

 
社会福祉法人五和会名護療育園 
  仲本千佳子 勝連啓介 中村恭子 安藤美恵(現那覇市保健所) 泉川良範
 

 

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