国立感染症研究所

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高齢者施設におけるRSウイルス集団感染事例―茨城県

(IASR Vol. 35 p. 146-147: 2014年6月号)

茨城県内のA施設(介護老人保健施設、入所者91名、職員61名)において、2014年1月中旬、発熱、咳、咽頭痛などを主症状とする呼吸器感染症が多発し、発症者10名のうち7名からRSウイルス(RSV)が検出されたので、その概要を報告する。

1月21日、A施設から管轄保健所に、「原因不明の発熱・呼吸器症状を呈する入所者が30名程度いる」との報告があった。保健所は速やかに発生状況の確認、感染源調査等を開始するとともに、当該施設に対し、インフルエンザ感染対策に準じた感染防止対策の徹底強化を依頼した。これを受け、施設は、有症者の居室分離、通所サービスの中止、面会の制限、施設内行事・交流の自粛、標準予防策の徹底、施設内の消毒、入所者の健康観察の強化等の対応を行った。

疫学調査の結果、1月11~20 日までの間に少なくとも入所者91名のうち24名(推定発症率26%)に上述した呼吸器症状が出現していたことが推察された()。有症者24名は、男7名、女17名、年齢は68~97歳〔平均年齢81.1±8.5(標準偏差: SD)〕であった。主な症状は、発熱20名〔83.3%、平均37.7±0.8℃(SD)〕、咳21名(87.5%)、鼻汁過多8名(33.3%)、喘鳴7名(29.2%)、咽頭痛7名(29.2%)であった。また、胸部X線検査により5名(20.8%)に肺炎も認められた。24名のうち21名が施設の同一フロアー(2階)の入所者であった。患者に喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患は認められなかった。

次に、病原体を特定するため、有症者のうち10名から同意を得て鼻腔ぬぐい液を採取した。検体から市販のキットにより、遺伝子抽出を行い、既報に準じて、(RT-)PCRによる病原体の遺伝子増幅・検出を行った1, 2)。なお、遺伝子検査の対象病原体は、RSV、インフルエンザウイルス(A~C型)、パラインフルエンザウイルス(1~4型)、ヒトライノウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、ヒトボカウイルス、ヒトメタニューモウイルス、クラミジアニューモニエ、マイコプラズマニューモニエ、ストレプトコッカスニューモニエ、ヘモフィルスインフルエンザとした。また、HEp-2細胞およびVero細胞によるウイルス分離も試みた。結果として、7名からRSV遺伝子のみが検出され、その他の病原体は検出されなかった。ウイルスは分離されなかった。さらに、7名から検出されたRSVのG遺伝子の塩基配列解析(249塩基)および近隣結合法による分子系統樹解析を行った。その結果、患者7名から検出されたRSV株の塩基配列は100%一致した。系統樹解析の結果、これらの株はRSV subgroup B(遺伝子型BA)であることが推定された。また、分子系統樹上、検出株は、関東地域(群馬、栃木および神奈川県)で過去(2007~2011年)に検出されたBA型と塩基配列の相同性が高かった(93.2~99.9%)。

以上のことから、本事例はRSVを原因とする高齢者の呼吸器感染症の集団発生と考えられ、飛沫や接触によるヒト‐ヒト感染によって施設内に感染が拡大したと思われた。過去の感染症発生動向調査データによれば、RSV感染症は、国内では秋季~冬季を中心に流行がみられているが、これらのデータのほとんどは小児科受診患者由来(小児科定点からの報告)であり、成人や高齢者の患者数を正確に反映していない可能性がある (http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html)。

また、過去には、小児科領域を主体としたRSV感染症の初感染に対する重要性が論じられてきたと思われる。しかし、最近のデータによると、RSVは小児のみならず成人や高齢者にも感染(再感染)を引き起こし、特にCOPDや喘息などの慢性肺疾患を有する成人・高齢者には、これらの基礎疾患の増悪因子として重要視されるようになってきた(本号11ページ参照3,4)。ゆえに、特に高齢者施設におけるRSV感染症の集団発生の予防や行政対応は、他の呼吸器感染症、例えばインフルエンザなどと同様に重要であると思われる。

 

参考文献
  1. Yoshida A, et al., J Med Microbiol 61: 820-829,2012
  2. Fujitsuka A, et al., BMC Infect Dis 11: 168, 2011
  3. Collins RL and Karron RA, In Fields Virology Vol1, 6th eds, pp1086-1123, 2013
  4. Tang Y and Crowe JE Jr, Manual of Clin Microbiol, pp1361-1377, 2007
茨城県衛生研究所
  永田紀子 小森はるみ 本谷 匠 土井育子 渡邉美樹 氣田利正
茨城県常総保健所 
  川上真奈美 塚野 孝 本多めぐみ
群馬県衛生環境研究所 塚越博之
国立感染症研究所 木村博一 大石和徳
 

 

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