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2010~2013年に関東地域で検出されたノロウイルスの分子疫学解析

(IASR Vol. 35 p. 168: 2014年7月号)

ノロウイルス (NoV)は、冬季におけるウイルス性食中毒の主要な病原体であり、幼児から高齢者まで幅広い年齢層に感染して胃腸炎症状を引き起こす。検出されるNoVの遺伝子型の構成割合はシーズンごとに変化していることが知られている1)。2006/07シーズン以降、全国的にGII/4 2006b変異株の流行が続いていたが、2009/10シーズン以降は他のgenotypeの検出が増える傾向にあった。また、2012/13シーズンにはGII/4で新たな変異株が出現し、大きな流行を引き起こしたとされている。

今回、2010/11シーズン~2013/14シーズンまでの関東地域におけるNoVの動向を把握するため、食中毒事例および急性胃腸炎患者等から検出されたNoVの分子疫学解析を行ったので、その結果を報告する。

 2010年9月~2014年3月までの4シーズンに栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県で発生した、集団胃腸炎事例 (食中毒を含む)から検出されたNoV 234株および、感染症発生動向調査等において感染性胃腸炎患者から検出されたNoV 165株について、ウイルス性下痢症マニュアルに従いN/S領域を増幅し、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定後、既報に基づいて遺伝子型を決定した2,3)

検出されたNoV 399株の解析の結果、GIは43株、GIIは356株であった。GIの検出割合は2011/12シーズンが16%であった以外は、各シーズンとも10%前後であった (GIIと重複して検出されたものも含む)。一方、GIIは84~93%の事例で検出された。4シーズンに検出されたGIおよびGIIの遺伝子型別検出状況をに示した。GIでは2011/12シーズンにGI/6、GI/14が、また、2013/14シーズンにGI/6が比較的多く検出されたが、その他の遺伝子型では目立った集積はなかった。また、4シーズンを通じて検出された遺伝子型はなく、全体では10種の遺伝子型が検出された。一方、GIIでは2010/11シーズンにおける検出割合はGII/4が42%、GII/2が27%、GII/3が23%であり、3種の遺伝子型が混合して流行した状況であった。2011/12シーズン以降において、GII/4の検出割合は、それぞれ61%、78%、72%となり、GII/4主体の流行であった。さらに、2006/07シーズン以降流行の続いていたGII/4 2006b変異株の検出割合は減少し、特に、2012/13シーズン以降は、検出されたGII/4のほとんどがSydney/NSW0514/2012/ AU (JX459908)に近縁であった。他の遺伝子型ではGII/13が4シーズンを通して検出され、2013/14シーズンにはGII/6も22%の株から検出された。全体では12種の遺伝子型が検出された。

本研究の結果から、2012/13シーズン以降、関東地域においてGII/4変異株 (Sydney 2012)が検出ウイルスの主流となっていた。世界的にも2012年後半に NoVの活動が活発化しており、Sydney 2012の出現がその一因ではないかと考えられている4)。GII/4 Sydney 2012は2つのGII/4変異株のキメラウイルスであることが報告されており、近年、異なるgenotype間だけでなく、このような変異株間のキメラウイルスもしばしば出現している。今後、キメラウイルスの出現や流行ウイルスの把握のためには解析領域を広げるとともに、国立感染症研究所と地方衛生研究所による統一的なNoVサーベイランス体制を整備し、監視体制を強化することが必要であろう。

 

参考文献
  1. Motomura K, et al., J Virol 84(16): 8085-8097, 2010
  2. 国立感染症研究所, ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)
  3. 下痢症ウイルス情報サイトGatVirusWeb, http://teine.cc.sapmed.ac.jp/~gatvirus/
  4. van Beek J, et al., Eurosurveillance 18(1): 8-9, 2013
栃木県保健環境センター 水越文徳 鈴木尚子 舩渡川圭次
群馬県衛生環境研究所 塚越博之 丹羽祥一 小澤邦壽
埼玉県衛生研究所 小川泰卓 富岡恭子 篠原美千代
神奈川県衛生研究所 鈴木理恵子 近藤真規子 黒木俊郎
川崎市健康安全研究所 松島勇紀 石川真理子 清水英明
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