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北海道帯広市におけるウシ型のクリプトスポリジウム症集団感染事例

(IASR Vol. 35 p. 189-190: 2014年8月号)

2013年7月、北海道帯広市の中学校において、同市内の牧場で実施された自然体験学習に参加した生徒を中心に、消化器症状を伴う不調を訴えて集団欠席するという事例が発生した。全体に軽症であったものの、欠席者の中には下痢を呈する者も多くいた。有症者の便を検査した結果、ウシ型のクリプトスポリジウムCryptosporidium parvum のオーシストが検出されたことから、自然体験学習の実施施設における動物由来のクリプトスポリジウム症集団感染が示唆された。

2013年7月10日、「7月1日に帯広市内の牧場で実施された自然体験学習に参加した生徒(2年生)に消化器症状を呈する多数の欠席者が出ている」との情報がもたらされ、教育委員会と保健所が合同で聞き取り調査を実施した。その結果を踏まえて翌11日に有症者76名を分析したところ、主症状として明らかな下痢を呈していた者が31名(40.8%)いた。その他の症状として、吐き気・嘔吐36名(47.4%)、腹痛48名(63.2%)、発熱29名(38.2%)、頭痛49名(64.5%)などが認められた。なお、1年生と3年生にも有症者が見受けられたが、少数、散発的で、重大な感染拡大には至っていない模様であった。念のため、校舎内洗面施設等の消毒と手洗いの徹底を指示するとともに、2年生を中心に採便してウイルスおよび細菌学的検査に加えクリプトスポリジウム検査の実施を決定した。一方、当該牧場では自然体験学習実施日以前の6月下旬に、飼育されている子ウシのクリプトスポリジウムおよびロタウイルスの陽性を確認していたとの情報を得たため、改めて保健所が子ウシ1頭の便を採取した。7月12日、有症者76名のうち12名の便を採取し、検査を開始した。

保健所で実施したウイルスおよび細菌学的検査各5名分の結果から、ノロウイルスおよびロタウイルスによる感染性胃腸炎、病原性大腸菌など15種による細菌性食中毒が否定された。一方、北海道立衛生研究所では、ホルマリンおよび酢酸エチルで処理した後にショ糖遠心浮遊法によって、有症者12名中8名および子ウシ1頭の便から特徴的な淡紅色を示す直径約5ミクロンのクリプトスポリジウムオーシストを検出した。また、型を特定するために、Polythreonine遺伝子(poly-T)とCryptosporidium oocyst wall protein(COWP)遺伝子についてPCR-RFLPを行い、増幅および制限酵素Rsa I による切断パターンからウシ型のクリプトスポリジウムC. parvum と確定した。なお、オーシスト陽性の生徒と子ウシ由来の遺伝子すべてにおいて同様の結果を得た。さらに、PCR産物についてダイレクトシークエンスによる塩基配列の比較を試みたところ、生徒と子ウシのpoly-TおよびCOWP領域は完全に一致した。以上の結果より、生徒と子ウシが感染したクリプトスポリジウムは同じ株と推定された。当該牧場で実施された自然体験学習の際に、ウシ型のクリプトスポリジウムによる集団感染が発生したと結論づけられた。

に示すように、北海道におけるクリプトスポリジウム症は、1999~2013年の期間中、24事例133名の報告がなされている(2事例は修学旅行生が北海道で感染したもので、兵庫県と千葉県からの報告である)。この期間における全国の報告総数339名に対して39.2%を占めている。2002年のMorgan-Ryanらの報告以降、通常、ヒトがクリプトスポリジウム症を発症する場合、その病原体はヒト型のC. hominis が最も多く、次にウシ型のC. parvum、そして稀にトリに由来するC. meleagridis の順であるとされている1,2)。しかし、北海道の場合、1999年以降にヒト型と確認された事例は2002年の2事例のみで、その他はウシ型が3事例(2002、2005、2013年)、型の特定はされていないがウシとの接触が確認されている事例が9事例、詳細不明が10事例となっており、ウシ由来の感染と考えられる割合が多く、全体の半数を占めている。

北海道は酪農王国であり、業務として酪農に携わる人が多いだけではなく、学生の酪農実習、一般住民を対象とする観光・体験プログラムも多い。このように環境的にウシと触れ合う機会が多いにもかかわらず、“ウシのクリプトスポリジウム”については、感染症法や家畜伝染病予防法による届出・監視の対象ではなく、動物愛護管理法においても畜産農家は登録の対象外であるため規制の及ばない状況にある。従って、ウシを飼育する施設においてはウシ型のクリプトスポリジウムの感染の危険性が存在することを認識する必要がある。5類感染症として規定されている本症を予防するため、住民意識の向上とともにウシを飼育する施設側の対策を充実させることが重要と考えられる。

 

参考文献
  1. Morgan-Ryan, et al., J Eukaryot Microbiol 49: 433-440, 2002
  2. 所 正治, 井関基弘, 治療 86: 2704-2708, 2004
北海道立衛生研究所  
  山野公明 入江隆夫 孝口裕一 伊東拓也 浦口宏二 八木欣平 岡野素彦
北海道保健福祉部健康安全局地域保健課  
  井上有美 澤田康文(現北海道栗山町役場)
北海道帯広保健所  
  児玉晋治(現北海道早来食肉衛生検査所) 
  狩野利夫(現函館新都市病院)
  相田一郎(現北海道岩見沢保健所兼北海道滝川保健所)
 

 

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