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クリプトスポリジウム、ジアルジア検査法

(IASR Vol. 35 p. 197-200: 2014年8月号)

クリプトスポリジウム症とジアルジア症は、感染症法において5類感染症の全数把握疾患として病原体サーベイランスの対象疾患に位置付けられている。診断した医師は1週間以内に届け出を行う。病原体としてのクリプトスポリジウム属パルバム(遺伝子型がI型、II型のもの、今で言うCryptosporidium hominis C. parvum のこと)は、感染症法に基づく四種病原体として適正な管理が求められている(平成18年12月8日一部改正、平成19年6月1日施行)。

診断にあたっては、感染症法の施行当初より顕微鏡による糞便の検査を行うこととされていた。すなわち、糞便等臨床検体の抗酸染色、コーン染色といった古典的な手技と顕微鏡像に習熟している必要があった。後述の水道検査用に導入された蛍光抗体染色は、感度が高く短時間での検査が可能で、臨床検体にも使われ始めた。糞便の直接スメアを作り、蛍光抗体を数分間反応させるだけで、糞便に多量に排出されるクリプトスポリジウムのオーシストやジアルジアのシストを蛍光顕微鏡下に感度よく探し出し、微分干渉観察で形態を確認することができる(図1および図2)。安全性の向上と夾雑物の低減目的にホルマリン-酢酸エチル法(FEA法、あるいはMGL変法)による固定と濃縮も行われる。抗原検出と遺伝子検出は2011(平成23)年4月1日に届出基準に加えられ、検査法の幅が広がった(平成23年3月4日、健感発0304第1号 結核感染症課長通知)。つまり、PCRやLAMP、ELISA、イムノクロマト等の方法が使用可能になった。遺伝子検出では、糞便とホルマリン固定によるPCR阻害を回避する必要があり、冷蔵あるいは冷凍の糞便試料より、糞便用核酸抽出試薬や、免疫磁気ビーズを使用した精製が行われる。蛍光抗体、ELISA、イムノクロマトといった抗原検出法、PCRやLAMPの遺伝子検査法の、研究用や水試料用の検査試薬が市販されており、保険点数がなく性能も保証されないが、検査に有用である。感染症法に基づいて感染症の報告がなされる際の検査の標準化のために、全国地方衛生研究所と国立感染症研究所の共同作業で病原体検出マニュアルが作成され、その一環としてクリプトスポリジウム等の原虫類を対象としたマニュアルが整備されている(クリプトスポリジウム症・ジアルジア症等の原虫性下症、http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/CryptosporGiardia.pdf、2014年7月6日現在)。 

原因細菌やウイルスなどが検出されない下痢症の場合に、クリプトスポリジウム等原虫類を対象とした糞便検査が推奨される。原虫感染に起因する下痢症(赤痢アメーバ症を除く)は、いずれもさまざまな程度の非血性水様下痢を主症状としており、臨床所見からの区別は困難である。以下のケースでは原虫性下痢症を検討対象とすべきである。

1.原因となる細菌やウイルスなどが検出されない下痢症の場合

2.海外旅行者の下痢症で、既知の腸管病原体を検出した症例にあってなお、説明のできない腹部症状を持続する場合(重複感染の恐れ)

3.集団下痢症にあって通常の病原体が検出されない場合

4.免疫不全患者にあって長期間持続する原因不明の下痢症の場合

クリプトスポリジウムとジアルジアは培養ができない、あるいは困難で、細菌のパルスフィールド電気泳動のような解像度は得られず、以下の通り塩基配列決定やRFLP等による遺伝子型別が行われる。クリプトスポリジウム属は、国内ではC. hominis (ヒト型)、C. parvum (ウシ型)、C. meleagridis (トリ型)の順に感染事例が多く、ヒト型、ウシ型が症例の大部分で、海外でも同様である。ヒト型はもっぱらヒトにのみ感染することから、遺伝子型は疫学調査の範囲を決めるのにとても有用である。種の決定や遺伝子型別に用いられる遺伝子は、18S rRNAやCOWP(Cryptosporidium oocyst wall protein)の一部領域が多く用いられている。従来は分子疫学的解析に苦慮していたが、60kDa glycoprotein(gp60あるいはcpgp40/15)の配列によるサブタイプ解析が導入され、特にヒト型で集団感染を分別できる程度の解像度が得られるようになった。ジアルジアは現時点で8つの遺伝子型(Assemblage A~H)に分類されている。ヒト感染はAとBがみられ、Aにはヒトと他の哺乳動物から検出されるAI、主にヒトから検出されるAII、有蹄動物(ウシ、ネコ、シカなど)と(症例は少ないが)ヒトのAIIIの、3つのサブタイプが知られている。またBには人獣共通と考えられるBIII、主にヒトから検出されるBIVの2つのサブタイプがある。ちなみにCとDはイヌ、Eはブタや反芻動物、Fはネコ、Gはマウスやラット、Hはハイイロアザラシの遺伝子型である。遺伝子型別に用いられる遺伝子は,glutamate dehydrogenase(gdh)、triose phosphate isomerase(tpi)、18S rRNA等が用いられている。ジアルジアの分子疫学的な解像度は高いものではなく、さらなる改良が求められるが、参考にはなる。

治療薬のメトロニダゾールは、公知申請により2012(平成24)年からジアルジア症、赤痢アメーバ症への保険適用がなされたところで、原虫症を鑑別診断する意味が増した。ジアルジア検査を疑って検査する場合の多くは、クリプトスポリジウム検査を同時に行える。蛍光抗体試薬の多くは抗クリプトスポリジウム抗体と抗ジアルジア抗体が混合されており、顕微鏡下で同時に検出される。同じ抽出核酸から一部を使って、別々の反応で遺伝子検出が行える。

クリプトスポリジウム(ジアルジア)は塩素耐性を有し、わずか1オーシスト(シスト)で10%(2%)程度の感染確率があり、水系感染が問題となることから、水道におけるクリプトスポリジウム等検査法が整備されている〔水道における指標菌およびクリプトスポリジウム等の検査方法について、健水発第0330006号水道課長通知(一部改正 平成24年3月2日健水発0302 第2号)〕。河川水等の原水は10L、水道水は20Lを濃縮し、次いでショ糖浮遊法あるいは免疫磁気ビーズ法で精製を行う。精製試料から蛍光抗体染色後に顕微鏡による検査、あるいは核酸抽出と遺伝子検出を行う。わずか1病原体を検出する困難な、しかし高感度な検査が行われている。従来より蛍光抗体染色法と蛍光微分干渉顕微鏡が使われ、遺伝子検出法が2012(平成24)年に追加された。1996年の大規模集団感染以降は、ジアルジア集団感染(本号7ページ参照)を除き、感染者の報告はなかった(本号3ページ参照)。しかし水道水からクリプトスポリジウム等が検出されて煮沸勧告や給水停止の社会的な混乱を招くことがあり、水道での一層の対策が求められている。従来の水道では食品(検食制度)と異なり、試料の保存がされていなかったが、現在は水道水あるいは濃縮試料の保存が推奨されている。万一の際に保存試料がなければ、貯水槽、氷、除去フィルター等の試料からクリプトスポリジウム等の検出を試みることになる。

糞口感染することから性的接触や食品を介した感染経路もあり、食中毒事件票における食中毒病因物質の分類『22その他の寄生虫』には「クリプトスポリジウム、サイクロスポラ」等と例示されている(食中毒統計作成要領、平成6年 12 月 28 日 衛食第 218 号、平成 24 年 12 月 28 日一部改正 食安監発 1228 第1号)。サイクロスポラはUVの励起光で青い自家蛍光を発することから、無染色で蛍光微分干渉顕微鏡下に検出が可能である(図3)。

 

国立感染症研究所寄生動物部 泉山信司 八木田健司

 

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