国立感染症研究所

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コミュニティセンター設置によるMSM(men who have sex with men)に向けたHIV/AIDS啓発普及活動

(IASR Vol. 35 p. 208-210: 2014年9月号)

MSM(men who have sex with men)におけるHIV感染拡大を背景に、厚生労働省(厚労省)はMSMへのエイズ対策を促進するために、CBO(Community Based Organization)の啓発活動拠点として「コミュニティセンター」(以下、センター)を設置した。CBOは、MSM向け商業施設が集積する地域で、これらの施設と連携した啓発活動に取り組んでいる。センターは、2003年に大阪に「dista」、東京に「akta」が開設され、その後名古屋に「rise」、福岡に「haco」、仙台に「ZEL」、那覇に「mabui」が開設された。2011年からは公益財団法人エイズ予防財団が事業を受託し、当事者CBOが中心となって6地域でセンターを運営し、MSMを対象とした啓発普及を行っている。ここでは、新規のHIV陽性者報告の52%を占める関東・甲信越地域で、商業施設が密集したアジア最大のゲイタウンと呼ばれる東京・新宿2丁目の街の中にある「コミュニティセンターakta」(http://www.akta.jp)の取り組みを紹介する。

 センターは週末を含む週5日開館し、MSMを中心とした専従スタッフを配置して、来場者にHIV/AIDSの予防・検査・支援等の情報を提供している。またフリースペースを開放することで、HIV/AIDSに関心の薄い層を誘致する啓発イベントが企画され、HIV関連情報に接触する機会をつくりだしている。同時にセクシャリティへの理解を前提としたピアなセーフティネット機能を担っており、年間155件の相談がある。センターはネットワークの基点となり、NGO・行政・教育・医療・関連機関と連携をはかり、集約した情報をMSMに届くように変換して商業施設やゲイコミュニティ、MSMに定期的かつ継続的に発信している。センターを基点に実施している主なプログラムは、(1)予防行動促進、(2)HIV/AIDSのリアリティの共有、(3)受検行動促進、(4)セクシャリティとセクシャルへルスの認知?理解の促進などである。

(1) 予防行動促進
毎週金曜日にオリジナルのユニフォームを着た“Delivery Boys”が、新宿2丁目のゲイバーにオリジナルパッケージのコンドームと関連情報を笑顔とともに届ける“Delivery Health Project”をはじめ、MSM向けの風俗店やイベント・メディア等と連動して仕掛ける“Safer Sex Campaign”、毎月発行の“コミュニティペーパー”や他の啓発資材の開発がある。当初、街の反応では「コンドームは避妊具。男性間で何故必要?」、「エイズの話は店ではちょっと」といった声が聞かれたが、「この街にはいつもコンドームが身近にある」、「自分の店にも置きたい」へと反応が変化した。

(2) HIV/AIDSのリアリティの共有
HIV陽性者や家族・パートナーへの支援活動を行うNPO法人「ぷれいす東京」と協働して呼びかける“Living Together(LT)計画”では、”We are already Living Together”というメッセージを掲げ、HIV陽性者や周囲の人の手記集の作成、それを用いた朗読と音楽を融合した会を多層的に継続開催している。ゲイバー等を基点とした質問紙調査によれば、HIV検査受検行動には、周囲のHIV感染者の存在認識、HIVについての対話経験が関連することが示されている1)。LTプログラムの参加者は周囲にHIV陽性者が存在していることに気づき、HIV/AIDSについて友人・知人と話をするようになる。参加者はHIV抗体検査受検割合が高いことが示されており2)、LTプログラムには受検行動を促進する効果があると考える。現在は、国内各地で、LTプログラムが導入され、モンゴルにおいてもこの手法が取り入れられている。

(3) 受検行動促進
2006~2010年まで実施された厚労省“エイズ予防のための戦略研究”では、コミュニティセンターaktaは首都圏における研究推進の拠点の役割を担った。センターが存在しなかった場合、NGO/NPOの4団体や研究者の協働によるMSMを対象とした検査普及プログラムの開発、ボランティア参加者によるアウトリーチ活動など、介入そのものの実行が不可能であったと考える。戦略研究終了後も継続して「ぷれいす東京」等と協働し、首都圏(東京、千葉、神奈川、埼玉)の自治体・保健所と連携した取り組みを行っている。受検者や陽性者への支援等を含めた検査環境を整備した上での検査普及を行うために、各行政機関との意見交換会→セクシャリティへ配慮ある検査対応の研修会→検査関連情報の集約とパッケージ化→ウェブサイト「HIVマップ」と紙媒体「ヤローページ」を通じた検査・支援情報普及といった体制で、NGO-行政連携を進めている。連携した保健所63施設をMSM向け商業施設など500カ所以上に発信し、さらにそこに集う一人ひとりに届けている。また自治体等と個別に連携し、MSMに届く資材開発と広報を行い、検査でのMSM率を確実に向上させている。

(4)セクシャリティとセクシャルへルスの認知・理解の促進
広く若者一般への啓発普及のなかにセクシャリティに配慮ある資材開発や講師派遣等を位置づけて都立高校や保健所等で実施している。

2013年3月末時点のコミュニティセンターakta累積来場者は96,399人となり、2013年度は7,255人が来館し、初来場者がその約22%を占めていた。また、新宿地域を中心に、東京の約50%の商業施設と連携して情報提供を行っている。その結果、MSM対象の質問紙調査によれば、akta発信の資材認知は、MSMの1/3~1/2の割合となっている3)。このことから、個別施策層であるMSMには、MSMの視点によるMSMに届く啓発ツールの開発および、MSMのネットワークを利用した介入が有効であることがみえる。

コミュニティセンターはすでに商業施設、メディア等を介した啓発普及、地域自治体とのエイズ対策の連携の場として機能しており(図1)、今後も継続的取り組みが求められる。MSM人口に基づくHIV/AIDS発生動向に関する報告によると4)図2)、30代、40代はHIVが減少もしくは横ばい、AIDSが増加傾向にあるが、20代の若年層ではHIVの著しい増加がみられ、この層に感染の中心がシフトして拡大していることが示唆される。しかし、こうした状況にあっても、日本国内向けのエイズ対策費は年々縮小傾向にあり、自治体・保健所のエイズ対策担当者にとってはエイズ対策事業を継続することが困難になっている。また、2011年度から6地域で本格的なコミュニティセンター事業が始まったが、この事業費も縮減が続いており、現状の活動を維持していくことも困難になりつつある。

20代層への感染のシフト、インターネットによる性的なコミュニケーションの活発化、アジア地域のMSMでのHIV感染とゲイツーリズムによる感染拡大、滞日外国人MSMでの感染者の増加など、多様な課題が山積している。コミュニティセンターは、対面でのネットワークや紙媒体による介入と、ゲイ向けSNS等に対応したインターネット上での介入の双方を実現していくことが必要であり、MSM向けHIV/AIDS啓発普及の取り組みは、ますます多様なものとなっていく必要がある。

 

参考文献
  1. 塩野徳史, 他, 日本公衛誌 60(6): 639-650, 2013
  2. 木村博和, 他, 平成21年度厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)総括・分担研究報告書,男性同性間のHIV感染対策とその介入効果に関する研究(研究代表者 市川誠一), 170-181
  3. 市川誠一, 他, 平成25年度厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)総括・分担研究報告書, MSMのHIV感染対策の企画、実施、評価の体制整備に関する研究(研究代表者 市川誠一), 53-96
  4. 多田有希, 他, 平成24年度厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)総括・分担研究報告書, MSMのHIV感染対策の企画、実施、評価の体制整備に関する研究(研究代表者 市川誠一), 191-230
コミュニティセンターakta センター長
NPO法人akta理事長 荒木順子

 

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