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小児の侵襲性感染症患者から分離されたHaemophilus influenzae の莢膜型別解析について:国内外の動向

(IASR Vol. 35 p. 231-232: 2014年10月号)

はじめに
小児の侵襲性感染症患者から分離されたインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の莢膜型別解析結果について国内外の動向を述べる。

莢膜とは、細菌の表面を覆う多糖で、電子顕微鏡観察においては、細菌の膜の外側に層をなして存在している(IASR 34: 191, 2013)。宿主は、血液中に侵入してきた細菌を溶菌する補体殺菌という防御機構を持っているが、莢膜は、補体による溶菌に対抗する細菌側の因子である。そのため、莢膜を有する菌株は、侵襲性感染症(菌血症、髄膜炎など本来無菌的な部位に菌が侵入することで起こる疾患)の起因菌となりうる。わが国においては、H. influenzae 莢膜b型株(Hib)に対するワクチンの任意接種が2008年12月に開始され、2010年11月に公費助成の対象(5歳未満)となり、2014年4月に定期接種に組み込まれた。Hibワクチンに抗原が含まれていない莢膜a, c, d, e, f型株(Hia, Hic, Hid, Hie, Hif) は、ワクチン普及以前には小児の侵襲性感染症の主な起因菌では無かったものの、Hibワクチンが普及した現在、新たな小児の侵襲性感染症の起因菌として注目されはじめている。

国内におけるHibの減少とHifの分離報告
2007年4月~2014年6月までの間に福島、新潟、千葉、三重、岡山、高知、福岡、鹿児島、沖縄の9県において小児の侵襲性感染症患者の血液・髄液・関節液から分離されたH. influenzaeについて莢膜型別解析を実施した1-3)ならびにに解析結果を示す。調査を開始した2007年は分離株数が少ない。2008年以降に顕著なのは、Hibワクチンが公的助成の対象となった2011年以降のHib分離株数の減少である(2013年2月までの結果はIASR 34: 195-197, 2013に掲載4))。最近のHib分離株数は、2013年に1件、2014年1~6月に0件と、極端に少ないか無い状態が継続している。Hib以外では、non-typable H. influenzae(NTHi)株(a~f型までのいずれの抗血清とも菌凝集反応を呈さず型別が不能な株)がHibワクチン導入前後において分離されているが、最近の分離株数は、2013年に1件、2014年1~6月に3件と少ない。他の莢膜型株は、対象とする9県では分離例が報告されていない。

一方、2012~2013年には、少なくとも香川県、愛知県、神奈川県において、Hifがそれぞれ1株ずつ小児の侵襲性感染症患者から分離されている。 

海外におけるHia, Hie, Hifによる侵襲性感染症の新興
欧州のEngland・Walesからの報告によると、2001~2010年の10年間、H. influenzaeによる侵襲性感染症におけるHif罹患率(小児と成人)は、年11%の増加率を示し、2009~2010年には、患者の7.6%からHifが、また2.6%からHieが分離された(5.4%からHibが、56.1%からNTHiも分離されている)。人口10万人当たりの罹患率は、Hif  0.090 (95% CI 0.073-1.10) ならびにHie 0.030 (95% CI 0.021-0.042)であった5)。北米・南米においては、少なくともアラスカ、カナダ、アメリカ、ブラジルにおいてHiaによる侵襲性感染症の新興が報告されており、地域差があるものの、カナダのManitobaで30%からHiaが、4%からHifが分離されている6)

 わが国では、2013年4月以降、侵襲性インフルエンザ菌感染症の全症例報告が実施されている。分離株の莢膜型別情報の収集は、流行株の把握、今後の本感染症の流行予測ならびにワクチン開発にとって重要である。

謝辞:本解析は、厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)、Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究班において実施したものです[班員の方々:菅 秀、庵原俊昭、浅田和豊、中野貴司、神谷 齋(国立病院機構三重病院)、細矢光亮、陶山和秀(福島県立医科大学)、石和田稔彦(千葉大学)、鳥谷部真一、内山 聖、大石智洋、齋藤昭彦(新潟大学)、小田 慈(岡山大学)、脇口宏、佐藤哲也(高知大学)、岡田賢司(国立病院機構福岡病院)、西 順一郎(鹿児島大学)、安慶田英樹(沖縄県立南部医療センター)]1-3)。愛知県、神奈川県からの分離株を分与いただきました石和田稔彦氏、ならびに、菌株分離情報をいただきました市・県のご担当者の方々、とりわけ香川県環境保健研究センターの有塚真弓氏に感謝いたします。


参考文献
  1. 厚生労働科学研究費補助金、新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業、新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究、平成22年度~24年度総合研究報告書: p69-80, 2013
  2. 厚生労働科学研究費補助金、新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業、Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究、平成25年度総括・分担研究報告書: p53-62, 2014
  3. Ishiwada N, et al., Vaccine (in press), 2014 DOI: 10.1016/j.vaccine.2014.07.100
  4. 佐々木裕子, 他, IASR 34: 195-197, 2013
  5. Ladhani SN, et al., Emerg Infect Dis 18: 725-732, 2012
  6. Ulanova M., et al., Lancet Infect Dis 14: 70-82, 2014

国立感染症研究所細菌第二部 佐々木裕子 増田まり子 久保田眞由美 見理 剛 柴山恵吾
 

 

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