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小児における侵襲性インフルエンザ菌、肺炎球菌感染症:2013年

(IASR Vol. 35 p. 233-234: 2014年10月号)

はじめに
インフルエンザ菌、肺炎球菌、B群レンサ球菌(GBS)はいずれも細菌性髄膜炎など特に年少児で重篤な疾病の原因となる頻度の高い細菌である。インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b, Hib )と肺炎球菌については、2008年12月および2010年2月より、わが国でも結合型ワクチンが販売開始され、2011年に入り多くの自治体では公費助成で接種可能になった。2013年4月より定期接種に導入され生後2か月より接種が行われている。我々は、厚生労働科学研究事業研究班(神谷班、庵原・神谷班)として、小児侵襲性細菌感染症のアクティブサーベイランスを2007年より継続して実施している。今回は公費助成開始3年後の2013年までにワクチンが及ぼしたインパクトについて報告する。

調査方法
調査対象地域は、北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県の10道県である。報告対象とした患者は、生後0日~15歳未満で、インフルエンザ菌、肺炎球菌、GBSによる侵襲性感染症に罹患した全例とした。罹患率の算出には、総務省統計局発表の各年10月1日時点の県別推計人口を用いた。ワクチン導入後の罹患率の変化を評価するために、2008~2010年の罹患率をベースとして、2013年における罹患率の減少率を計算した。菌の同定・血清型判定は、国立感染症研究所で実施し、血清型分布の変化につき検討を行った。

結 果
2013年1~12月に各県より報告された5歳未満の患者数は、10道県合計でそれぞれHib髄膜炎2例、 Hib非髄膜炎感染症1例、肺炎球菌髄膜炎13例、肺炎球菌非髄膜炎感染症96例、GBS髄膜炎11例、GBS非髄膜炎感染症23例であった。上記の報告数より、各疾患の5歳未満人口10万人当たりの罹患率を算出し、ワクチン公費助成前3年間(2008~2010年)の罹患率からの減少率を検討した(表1)。侵襲性Hib感染症(IHD)罹患率は、髄膜炎0.17、非髄膜炎0.10であり、2013年の減少率は98%であった。侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)罹患率に関しては、髄膜炎1.10、非髄膜炎9.71であり、それぞれ61%、56%の減少率であった。GBS感染症は髄膜炎で減少傾向(28%)であったが、非髄膜炎では102%の増加であった。

IPD 109症例のうち血清型が判明したのは94症例(86%)であった。19Aが最も多く42例、次いで24F(12例)、15A(9例)、15C(8例)、10A(5例)であった(表2)。血清型のワクチンカバー率を計算した。7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)に含まれる血清型(vaccine serotype: VT)は4例(4%)であり、ワクチンでカバーされない血清型(non-vaccine serotype: nVT)が90例(96%)を占めた。13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)のVTは50例(53%)であった。

Non typableインフルエンザ菌感染症は、2013年は2例が報告された。1歳4か月男児の髄膜炎と3歳2か月男児の肺炎であった。いずれもHibワクチンの接種を受けていた(3回、4回)。

5歳以上15歳未満小児IHD、IPD罹患状況に関しても調査を実施した。2008~2013年の6年間で、IHD 29例、IPD 63例が報告された。基礎疾患保有率は51.7%、61.9%であり、5歳未満の9.2%、15.5%と比較して有意に高率であった(p<0.0001)。ワクチン接種後罹患例は、IHDでは0例、IPDでは7例(PCV7 4例、PPV23 3例)であった。2013年の罹患率は、0.04、0.20であり、2008~2010年の平均罹患率0.24、0.52と比較し、83%、61%の減少率であった。

考 察
小児用結合型ワクチン導入によりIHD、IPDが有意に減少したことが明らかになった。しかしながら、IPDにおいては、nVTの増加が顕著であり、それに伴いIPD罹患率の減少は2012~2013年にかけて、ほぼプラトーに留まった。今後は、より幅広い血清型をカバーするPCV13の接種率向上に努める必要がある。ワクチン効果を正確に評価するために、疫学状況、分離菌血清型の変化などについて今後も継続して検討することが重要と考える。

また、ワクチン導入により、5歳以上15歳未満のIHD、IPD罹患率も低下する間接効果が認められた。5歳以上の罹患者では半数以上が何らかの基礎疾患を有しており、ハイリスク群への有効なワクチン接種戦略を確立することも今後の課題である。

 
国立病院機構三重病院小児科 菅 秀 庵原俊昭 浅田和豊       
札幌市立大学 富樫武弘       
福島県立医科大学 細矢光亮 陶山和秀       
千葉大学 石和田稔彦       
新潟大学 齋藤昭彦 大石智洋       
岡山大学 小田 慈       
高知大学 脇口 宏 寺内芳彦       
福岡歯科大学 岡田賢司       
鹿児島大学 西 順一郎       
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 安慶田英樹       
国立感染症研究所 柴山恵吾 常 彬
 

 

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