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小児侵襲性肺炎球菌感染症由来菌株の細菌学的解析結果

(IASR Vol. 35 p. 234-236: 2014年10月号)

はじめに
肺炎球菌は中耳炎、肺炎、菌血症/敗血症、髄膜炎の原因菌である一方、ヒトの上咽頭の常在菌としても存在している。肺炎球菌が無菌部位検体から検出される感染症(髄膜炎、菌血症など)は侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)と呼ばれる。

小児IPDはすでにワクチン接種により予防可能な疾患となっている。我々は2007年度から始まった「ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究」班において、沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の効果を明らかにするために、10道県の小児の人口当たりのIPD罹患率に関する調査を行ってきた1)。そして昨年、研究班で収集した2012年までの小児 IPD由来肺炎球菌の解析結果を本誌に発表した2)。その結果、公費助成開始以降、PCV7に含まれている肺炎球菌の分離率が明らかに減少し、予防効果が実証された。その一方、PCV7非含有血清型の分離率が増加し、いわゆるserotype replacement3)も観察された。今回は、2013年に発生した小児IPDに由来する肺炎球菌の解析結果を中心に報告する。 

解析方法
2013年、9県に発症した小児IPD由来の肺炎球菌を収集し、血液寒天培地にて37℃、5% CO2下で一晩培養し、Statens Serum Institut製抗血清を用いて莢膜膨化法で血清型を決定した。

本文のすべての集計は症例数をもとに行った。

結 果
1.小児IPDの患者情報
2013 年の1年間に、9県のIPD症例96例から肺炎球菌を収集した。96症例のうち、髄膜炎は10例、菌血症は85例、骨髄炎は1例であった。その中の20症例は、PCV7、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV13)、および 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)のいずれについても接種歴がなかった。96症例の中で、5歳未満のIPDは92例で、5歳以上のIPD症例は4例であった。

2.2013年の小児IPD由来肺炎球菌の血清型分布
96症例のうち、2症例から分離された菌株は実験室で増殖しなかったため、94症例の肺炎球菌について細菌学的解析を行った。血清型別の結果を図1に示す。PCV7に含まれる血清型による症例は4例(血清型はそれぞれ6B、19F、4、18C)で、PCV7のカバー率は4.3% であった。これらの4例はいずれもワクチンの接種歴がなかった。PCV7のカバー率はワクチン導入される前2)に比べると、顕著に減少しているので、ワクチンの導入効果と考えられた。PCV13 のカバー率は52.1% で、すべての症例でPCV13の接種歴はなかった。そのうち、19A型肺炎球菌は41例(43.6%)から分離され、最も多かった。2013 年にはbreakthrough infection またはvaccine failureはみられなかった。

一方、PCV13 にも含まれない血清型によるIPDは45 例(47.9%)であった。24F、15A、15C、10A、33F 型肺炎球菌がそれぞれ12(12.8%)、8(8.5%)、8(8.5%)、6(6.4%)、4(4.3%)例から分離された。

3.2007年からの小児 IPD 由来肺炎球菌の血清型分布の結果のまとめ
2007年7月~2013年12月現在までの9県におけるIPDの発症時期を、PCV7の導入前(2007年7月~2010年1月)、任意接種開始後(2010年2月~2011年3月)、公費助成開始後~定期接種期(2011年4月~2013年12月)に分けて、分離された肺炎球菌の血清型別解析の結果をまとめた。2011 年4月以後のPCV7に含まれている血清型の肺炎球菌の分離が減少した。その一方、PCV7非含有血清型菌の分離率の増加がみられた(図2)。

以上の結果から、PCV7は日本においても小児IPD予防に有効であることが示された。19A型は 2013年11月に導入されたPCV13に含まれている血清型であるため、今後の減少が期待できる。しかし、24F、15A、15C、10A、33F型は小児に使用できるPCV7、PCV13および10 価肺炎球菌結合型ワクチンにも含まれていない血清型であるため、今後これらの血清型による症例が増加しないかどうか、監視が必要である。

結論と考察
我々は、PCV7導入前から同一地域における小児IPD の疫学調査を始めたため、ワクチンの効果をリアルタイムに、かつ正確に把握することができたと考えている。2013年には、PCV7に含まれる血清型の分離菌はさらに減少し、小児IPDの予防に対してワクチンの顕著な効果が証明された。一方、分離菌は小児用すべてのワクチンに含まれない血清型の割合が47.9%までに増加し、PCV13導入後のワクチン非含有タイプのさらなるserotype replacementが懸念されている。肺炎球菌には多数の血清型が存在するため、ポリサッカライドをターゲットとするワクチンには限界がある。肺炎球菌の共通抗原をターゲットとする次世代ワクチンの早期開発が必要である。

 

参考文献
  1. IASR 34: 62-63, 2013
  2. IASR 34: 64-66, 2013
  3. Jacobs MR, et al., Clin Infect Dis 47: 1388-1395, 2008
 
国立感染症研究所細菌第一部 常 彬 大西 真            
国立病院機構三重病院小児科 庵原俊昭 
 

 

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