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成人侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の臨床像と原因菌血清型分布に関する記述疫学(2013年)

(IASR Vol. 35 p. 236-238: 2014年10月号)

背景・目的
侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対するわが国のワクチン政策において、小児に対しては7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が2010年11月から公費助成(子宮頸がん等ワクチン接種促進事業)が始まった。その後、2013年4月からPCV7の小児に対する定期接種が開始され、2013年11月からはPCV7が13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に切り替わった。このような状況から、海外同様、わが国においても小児のPCV導入による集団免疫効果に伴う成人IPD原因菌の血清型置換が明らかになりつつある1)。一方、成人では1988年に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が承認され、2014年6月にPCV13が65歳以上の成人に対して適応拡大がされた。また、2014年10月からは65歳以上の成人に対するPPSV23の定期接種(B類)が予定されている。本研究の目的はPPSV23定期接種化前の2013年度におけるIPD患者の臨床像と原因菌血清型分布との関連を記述することである。

方 法
2013年4月~2014年3月までに厚生労働省研究班(成人IPD研究班)における10道県のネットワークで収集された調査票と菌株情報をもとに、成人IPDの臨床像と原因菌の血清型分布についてまとめた。

結 果
2013年度の10道県における成人IPD研究班への成人IPD登録症例数は87例、回収できた菌株は85株、調査票が回収できたのは84例、菌株と調査票がそろった症例は83例であった。なお、同時期に発生動向調査で報告された成人IPDは213例であった。83例の年齢中央値は69歳(範囲:25~93歳)、男性が49例(59%)であった。喫煙者は32例(39%うち無回答9例)、基礎疾患のある患者は58例(70%うち無回答5例)で、うち免疫不全を伴う患者は38例(46%)であった。基礎疾患の内訳は悪性腫瘍17例(20%)、ステロイド投与13例(16%)、自己免疫性疾患12例(14%)、無脾・脾臓低形成8例(10%)、慢性肝疾患8例(10%)などであった(重複あり)。免疫不全には悪性腫瘍、ステロイド投与、免疫抑制剤投与、肝移植、骨髄移植、無脾、脾臓低形成等が含まれる。PPSV23の接種歴がある患者は4例(4.8%うち無回答22例)であった。人工呼吸器管理は19例(23%)、集中治療室管理は18例(22%うち無回答1例)であった。主な病型は菌血症を伴う肺炎45例(54%うち無回答1例)、髄膜炎18例(22%うち無回答1例)、菌血症のみ14例(17%うち無回答1例)であった()。死亡例は21例(致命率25%)であったが、転帰の記載なし30例を分母に含む。また、83例において、起因菌の血清型は3型が最多で17例(20%)、次いで15Aが8例(10%)で、PCV7含有血清型、PCV13含有血清型の割合は、それぞれ14%(12/83)、46%(38/83)、PPSV23含有血清型は60%(50/83)であった。

基礎疾患の有無とその内容に関して回答のあった78例において、基礎疾患のない症例(20例)、免疫不全を伴わない基礎疾患を有する症例(20例)、免疫不全を伴う症例(38例)それぞれの原因菌株のPCV13含有血清型の割合は、それぞれ65%(13/20)、50%(10/20)、32%(12/38)であった()。また、基礎疾患のない症例の病型の割合は菌血症を伴う肺炎が60%(12/20)、菌血症が5%(1/20)であったのに対し、免疫不全を伴う症例ではそれぞれ47%(18/38)と26%(10/38)であった。

考 察
2013年度の10道県における成人IPD研究班において登録された成人のIPD患者について検討した。報告された83例のうち基礎疾患を有する症例は58例(70%)で、うち免疫不全状態であった者は38例(46%)であった。また、基礎疾患をもつ症例は原因菌としてPCV13非含有血清型の割合が高く(50%)、免疫不全患者に限定すると、この傾向はより強かった(68%)。免疫不全を伴う症例では感染巣不明の菌血症の割合が増える(26%)傾向がみられた。Lujánらは免疫不全状態と心肺系の基礎疾患を有するIPD患者においてPCV13非含有かつPPSV23非含有血清型が検出される頻度が高く、免疫不全では本来IPDを起こしにくい血清型が原因菌となっている点を指摘しており2)、本研究結果と矛盾しない。2006~2007年に実施された国内のIPD患者に関する研究において、成人IPD患者195例のうち135例(69.2%)が基礎疾患を有しており、死亡の詳細は不明なものの、基礎疾患をもつ症例では有意に致命率が高かったと報告されている3)。本研究報告例では21例が死亡しているが、うち86%が基礎疾患を有しており、先行研究の結果と一致していた。

制約として、観察期間中に小児肺炎球菌ワクチンが7価から13価に切り替わったこと、発生動向調査を通じて10道県から報告された症例数と比較し本研究への登録数が少なく過小評価となっていること、調査票に対する無回答が多いことなどが挙げられ、その影響が結果に反映されている可能性がある。

結 論
成人のIPD患者で基礎疾患を有する症例は70%と多く、46%が免疫不全患者であった。基礎疾患のない患者に比べて、免疫不全患者の原因菌としてPCV13非含有血清型の割合(68%)が高く、菌血症の病型をとる割合(26%)が高かった。今後も継続した動向把握が重要である。

謝辞:成人IPD研究班にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、地方衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

 

参考文献

  1. IASR 35: 179-181, 2014
  2. Luján M, et al., Clin Infect Dis 57: 1722-1730, 2013
  3. Chiba N, et al., Epidemiol Infect 138: 61-68,2010

 

成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究班
  西順一郎 丸山貴也 渡邊 浩 柳 哲史 高橋弘毅 武田博明 田邊嘉也 
  笠原 敬 藤田次郎 横山彰仁 山崎一美    
国立感染症研究所感染症疫学センター
  福住宗久 牧野友彦 高橋琢理 松井珠乃 石岡大成 木村博一 
  大日康史 砂川富正 大石和徳  
国立感染症研究所細菌第一部   常 彬 大西 真
国立感染症研究所真菌部 金城雄樹

 

 

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