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2013/14シーズンのインフルエンザ分離株の解析

(IASR Vol. 35 p. 254- 258: 2014年11月号)

1.流行の概要
2013/14インフルエンザシーズンは、国内では2010/11シーズン以来A(H1N1)pdm09が流行し主流となった。A(H3N2)ウイルスおよびB型も流行し、A(H3N2)の報告数は2013年第4週をピークに減少したが、B型は2013年第4週をピークに第12週までほぼ横ばいの報告数であった。またB型は、第10週以降、報告数がA型の報告数を上回った。海外においても、特に北半球ではA(H1N1)pdm09が流行の主流であった。

2013/14インフルエンザシーズンの総分離・検出報告数8,196株における型/亜型比は、A/H1pdm09が43%(3,495株)、A/H3が21%(1,733株)、B型が36%(2,968株)であった。B型はB/Yamagata/16/1988に代表されるYamagata(山形)系統とB/Victoria/2/1987に代表されるVictoria系統の混合流行で、その割合は約7:3であった。海外においてもYamagata系統の割合が多い傾向がみられた。

2.各亜型の流行株の抗原性解析
2013/14シーズンに全国の地方衛生研究所(地衛研)で分離されたウイルス株は、各地衛研において、国立感染症研究所(感染研)から配布された孵化鶏卵(卵)分離のワクチン株で作製された同定用キット[A/California/7/2009 (H1N1)pdm09、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/02/2012(Yamagata系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)]を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によって、型・亜型・系統同定が行われた。感染研では、感染症サーベイランスシステム(NESID)経由で情報を収集し、地衛研で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に選択し、分与を受けた。地衛研から分与された株についてフェレット感染血清を用いたHI試験により詳細な抗原性解析を実施した。

2-1)A(H1N1)pdm09ウイルス
抗原性解析:6種類のフェレット感染血清を用いて、国内および海外(台湾、モンゴル、ラオス、ネパール)で分離された255株について抗原性解析を行った。その結果、解析した分離株のほぼすべてがワクチン株A/California/7/2009に抗原性が類似しており、国内で分離された1株のみA/California/7/2009の抗血清に対してのHI価がホモ価に比して8倍以上低下した抗原変異株であった。この抗原変異株は、赤血球凝集素(HA)タンパク質の抗原領域Saの 153-157番目にアミノ酸置換をもっていたが、臨床検体中のウイルスからはこの領域のアミノ酸置換は検出されなかった。したがって、これらのアミノ酸置換はMDCK細胞でのウイルス分離過程にて出現、選択されたと考えられた。

遺伝子系統樹解析:HA遺伝子系統樹上でクレード1~8の8つに区分されており、クレード6はさらにサブクレード6A、6B、6Cに細分される。2013/14シーズンの国内分離株はすべてサブクレード6Bまたは6Cに属しており、流行の主流はクレード6Bであった(図1)。これらの株は、遺伝子的には異なるクレード/サブクレードではあるが抗原性に違いはなく、すべてワクチン株A/California/7/2009類似株であった。HI試験で抗原変異株と同定された1株は、クレード6Bに分類された。

一方、後述するが(「3.抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状」を参照)、NAタンパク質にオセルタミビルおよびペラミビルに対する耐性マーカーのアミノ酸置換H275Yを有する株が全国で散見された(総検査株の4.2%)が、これらはいずれもワクチン株A/California/7/2009類似株であり、また、遺伝子系統樹内での特定の集団形成は認められなかった。

2-2)A(H3N2)ウイルス
抗原性解析:国内および海外(台湾、モンゴル、ラオス)で分離された244株について、8種類のフェレット感染血清を用いて抗原性解析を行った。解析した分離株は遺伝子系統樹的にはクレード3C.2および3C.3に属する(図2)が、ワクチン株A/Texas/50/2012(クレード3C.1)の抗血清とのHI反応性がホモ価に比して8倍以上低下している株は認められなかった。一方、クレード3C.3に属するA/Tokyo/31512/2013株(2014/15シーズンのワクチン株A/New York/39/2012の類似株)に対するフェレット抗血清とのHI反応性は、クレード3C.2および3C.3からそれぞれ派生したサブクレード3C.2aおよび3C.3a(図2、後述の遺伝子系統樹解析参照)に属する株は、ホモ価に対して2~8倍低下していた。これらのサブクレードに属する抗原変異株群は、2014年2月以降から増えてきており、諸外国においても広がる傾向がみられていることから、今後の動向に注意が必要と考えられる。

遺伝子系統樹解析:HA遺伝子系統樹においてクレード3Cはサブクレード3C.1、3C.2、3C.3に分かれている(図2)。国内分離株は、クレード3C.2(アミノ酸置換:N145S、D489N)または3C.3(アミノ酸置換:T128A、R142G、N145S、代表株:A/New York/39/2012株、A/Tokyo/31512/2013株)に属した。さらにサブクレード3C.2内には3C.2a(アミノ酸置換:L3I、N144S、 K160T、 N255D、Q311H、F159Y)が、3C.3内には3C.3a(アミノ酸置換:A138S、F159Y、N225D)、および3C.3b(アミノ酸置換:E62K、K83R、M347K)の新たな集団形成が認められた。

2-3)B型ウイルス:
抗原性解析:国内および海外(台湾、ラオス、ネパール)から収集した分離株のうち、Victoria系統の104株については5~8種類のフェレット感染血清を用いて、Yamagata系統の163株については8種類のフェレット感染血清を用いて抗原性解析を実施した。その結果、Yamagata系統解析株の98%が2013/14シーズンに採用されたワクチン株B/Massachusetts/02/2012に抗原性が類似していた。Victoria系統解析株はすべてが2011/12シーズンのワクチン株B/Brisbane/60/2008に抗原性が類似していた。

遺伝子系統樹解析:Yamagata系統では、分離株はHAタンパク質にS150I、N165Y、S229Dアミノ酸置換を持つクレード3(代表株:B/Wisconsin/01/2010株、B/Sakai/36/2011株)が主流であった(72%)(図3)。一部の株(28%)は、R48K、P108A、T181A、S229G アミノ酸置換を持つクレード2(代表株:B/Massachusetts/02/2012株、B/Kanagawa/37/2011株)に属した。クレード3に属する分離株にはYamagata系統とVictoria系統のリアソータント株(HA: Yamagata系統、NA: Victoria系統)も散発的に検出された。クレード2、3に 明確な抗原性の違いは認められないが、クレード2に属する株は、クレード3に属するB/Wisconsin/01/2010株(細胞分離株)抗血清に対し2~4倍のHI価の低下を示す傾向にあった。

Victoria系統では、分離株はすべて、HAタンパク質にN75L、N165K, S172Pアミノ酸置換を持つクレード1に属した(図4)。クレード1は、B/Brisbane/60/2008株、B/Sakai/43/2008株を代表とするサブクレード1Aと、L58Pアミノ酸置換を持つサブクレード1B (代表株:B/Shizuoka/57/2011株)に区分されるが、今シーズンの分離株はすべてサブクレード1Aに属した。

3.抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状
季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬としては、M2阻害剤アマンタジン(商品名シンメトレル)および4種類のノイラミニダーゼ(NA)阻害剤オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)、ラニナミビル(商品名イナビル)が承認されている。しかし、M2阻害剤はB型ウイルスに対して無効であり、さらに現在、国内外で流行しているA(H1N1)pdm09ウイルスおよびA(H3N2)ウイルスは、M2阻害剤に対して耐性を示すため、インフルエンザの治療には、主にNA阻害剤が使用されている。日本はNA阻害剤を多用していることから、薬剤耐性株の検出状況を継続的に監視し、国や地方自治体、医療機関およびWHOに対して迅速に情報提供することは公衆衛生上非常に重要である。そこで感染研では全国の地衛研と共同で、抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスを実施している。

A(H1N1)pdm09ウイルスについては、地衛研においてNA遺伝子解析によるオセルタミビル・ペラミビル耐性変異H275Yの検出を行い、感染研において上記4薬剤に対する感受性試験を実施した。A(H3N2)ウイルスおよびB型ウイルスについては、地衛研から感染研に分与された全分離株について4薬剤に対する感受性試験を行った。

3-1)A(H1N1)pdm09ウイルス
2013/14シーズンは、国内で分離された2,524株について解析を行った。その結果、105株(4.2%)がH275Y耐性変異をもち、オセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示した。2013年11月~2014年2月には、札幌市を中心とする北海道内でH275Y耐性変異ウイルスの地域流行があった(IASR35: 42-43、2014)。すなわち、北海道内における耐性ウイルスの検出率は28%にのぼり、北海道外における検出率2.8%と比べ高率であった。また、2014年4月には広島県で、オセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示し、ザナミビルおよびラニナミビルに対する感受性も低下したH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスが1株検出されたが(IASR35: 176-177, 2014)、それ以上の広がりは認められなかった。海外(ラオス、モンゴル、ネパール、台湾)で分離された55株については、すべての株が4薬剤に対して感受性を示し、耐性株は検出されなかった。

また、M2阻害剤に対する耐性変異について国内株43株のM2遺伝子解析を行ったところ、すべての株がM2阻害剤耐性変異(S31N)をもっていた。

3-2)A(H3N2)ウイルス
国内で分離された299株および海外(ラオス、ネパール、モンゴル、台湾)で分離された46株について解析を行った結果、すべての解析株は4薬剤に対して感受性を示し、耐性株は検出されなかった。また、M2遺伝子解析を行った国内株4株はいずれもM2阻害剤耐性変異(S31N)をもっていた。

3-3)B型ウイルス 
国内で分離された298株および海外(ネパール、台湾、ベトナム)で分離された12株について解析を行った結果、すべての解析株は4薬剤に対して感受性を示し、耐性株は検出されなかった。

本研究は「厚生労働省感染症発生動向調査に基づくインフルエンザサーベイランス」事業として全国76地衛研との共同研究として行われた。また、ワクチン株選定にあたっては、ワクチン接種前後のヒト血清中の抗体と流行株との反応性の評価のために、新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野・齋藤玲子教授の協力を得た。海外からの情報はWHOインフルエンザ協力センター(米CDC、英国立医学研究所、豪WHO協力センター、中国CDC)から提供された。本稿に掲載した成績は全解析成績の中から抜粋したものであり、その他の成績はNESIDの病原体検出情報システムにより毎週地衛研に還元されている。また、本稿は上記研究事業の遂行にあたり、地方衛生研究所全国協議会と感染研との合意事項に基づく情報還元である。

国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター第一室・WHOインフルエンザ協力センター
    中村一哉 藤崎誠一郎 白倉雅之 高下恵美 岸田典子 徐 紅 佐藤 彩 菅原裕美
    土井輝子 伊東玲子 江島美穂 三浦 舞 今井正樹 田代眞人 渡邉真治 小田切孝人 
地方衛生研究所インフルエンザ株サーベイランスグループ
 

 

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