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2012/13シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2013/14シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況―2013年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 35 p. 264-267: 2014年11月号)

はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする事業として実施されてきたが、感受性調査(血清疫学調査)に関しては2013年4月から予防接種法に基づく調査となった。毎年、この調査は全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施しており、そのうちのインフルエンザ感受性調査は、インフルエンザの本格的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の検討等の注意喚起、ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的として実施している。

対象と方法
2013年度の感受性調査は、北海道、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の25都道府県から各198名、合計4,950名を対象として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県に加え、宮城県、香川県、福岡県でも実施された)。インフルエンザに対する抗体価の測定は、対象者から採取された血清を用い、調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。採血時期は原則として2013年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また、HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、このうち(1)~(3)は2013/14シーズンにおけるインフルエンザのワクチン株として選ばれたウイルス、(4)は2013/14シーズンのワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが、2009/10~2011/12シーズンにおけるB型のワクチン株として選ばれたウイルスである。

 (1)A/カリフォルニア/7/2009[A(H1N1)pdm09亜型]
 (2)A/テキサス/50/2012[A(H3N2)亜型]
 (3)B/マサチュセッツ/2/2012[B型(山形系統)]
 (4)B/ブリスベン/60/2008[B型(ビクトリア系統)]

結 果
1)2012/13シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況
2013年度の調査において2012/13シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ、7,743名の結果が得られた。図1には1回接種者、2回接種者、回数不明接種者、未接種者、接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した(上段:接種歴不明者を含む、下段:接種歴不明者を含まない)。接種歴が不明であった者はすべての年齢層で1~2割程度存在し、これら接種歴不明者を除いた6,751名についてみると、1回以上の接種歴を有していたのは全体で55%(1回接種者:31%、2回接種者:14%、回数不明接種者:10%)であった。年齢あるいは年齢群別でみると、0歳はほとんどが未接種者であり、1歳で1回以上の接種歴があった者は約3割程度であったが、2歳以降は多くの年齢層で半数以上に1回以上の接種歴があった。とくに2~9歳では約7割、70歳以上群では約8割の者に1回以上の接種歴があった。また、日本では13歳未満に2回の接種が推奨されているが、1~12歳の2回接種者の割合は他の年齢層と比較して高く、接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)の中では69~90%が2回接種者であった(他の年齢層:2~54%)。

2)2013/14シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況
2013年度は合計で6,571名の対象者について結果が報告された。対象者の年齢群別内訳は、0~4歳群:815名、5~9歳群:514名、10~14歳群:560名、15~19歳群:550名、20~24歳群:485名、25~29歳群:545名、30~34歳群:484名、35~39歳群:503名、40~44歳群:472名、45~49歳群:404名、50~54歳群:426名、55~59歳群:346名、60~64歳群:292名、65~69歳群:110名、70歳以上群:65名であった。図2には調査株別の年齢群別インフルエンザ抗体保有状況を示した。なお、本稿における抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率とした。

A(H1N1)pdm09亜型:A/カリフォルニア/7/2009に対する抗体保有率を年齢群別にみると、0~4歳群および50代後半以上の各年齢群では概ね20~30%であり、中でも0~4歳群および60~64歳群は前後の年齢群と比較して抗体保有率が低かった。また、30代~50代前半の各年齢群では概ね40%程度であったのに対し、5~29歳の各年齢群では50%以上の抗体保有率を示した。とくに10代と20代前半の年齢群では70%以上の抗体保有率であり、15~19歳群で最も高かった。

A(H3N2)亜型:A/テキサス/50/2012についてみると、5~24歳の各年齢群の抗体保有率が他の年齢群と比較して高い傾向や、0~4歳群および60~64歳群の抗体保有率が低い傾向は、A(H1N1)pdm09亜型と同様であったが、抗体保有率のピークはA(H1N1)pdm09亜型より年少側の10~14歳群であった。また、35~39歳群および65歳以上の各年齢群でも50%以上の抗体保有率を示し、年齢群間の差はA(H1N1)pdm09亜型ほど顕著ではなかった。

一方、B型についてみると、山形系統:B/マサチュセッツ/2/2012では20~24歳群をピークに15~29歳の各年齢群で50%以上の抗体保有率であった。しかし、それ以外の年齢群では、10~14歳群および30~50代前半の各年齢群で概ね40%程度、5~9歳群および50代後半以上の各年齢群で概ね20~30%であり、0~4歳群では約10%と低い抗体保有率であった。

ビクトリア系統:B/ブリスベン/60/2008に対する抗体保有率についてみると、0~4歳群および60~64歳群では他の年齢群と比較して低い傾向がみられたが、抗体保有率が最も高かったのは35~39歳群であり、他の調査株と異なる傾向がみられた。

3)インフルエンザ抗体保有状況の年度別比較
過去5年度分のインフルエンザ抗体保有状況について図3に示した。

A(H1N1)pdm09 亜型は2009年度から5年続けて同じ調査株が用いられ、2009年度はほとんどの年齢群で20%未満(多くは10%未満)の抗体保有率であったが、2010年度はすべての年齢群で上昇(9~62ポイント)し、とくに5~24歳の各年齢群では40ポイント以上の上昇がみられた。さらに2011年度もすべての年齢群で上昇(4~21ポイント)がみられ、2012年度以降は多くの年齢群で2011年度とほぼ同等の抗体保有率であった。

A(H3N2) 亜型については、5年で4つの調査株が用いられていることから一概に比較することはできないが、前年度と同じ調査株であった2011年度は、すべての年齢群で前年度よりも抗体保有率が上昇(3~18ポイント)していた。一方、2013年度は前年度から調査株が変更となったにもかかわらず、ほとんどの年齢群で前年度より抗体保有率の上昇(2~24ポイント)がみられた。

B型の山形系統は2009~2010年度、2011~2012年度でそれぞれ同じ調査株が用いられたが、前者においては2009年度より2010年度の抗体保有率がすべての年齢群で低下(-11~-36ポイント)し、後者においてはほとんどの年齢群で2011年度より2012年度の抗体保有率が上昇(3~28ポイント)していた。また、2013年度の調査株は前年度から変更されたが、すべての年齢群で抗体保有率の上昇(1~19ポイント)がみられた。

ビクトリア系統については、2009~2013年度の調査株は同じであり、2010~2011年度は多くの年齢群で前年度と比較して抗体保有率が上昇(2010年度:1~12ポイント、2011年度:3~29ポイント)し、2012年度は約半数の年齢群で抗体保有率の上昇(2~13ポイント)がみられた。しかし、2013年度はほとんどの年齢群で前年度より抗体保有率が低下(-3~-15ポイント)していた。

考 察
インフルエンザの抗体保有率上昇に影響を及ぼす要因として、まずワクチン接種があげられるが、前シーズンに受けたワクチン(主に前年10~12月に接種)の効果は当該年度の調査結果(主に7~9月に採血した血清を使用)からはみられない可能性がある。また、調査以前のシーズンにおけるインフルエンザウイルスの流行状況も重要な要因の1つであり、とくに学校等の集団生活においてインフルエンザウイルスに曝露される頻度が高いと考えられる年齢層(5~24歳)では、その影響は大きいと推察される。一方、抗体保有率が低下する要因としては、近年、その型の流行がほとんどみられていないことや、ワクチン株の変更にともなう調査株の変更により、以前の流行株に対する抗体との反応性が低くなったことが考えられる。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有率は2010年度および2011年度の調査においてそれぞれ前年度より上昇し、とくに5~24歳の各年齢群で他の年齢群と比較して高い傾向がみられた。両年度にみられた傾向は、2009/10シーズンおよび2010/11シーズンにおける同亜型(A/カリフォルニア/7/2009類似株)の流行による影響が考えられた。しかし、同亜型の流行がほとんどみられなかった2011/12シーズンおよび2012/13シーズン後に実施された2012年度および2013年度の調査においても、多くの年齢群で2011年度と同程度の抗体保有率であった。これは、以前の感染あるいはワクチン接種により獲得した免疫が、同じワクチン株が連続して用いられたことで増強され、抗体保有が持続していた可能性が考えられた。

A(H3N2)亜型についてみると、2011/12~2012/13シーズンにおける同亜型の流行はA/ビクトリア/361/2011類似株が主流であり、2012年度の調査では同ウイルス株が用いられたにもかかわらず前年度から抗体保有率の上昇がみられなかった。一方、ワクチン株の変更により調査株がA/テキサス/50/2012に変更された2013年度の調査では、ほとんどの年齢群で前年度より抗体保有率が上昇していた。これは、卵馴化によるワクチン株(調査株)の抗原変異の影響と考えられ、すなわち、両シーズンの流行株(A/ビクトリア/361/2011類似株)に対する抗体との反応性が2012年度の調査株と比較して2013年度の調査株は高いことが原因として考えられた。

B型の山形系統においては、連続して同じ株が用いられた調査のうち2009年度から2010年度の抗体保有率の低下は2009/10シーズンに同系統の流行がほとんどなかったことが原因と考えられた。一方、2011年度から2012年度の抗体保有率の上昇は2011/12シーズンにみられた同系統(B/ウィスコンシン/1/2010類似株)の流行の影響が考えられた。また、2013年度も前年度と比較して抗体保有率の上昇がみられたが、これは2012/13シーズンにおける同系統の流行(遺伝子系統樹解析によりB/マサチュセッツ/2/2012に類似)が影響したと考えられた。

B型のビクトリア系統については、2010/11~2011/12シーズンにおける同系統(B/ブリスベン/60/2008類似株)の流行ならびに2009/10~2011/12シーズンに同じワクチン株が連続して用いられたことが2010~2012年度の抗体保有率の上昇に影響したと考えられた。一方、2012/13シーズンは同系統の流行規模が小さく、また、同シーズンにおけるB型のワクチン株は山形系統であったことが、2013年度の抗体保有率の低下に影響したと考えられた。

おわりに
今シーズン(2014/15シーズン)はA(H3N2)亜型のワクチン株が変更され、A(H1N1)pdm09亜型:A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)、A(H3N2)亜型:A/ニューヨーク/39/2012(X-233A)、B型(山形系統):B/マサチュセッツ/2/2012(BX-51B)がワクチン株として選定され、2014年10月から接種が行われている。

2014年度の調査では、上記3株にB型(ビクトリア系統):B/ブリスベン/60/2008を加えた4つの調査株に対する抗体価測定が実施されており、速報結果は2014年11月中旬頃にWeb上(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-sokuhou/668-yosoku-rapid.html)で掲載する予定である。調査の結果、抗体保有率が低い年齢層においてはワクチン接種等の早めの予防対策が望まれる。

最後に、本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ、保健所、医療機関等、関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 
国立感染症研究所 感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳    
同 インフルエンザウイルス研究センター 中村一哉 渡邉真司 小田切孝人    
2013年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県
  北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、
  新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、
  山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県
 

 

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