国立感染症研究所

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鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の第2波について

(IASR Vol. 35 p. 271-272: 2014年11月号)

2013年3月下旬に発表された中国での鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒトへの感染(実際の初発は2013年2月19日)は、これまでに2つの感染の波を形成した。すなわち、2013年2月19日に初発が確認され4月中旬に感染報告のピークを迎えた第1波(IASR 34: 342-343, 2013)と、10月に再び感染報告があり2014年2月にそのピークを迎えた第2波である。

2014年9月時点、8月の感染確定報告以降、新しい感染は確認されていない。初発以来、感染確定患者総数は454人(死亡者数は171人)である1)が、そのうち第2波(2013年10月以降)での感染者は318人(死亡者数は127人)に上り2)、第2波での感染規模は第1波より大きかった。中国国内での感染地域は、第1波、第2波ともに中国東部から南部が中心であったが、第1波は2市8省からの報告であったのに対し、第2波では2市11省と感染者数だけでなく地域も拡大していた3)。特に広東省では、第1波では感染者は確認されなかったが、第2波では100人以上の感染が報告された3)。また、中国本土以外での感染は、第1波では台湾(1例)のみであったが、第2波では香港(10例)、台湾(3例)、マレーシア(1例)であった。いずれも中国本土で感染した人がそれぞれの国・地域に渡ったことが判明している3)

第2波での感染者の特徴は、第1波のそれとよく似ていた。すなわち、感染者は5か月齢~88歳と幅広く感染が確認されているが、年齢中央値は57歳で中高齢者への感染が多数を占めた。症状も若年層では比較的軽度であったが、中高年層では重度であることが多かった。また性別は男性218人、女性100人で男性が女性よりも多かった2)

感染経路についても第1波、第2波同様であり、約80%の感染者が家禽との接触や生鳥市場への訪問歴がある。また、感染者から分離されたウイルスと家禽や市場の環境から分離されたウイルスの遺伝的な類似性から、家禽や環境からのヒトへの感染と考えられている。懸念されているヒト―ヒト感染は、第1波、第2波をあわせて14例の家族内クラスターの感染が報告されているが、そのほとんどが家族内の2名までの感染に留まっており、効率のよいヒト―ヒト感染はまだ起こっていないと思われる4)

ウイルスの特徴としては、2つの大きな感染の波を通して抗原的な変化はみられていない。しかしながら、多数のウイルスの遺伝子解析から、H7N9ウイルスは遺伝的には複数の遺伝子タイプを含むことが明らかとなった5)。すなわち、元々1ないしは2種類ほどの遺伝子タイプ(クレード)の野鳥由来のインフルエンザウイルスが、家禽へ伝播しながら、変異を獲得あるいは様々な遺伝子タイプ(クレード)の家禽のウイルスとの遺伝子交雑を経て、ヒトに感染しやすいウイルスが出現したと考えられる。第2波でヒトから分離されたいくつかの株の遺伝子解析の結果から、哺乳動物への感染を効率よく起こすと考えられている遺伝子マーカーは、第1波で分離されたウイルスのそれらと大きく変わっておらず、いまだ馴化の過程にあるのかもしれない。しかしながら、現在アジア、中東、ヨーロッパ等で問題になっているH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは、2003年以降、約10年近くの年月で感染確定数が約650名であるが、本H7N9ウイルスは、発生から約2年ですでに感染者が400名を超えている。つまり、このウイルスはH5N1ウイルスと比べて、よりヒトに感染しやすいと考えられる。

また、本ウイルスは、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスと違い、鳥類に対しては低病原性であるため、感染しているかどうか見た目には判断できない。したがって野鳥を介して知らないうちにこのH7N9ウイルスが日本に入ってくる可能性を否定できない。また、近況ではこのH7N9ウイルスのヒトへの感染は収まっているようであるが、北半球では一般的に冬季にインフルエンザが流行することを考えると(実際、第2波は2013/14シーズンであった)、今後の中国での発生状況を注視することが重要であり、日本国内に感染が飛び火してくる可能性を考慮に入れておく必要がある。

 
参考文献

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター
  渡邉真治 藤崎誠一郎 小田切孝人

 

 

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