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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌の検査

(IASR Vol. 35 p. 285- 287: 2014年12月号)

腸内細菌科細菌のカルバペネム耐性機構の中でも、カルバペネマーゼ産生はカルバペネム系のみならず多くのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すことなどから最も問題とされている。カルバペネマーゼには複数の種類があり、薬剤感受性のみではその型別は困難なため、その分離状況を把握するにはディスク法やPCR法による型別が必要となる。本稿では、国立感染症研究所 細菌第二部で実施しているカルバペネマーゼ産生菌の検査法をまとめた。

カルバペネマーゼ産生菌の検出のための指標薬剤として、メロペネムが最も良いとされている1)。同じカルバペネム系抗菌薬のイミペネムを指標薬剤とした場合、日本で比較的多く報告されるIMP-6型メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌は、感性と判定されるため検出できない2)。また、Proteus mirabilis のようにペニシリン結合タンパクの変化によってβ-ラクタム系抗菌薬のうちイミペネム特異的に耐性となる株が含まれる3)。ただし、カルバペネマーゼ産生株であっても、メロペネムの最小発育阻止濃度(MIC)は0.5~>64μg/mgと株によって様々であり、必ずしも耐性と判定されない。感受性試験の結果のみではカルバペネマーゼ産生菌の判定は困難なため、検査の際はPCR法による腸内細菌科で報告のある主なカルバペネマーゼ遺伝子()の検出と阻害剤を用いたディスク法(図A、B)を実施し、結果に矛盾がないことを確認する必要がある。

カルバペネマーゼ遺伝子のうち日本ではIMP型メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子の報告が最も多い2,4)。IMP型は、IMP-1のほかアミノ酸配列の異なる40種以上の亜型が報告されており、日本に多いIMP-1やIMP-6はいずれも、表に記載したIMP-1型プライマーを使用して検出可能である。IMP-1とIMP-6の違いは1アミノ酸変異をもたらす1塩基のみであり、その型別にはシークエンス解析が必要となる。NDM型、KPC型、OXA-48型は海外での報告は多いが、日本では多くが輸入例である5)。海外での医療受診歴のある患者から分離された株はこれらの遺伝子型の可能性も念頭に検査する。

ディスク法は、に示した各種カルバペネマーゼの阻害剤を使用して実施する。図Aは、ボロン酸を用いたKPC型カルバペネマーゼ産生株の検出例である。イミペネム(IPM)、メロペネム(MEPM)ディスクに3-アミノフェニルボロン酸(APB)添加で阻止円径の拡張を認めた場合、陽性と判定する。留意点として、3-アミノフェニルボロン酸はAmpC β-ラクタマーゼも阻害するため、KPC型の産生確認は、カルバペネム系の抗菌薬ディスクを用い、併せてPCR法でKPC型遺伝子の検出を確認する。図Bは、メルカプト酢酸ナトリウム(SMA)を用いたIMP型メタロ-β-ラクタマーゼ産生株の検出例である。抗菌薬ディスクとSMAディスクの中心を結ぶ線(図B点線)に対して垂直方向(図B矢印方向)の阻止円径拡張がいずれか1薬剤でも認められるものを陽性と判定する。点線に対して平行方向のみの拡張はメタロ-β-ラクタマーゼ非産生株の場合が多いため、判定の際は拡張方向に留意する。また、遺伝子型によってSMAの阻害効果に違いがあり、IMP型は図のような明確な拡張が認められるが、NDM型は拡張がやや弱いため、PCR法の結果と併せて確認する。OXA-48型の明確な阻害剤は報告されておらず、図A、Bいずれのディスク法も陰性となるため、PCR法による遺伝子検出結果から判定する。

カルバペネマーゼ遺伝子は、表に示した以外にGES型、IMI型、SME型、GIM型、SMB型などが報告されている。また、カルバペネマーゼ産生以外のカルバペネム耐性機構として、外膜タンパクの欠損や変異による薬剤透過性の低下とAmpC β-ラクタマーゼ産生の相乗効果なども報告されている。表に示した主な遺伝子型が検出されない株は、その他のカルバペネマーゼ型産生あるいはカルバペネマーゼ産生以外の機構の可能性が考えられる。また、カルバペネマーゼ産生株の検出法として、本稿で紹介した以外にも各種阻害剤を含むディスクやEtest等、様々な検査方法が提唱されている。それぞれの方法の特性を確認して使用することが必要である。

 
参考文献
  1. IASR 35:156-157, 2014
  2. Yano H, et al., Antimicrob Agents Chemother 56:4554-4555, 2012
  3. Neuwirth C, et al. J Antimicrob Chemother 36:335-342, 1995
  4. 厚生労働科学研究費補助金「新型薬剤耐性菌等に関する研究」平成22年度研究報告書 p22-27
     http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/cyousa_kekka_110121.html
  5. IASR 34:238-239, 2013
  6. Shibata N, et al., J Clin Microbiol 41:5407-5413, 2003
  7. Poirel L, et al., Antimicrob Agents Chemother 48:15-22, 2004
 
国立感染症研究所細菌第二部
  松井真理 鈴木里和 鈴木仁人 筒井敦子 柴山恵吾
 

 

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