国立感染症研究所

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2014年のA型肝炎流行状況について

(IASR Vol. 36 p. 3: 2015年1月号)

2014年の全国におけるA型肝炎の報告数は、第48週(11/24~11/30)までに42都道府県から累積421例となり、ここ10年では、すでに最も発生数の多い年となっている。感染経路については、第48週までの421例中、80%にあたる335例が飲食物などを介する経口感染と推定されている。そのうち、161例(48%)は原因不明で、148例(44%)ではカキやアサリなどの二枚貝を含む魚介類が原因として推定されていたが、共通する感染源は見出されていない。男女別でみると、男性251例(60%)、女性170例(40%)であり、例年と同様、40~60代の男性の報告が比較的多かった。週別の患者発生数の推移については、第8週から宮城県を中心とした限局的な流行がみられたが、その後、西日本を中心とした報告が多くなり、全国のピークであった第9~10週において、九州および瀬戸内地方から全体の約7割が報告されたものの、報告は西日本にとどまらず、関東から東北まで広く患者発生がみられた。

2014年第18週(4/28~5/4)までに報告された305例中、これまでに16例(11家族)において家族内感染が疑われた。初発例発病後、平均30日(15~47日)の間隔をあけて家族が発病、または検査で感染が確認された。二次感染者のうち4例は不顕性感染であり、すべて5歳以下の小児であった。本邦では50歳以下のA型肝炎抗体保有者は、推定でほぼ0%であることに対する注意が必要である。

A型肝炎は潜伏期が長いことから、聞き取りによる食材などの感染源についての調査は非常に困難であり、感染源の共通性の検討には、ウイルス学的検査による分子疫学的手法を用いた方法による確認が非常に有用である。A型肝炎の流行状況を調査するため、厚生労働省は、2010年4月26日付通知(IASR 31: 140, 2010)により、各自治体宛にA型肝炎の発生届を受理した場合の分子疫学的解析を目的とする患者の糞便検体の確保と積極的疫学調査の実施を依頼している。

国立感染症研究所では、2014年の流行状況把握のため全国の地方衛生研究所、保健所と共同でA型肝炎患者159例の糞便または血清からHAVゲノムの配列を決定し、流行状況を分子疫学的に解析した。その結果、遺伝子型の内訳はIAが137例、IIIAが18例、IBが4例であった。宮城県を中心とした第8週からの流行の遺伝子型はIIIAで、韓国で流行したIIIAと近縁であった。また、ほぼすべての株が同一配列であったことから、単一の感染源からの小流行と考えられた。

一方、IAのうち約75%にあたる103例は、遺伝子配列解析を行った領域の配列はほぼ完全に同一であり、しかも宮城県から鹿児島県まで広範囲にわたり同時期に検出されるという非常に特異な特徴を示した。この原因となった株を2014年IA(広域型)と呼ぶ(およびhttp://www.niid.go.jp/niid/images/idwr/douko/2014d/img22/chumoku03.gif参照)。2014年IA(広域型)は日本に常在していると考えられるIA-1クラスターに属し、本株による症例は第7~11週に集中した一峰性であった。このように、2014年春季のA型肝炎の流行は、その60%以上が同一の株を原因とするものであったことが分子疫学的解析で明らかとなった。

このような流行の特徴から、おそらく限局された地域で同一時期にこの2014年IA(広域型)に汚染された食材などが短期間に全国規模で流通し、同一株による全国的な流行を発生させたものと推察されるが、原因については現在まで明らかになっていない。

現在ではHAVに対する抗体を持たない感受性者が大多数となっており、何らかのきっかけでA型肝炎が流行をおこす危険性は、以前と比べむしろ増大していると考えられ、2014年の流行もその1つの例であると言える。さらに、重症化しやすい高齢者でも感受性者が増加していることにも今後は注意を払う必要がある。今後は感染源や感染経路対策だけではなく、個人の積極的な予防対策、感染症に対する意識の向上が望まれる。

謝辞:貴重な検体や遺伝子配列をご提供いただきました全国地方衛生研究所の先生方に深謝いたします。

 

国立感染症研究所ウイルス第二部
  石井孝司 清原知子 脇田隆字
国立感染症研究所感染症疫学センター
  河端邦夫 八幡裕一郎 松井珠乃 木下一美 砂川富正

 

 

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