印刷
IASR-logo

A型肝炎の家族内感染についての疫学的分析(2014年上半期を中心に)

(IASR Vol. 36 p. 8- 9: 2015年1月号)

 

わが国のA型肝炎の発生動向は、2006~2013年に115~347例の報告で推移していた。2014年は第8週から急増し、第22週(2014年6月4日時点)までに342例が報告された。

A型肝炎は潜伏期間が2~7週間と長く、感染源は食品媒介のほか、患者の糞便を介することが報告されている1)。このため、家族等接触が密である集団内での感染事例が多く報告されている2,3)。本報は、本年(2014年)と過去(2006~2013年)のA型肝炎の家族内発生に関する解析および今後の対策を検討した。

2006年第1週~2014年第22週(2014年6月4日時点)を解析対象期間とし、期間内に感染症発生動向調査(NESID)にA型肝炎の発生届をされた症例と同一住所で、家族が診断された週からの間隔が7週以内の症例を「家族内感染疑い症例」とした。分析は「2006~2013年」と「2014年」に分け、家族内感染疑い症例の発生状況や曝露様式等について記述疫学解析を行った。曝露様式は、家族内感染疑い症例を住所(家族)ごとに分類し、発病日の差が2日以内または診断週が同一の症例である家族を「単一曝露のみの家族」とし、発病日または診断週が2~7週間異なる症例からなる家族を「二次感染または三次感染の家族」とした。

解析対象期間に届出されたA型肝炎は1,815例で、うち家族内感染疑い症例は188例(10.4%)、家族内感染疑い家族は81家族であった。このうち、2006~2013年は1,473例のうち、家族内感染疑い症例154例(10.5%)、家族内感染疑い家族67家族、2014年は342例のうち、それぞれ34例(9.9%)、14家族であった(表1)。家族内感染疑い症例の性別、症状別割合および年齢中央値は2006~2013年と2014年ともに同程度であった。推定感染地域は、2014年の国内感染例が100%であった。曝露様式別の家族内感染疑い家族数は単一曝露のみの家族が2006~2013年は22家族(32.8%)、2014年は1家族(7.1%)であった。二次感染または三次感染の家族は2006~2013年が45家族(67.2%)、2014年が13家族(92.9%)であった(表2)。家族内感染疑い症例における不顕性感染症例の年齢中央値は2006~2013年が6歳(範囲:0~48歳)、2014年が2.5歳(範囲:0~4歳)であった(表3)。

2014年の症例のうち、不明等を除く159例の約3分の2がⅠA(広域型)で、全国各地で検出され、これらの症例は配列がほぼ完全に一致していた(http://www.niid.go.jp/niid/images/idwr/douko/2014d/img22/chumoku03.gif)。

A型肝炎の家族内感染疑い症例の発生割合は年平均1割程度であり、過去の推移と変化はなかった。2014年は家族内感染の疑いで不顕性感染者が5歳未満児のみであったことから、無症状病原体保有者が保育施設等での潜在的な感染伝播を引き起こす可能性が考えられ、保育施設内での感染伝播への対策が重要である。A型肝炎の家族内感染の発生予防には、分子疫学的情報を含めた注意深い疫学情報の収集や、二次感染対策(衛生管理や予防接種等)のさらなる検討が重要である。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

参考文献
  1. Control of communicable diseases manual 19th ed., American Public Health Association, 278-284, 2008
  2. IASR 12: 258-259, 1991
  3. IASR 34: 311-312, 2013

国立感染症研究所
  感染症疫学センター
  ウイルス第二部

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan