印刷
IASR-logo

デングワクチン開発の現状と課題

(IASR Vol. 36 p. 44-45: 2015年3月号)

世界初のデングウイルス(DENV)分離から70年以上が経過したが、市場化されたデングワクチンは無い。DENVの4種血清型(DENV-1~DENV-4)間の交差防御力は低く、また、単価ワクチンでは感染増強の可能性が懸念されるため、WHOは4価ワクチンの開発を薦めている。臨床試験が進行中あるいは終了した6戦略のワクチン候補およびワクチン抗原をに示す。

CYD-TDVは、弱毒黄熱ウイルス17D株を骨格として、DENV各血清型のウイルス粒子表面タンパクである前駆膜/エンベロープ(prM/E)遺伝子と置換して作製した4種のキメラウイルスから成る。prM/E遺伝子は、防御の主要因子である中和抗体の誘導に必須の領域である。基本的なウイルス増殖力等の性状は骨格である弱毒ウイルスに似るが、中和抗体は粒子表面タンパクに対して誘導される。第3相臨床試験はアジア・中南米の10カ国で実施され、効力(アジア56.5%、中南米60.8%)と安全性が確認された1,2)。今年(2015年下半期)に上市予定と報じられている。

DENVaxは、弱毒DENV-2の16681/PDK-53株、そして DENV-2以外はそれを骨格として各血清型のprM/E遺伝子と置換したキメラウイルスから成るワクチンである3)。CYD-TDVと同様の戦略であるが、デングウイルスが骨格であるため、prM/E以外のタンパクに対する免疫が誘導される利点がある。

TetraVax-DVは、ウイルスゲノム3’末端の非翻訳領域から30塩基(DENV-3ではさらに31塩基)を人工的に欠失させて弱毒化する手法を用いている4)。非翻訳領域は、ウイルスRNAの細胞内複製に重要な役割を果たすため、適切な位置での一部(6.5~13.8%)の塩基の削除は弱毒化に繋がる。DENV-2はこの手法で弱毒化できなかったため、弱毒DENV-4を骨格としてキメラワクチンの戦略を用いた。

DENVax とTetraVax-DVは既にヒトでの第1相臨床試験が終了しており、全血清型に対する抗体陽転率はDENVaxが62%(2回免疫)3)、TetraVax-DVが45%(1回免疫)4)であり、その安全性も示された。現在第2相臨床試験が実施されている。

TDENV-PIVは、Vero細胞で増殖させたDENVを精製し、ホルマリンで不活化させたワクチンである。この戦略の利点は、上述の弱毒ワクチンで起こり得るウイルス干渉作用が理論的に回避でき、また、毒性復帰の問題がない。一方、免疫誘導能は弱毒ワクチンに比べて低く、より多くの接種回数が必要である。サルを用いた前臨床試験では、高い抗体陽転率と防御効果が確認され5)、現在は第1相臨床試験が行われている。

TVDVは、Vaxfectinアジュバントを調合したprM/Eタンパク発現DNAワクチンである6)。DEN-V180は、Eタンパクの約80%をDrosophila S2細胞で産生・精製したサブユニットワクチンである7)。両ワクチンとも、現在第1相臨床試験が行われており、上記の不活化ワクチンと同様に、感染性が無くウイルス干渉は起こらない利点がある。

デングワクチンの開発を遅らせる理由の1つは、防御の免疫学的指標が定まっていないことである。また、動物モデルもないことから、ヒトを対象としてのみ候補ワクチンの防御効力を評価できる。上記のCYD-TDVを用いた臨床試験が、これまでに実施された唯一の効力評価である。従来、中和抗体が血中ウイルス量を効率的に低下させる最も重要な防御因子と考えられてきたが、この結果によると、中和抗体が誘導されていても効力が低く、特にDENV-2に対してはアジアで35.0%、また中南米で42.3%であった。この原因として、臨床試験中に流行していたウイルス株のエンベロープ領域には、遺伝子型を決定する一部のアミノ酸に変異があり、ワクチン株の抗原が誘導した抗体と適合しなかったこと、いわゆる抗原ミスマッチが指摘されている。次に、CYD-TDVにはDENVの非構造タンパク(NS)領域遺伝子が含まれていないことが挙げられる。このNS領域は細胞性免疫の誘導に重要と考えられている。さらに、DENV-2に対して示された中和抗体価は、in vivoで十分な中和活性を示すレベルではなかったことが挙げられる。すなわち、より高い中和抗体価が防御に必要との考え方である。

このように、デングワクチンの開発には課題が多い。しかし、正しい免疫学的指標を求めるために、中和試験の改良8)や従来法での新たなアプローチ9)が試みられている。4価ワクチンに用いられているNS領域遺伝子はCYD-TDVには含まれないが、DENVaxで7種類、またTetraVax-DVで21種類含まれる。よって、細胞性免疫がどの程度防御に貢献するのかは、これら2種類のワクチンを用いた効力評価で明らかになるであろう。また、抗原ミスマッチの問題に関しては、各国で流行している遺伝子型に応じた、いわばその国・地域特有のオーダーメイド的な遺伝子型から成る4価ワクチンにすべきとの意見もある10)。今後、より効力の高いデング4価ワクチンに向けて、開発研究の進展が期待される。 

 
参考文献
  1. Capeding MR, et al., Lancet 384 (9951): 1358- 1365, 2014
  2. Villar L, et al., N Engl J Med 372 (2): 113-123, 2015
  3. Osorio JE, et al., Lancet Infect Dis 14 (9): 830- 838, 2014
  4. Durbin AP, et al., J Infect Dis 207 (6): 957-965, 2013
  5. Fernandez S, et al., Am J Trop Med Hyg, in press
  6. Porter KR, et al., Vaccine 30 (2): 336-341, 2012
  7. Coller BA, et al., Vaccine 29 (42): 7267-7275, 2011
  8. Moi ML, et al., PLoS Negl Trop Dis 6 (2): e1536, 2012
  9. Buddhari D, et al., PLoS Negl Trop Dis 8 (10): e3230, 2014
  10. Usme-Ciro JA et al., Hum Vaccin Immunother 10 (9): 2674-2678, 2014


大阪大学微生物病研究所デングワクチン(阪大微生物病研究会) 寄附研究部門
    山中敦史 小西英二

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan