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チクングニア熱の海外流行状況

(IASR Vol. 36 p. 48-49: 2015年3月号)

チクングニア熱は蚊媒介感染症であり、デング熱と同様、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどに刺されることでウイルスが人へ感染する。チクングニアウイルス(CHIKV)が1953年にタンザニアで発熱患者から初めて分離されて以降、チクングニア熱は今日までにアジアとアフリカを中心に多くの地域(約40カ国)で報告されている(1-3)。近年世界的な感染拡大がみられ、国際的な公衆衛生上の問題となっている。サーベイランス体制の強化の影響もあるが、近年初めて太平洋地域とカリブ海諸国・アメリカ大陸での流行が確認されている()。以下、各地域の情報を示す。

主な流行地域と概要
アフリカ大陸では、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエ、南アフリカ、セネガル、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、コンゴで流行した。近年ではコンゴのキンシャサで1999~2000年にかけて5万人規模の流行が、2007年にはガボンで流行が報告された。ヨーロッパではフランス、スイスで輸入例が報告され、2007年にはイタリア北部で国外でチクングニア熱に感染した患者からCHIKVが輸入され、ヒトスジシマカによる国内流行が発生し、197例が報告された。2010年にはフランスのヒトスジジマカが生息する南東部で国内感染の2例が報告された3)

アジアでは1958年にタイで流行が報告された後、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、インド、スリランカで流行が報告された。2005年にはコモロ諸島で流行が起こり、その後インド洋のモーリシャスをはじめとした島国への流行の拡大が報告された。特にレユニオン島での流行では、2005年3月~2006年2月までの期間に、15万人以上の患者が発生した。これまでに日本国内での感染、流行はないが、2006年11~12月にスリランカからの輸入例2例が報告されて以来、流行地域からの輸入例が報告されている 3, 4)

2014年における太平洋地域とカリブ海諸国における流行状況
太平洋地域
太平洋地域では2011年にニューカレドニアで初めて報告され、2014年においては多数の島から以下のように報告されている5)

2014年12月28日付けで公表されたWHO西太平洋事務局(WPRO)のサーベイランス情報によると、12月28日第52週までに以下の国で発生が報告されている。

フランス領ポリネシア:2014年10月10日~12月21日までで51,131例が報告された。

ニューカレドニア:2014年12月21日時点で31例、このうち3例は国内での感染、28例はフランス領ポリネシアからの輸入例が報告された。

クック諸島:2014年12月21日時点で3例の輸入例(1例はサモア、2例はフランス領ポリネシア)が報告された。

サモア:2014年7月28日~12月14日までで3,135例が報告された。

アメリカ領サモア:2014年7月7日~9月28日までで940例が報告された。

トケラウ諸島:2014年7月12日~9月10日までで164例が報告された。トケラウ諸島ではチクングニア熱の流行のため2014年度のナショナルゲームが中止となった。

カリブ海諸国とアメリカ大陸
カリブ海諸国では、2013年12月6日にカリブ海のサン・マルタン(セント・マーチン)島のフランス領で初めて報告され、これがアメリカ大陸において初めて地域内感染が確認された事例であった。その後、アメリカ本土にも広がることとなり、米国では2014年7月17日にフロリダで国内感染例が初めて報告され、以降地域全体で流行が広まった6)。2014年12月29日付けで公表されたWHO汎アメリカ保健機構(PAHO)の情報によると、流行状況は以下の通りである6)

北米(確定145例、疑い7例)、中米(確定2,320例、疑い162,940例)、ラテン系カリブ海諸国(確定12,162例、疑い781,775例)、アンデス地域(確定2,722例、疑い108,792例)、その他の南米(確定1,304例、疑い792例)、その他のカリブ海地域(確定4,143例、疑い17,390例)。

最後に
近年このように、チクングニア熱の大きな流行がみられることから、以前のように感染した旅行者により日本へCHIKVが持ち込まれる可能性もあり、流行地での蚊に刺されないための予防や、世界における感染の流行状況への注意が必要である。

 
参考文献
  1. WHO: International travel and health Disease distribution maps
    http://gamapserver.who.int/mapLibrary/Files/Maps/Global_DengueTransmission_ITHRiskMap.png?ua=1
  2. WHO: Media centre Updated October 2014
    http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs327/en/
  3. IASR 32: 161-162, 2011
  4. IDWR 第19週, 2007 
  5. WHO/WPRO: Dengue Situation Updates
    http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/DengueSituationUpdates/en/
  6. WHO/PAHO:Number of Reported Cases of Chikungunya Fever in the Americas, by Country or Territory 2013-2014(to week noted), Epidemiological Week/EW52 (update 29 December 2014 )
    http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_topics&view=readall&cid=5927&Itemid=40931&lang=en
  7.  

国立感染症研究所
  実地疫学専門家養成コース 石金正裕
  感染症疫学センター 山岸拓也 有馬雄三

 

 

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