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2014年度麻疹予防接種状況および抗体保有状況―2014年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 36 p. 60-62: 2015年4月号)

はじめに
感染症流行予測調査における麻疹感受性調査(抗体保有状況調査)は1978年度に開始され、1996年度以降は抗体価測定方法が従来の赤血球凝集抑制法からゼラチン粒子凝集(PA)法に変更となり、現在に至っている。また、本調査では、感受性調査とともに予防接種状況についても調査を実施しており、感受性調査の対象者以外の予防接種状況についても報告されている。

麻疹の定期接種は1978年に開始され、以降は麻疹単抗原ワクチンを用いて幼児期に1回のみの接種であったが、1989年4月~1993年4月には麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチン、2006年4月には麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入された。さらに2006年6月より「1回目の接種で免疫が獲得できなかった者への免疫賦与」、「1回目の接種後、年数の経過により免疫が減衰した者に対する免疫増強」、「1回目の接種機会を逃した者に再度の接種機会を与えること」を目的とした2回接種制度(第1期:1歳児、第2期:年度内に6歳になる者)が開始された。また、2008~2012年度には第3期(年度内に13歳になる者)および第4期(同18歳になる者)が5年間の期限付きで定期接種に導入された。

2014年度は2回接種導入から9年目、第3期・第4期終了から2年目の調査となり、本稿では年齢別の予防接種状況および抗体保有状況について報告する。

調査対象
2014年度麻疹感受性調査は北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の23都道府県で実施され、抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。また、予防接種状況調査については上記に埼玉県、富山県、石川県、愛媛県、熊本県を加えた28都道府県で実施された。2015年3月現在、6,785名の抗体価および8,620名の予防接種歴が報告された。なお、本調査実施要領における抗体価測定対象者の採血時期は、原則として2014年7~9月としており、多くの者(5,749名:85%)はこの時期に採血されていた。

麻疹含有ワクチン接種状況
麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチン、MRワクチン、MMRワクチン)の接種状況について図1(上段:接種歴不明者を含まない、下段:接種歴不明者を含む)に示した。なお、本調査結果は一調査時点における接種状況であり、厚生労働省で実施している年度単位の接種率調査の結果とは異なるため、結果の解釈には注意が必要である。

全体の接種状況の割合をみると、麻疹含有ワクチンの1回接種者は27%、2回接種者は16%、接種は受けたが回数不明であった者は3%、未接種者は7%、接種歴不明者は47%であり、2013年度調査(1回:27%、2回:15%、回数不明:4%、未接種:8%、接種歴不明:46%)と同等の結果であった。接種歴不明者を除く接種状況について年齢別にみると、1回以上接種者(1回・2回・回数不明接種者)の割合は0歳で5%未満であり、第1期の対象年齢である1歳(※調査時点でまだ第1期接種を受けていない者も含まれる)で81%と急増したが、2013年度の調査(86%)と比較して5ポイント低い結果であった。2歳以上では、30~34歳群までほとんどの年齢/年齢群で90%以上(24歳84%、27歳88%)の1回以上接種率であり、とくに2~22歳では多くの年齢が95%以上の接種率であった。

また、第2~4期に2回目の接種機会があった年齢層(調査時点の6~23歳および5歳・24歳の一部)のうち、接種歴が明らかであった6~23歳の2回接種率は平均で59%(30~79%)であり、2013年度(調査時点の6~22歳:平均56%)と比較して3ポイント高かった。

麻疹PA抗体保有状況
年齢別あるいは年齢群別の麻疹PA抗体保有状況を図2に示した。

PA法により抗体陽性と判定される抗体価1:16以上でみると、全体の抗体保有率は95%であり、2013年度(95%)と同等であった。また、年齢別にみると、0~5か月齢では母親からの移行抗体と考えられる抗体保有者が73%存在していたが、移行抗体が減衰する6~11か月齢では12%の抗体保有率であった。第1期対象年齢である1歳は72%の抗体保有率であり、2歳以上ではすべての年齢/年齢群で95%以上を示した(2013年度は2歳以上で11歳、16歳のみ95%未満)。

一方、麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上(少なくとも1:128以上であり、できれば1:256以上が望ましい)についてみると、2歳以上では14歳を除くすべての年齢/年齢群で80%以上の抗体保有率であった(2013年度は2歳以上で12歳以外は80%以上)。 

まとめ
2014年度の調査において、PA抗体価1:16以上の抗体保有率は全体で95%であり、2011年度以降4年連続で95%以上の抗体保有率であった。また、年齢別では2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示し、高い接種率・抗体保有率が維持されていると考えられた。

麻しんに関する特定感染症予防指針(2007年12月28日制定、2012年12月14日一部改正)においては、2015年度までに麻疹排除の達成・WHOによる認定および維持を目標としていた。2015年3月の認定後も高い接種率・抗体保有率の維持が必要であり、さらに発症予防に十分な抗体を保有していない者や定期接種の期間が終了した者で2回の接種が完了していない者、特に発症した場合に本人のみならず周りへの影響が大きい医療・福祉・教育に係わる職員あるいは学生等においては、必要とされる2回の予防接種の実施が重要と考えられた。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳 
2014年度麻疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県:北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県

 

 

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