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わが国における麻しん排除の進捗に関する報告の概要(2014年度提出)

(IASR Vol. 36 p. 65-67: 2015年4月号)

わが国の麻しん排除の目標と排除の国際的判断基準
わが国は、「麻しんに関する特定感染症予防指針」(平成19年12月28日.平成24年12月14日一部改正)(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/241214a.pdf)により、2015年度までの麻疹排除の達成と世界保健機関(World Health Organization: 以下WHOとする。)からの認定、そしてその後の維持を国の目標とし、対策に取り組んできた。本稿は、2013年より国内麻しん排除認定会議(National Verification Commit- tee:以下NVCとする。)としてWHOに対して提出してきた、わが国における麻しん排除の進捗に関する報告書の概要について紹介するものである。

排除確認の判断基準(Verification Criteria)として、WHOの排除確認ガイドライン(Guidelines on verification of measles elimination in the Western Pacific Region. 2013)(http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_elimination_verification_guidelines_2013/en/)では、以下の3つの基準を満たすことを求めている。

・最後に確認された土着の麻しんウイルス株(12月以上地域循環した麻しんウイルス)の存在から少なくとも36月が経過し、土着の麻しんウイルス株の地域循環がなくなっていることが示されること。

・麻しん排除の確認が可能なサーベイランスがあること。

・土着の麻しんウイルス株の伝播がなくなっていることを支持する遺伝子型の証拠が存在すること。

さらにWHOガイドラインには、上記の判断基準を達成するための指標などが述べられている。このガイドラインに基づき、わが国の麻しん対策の進捗状況に関する2014年の報告書を、地域の麻しん排除認定会議(Regional Verification Committee:以下RVCとする。)に対して報告した。その概略としては、国の定期接種の一部に麻しん含有ワクチンが導入された後の麻しんの疫学状況の変遷の詳細、麻しんに対する疫学、実験室サーベイランスの質に関する情報および麻しんの予防接種戦略の概観等が中心となっている。以下、2014年の報告書の主要な内容について述べる。 

麻しん含有ワクチン導入後の2012年までの麻しんの疫学状況
2013年に提出した報告書と同様に歴史的な背景を説明した。まず1978年に、麻しんは予防接種法の下での国の予防接種プログラムの対象疾患となり、定期接種として1回の麻しんワクチン接種が開始されたこと、2006年には、麻しん風しん混合(MR)ワクチンを用いた2回接種が、一次性ワクチン不全(PVF)および二次性ワクチン不全(SVF)を予防するために導入されたこと、を述べた。対象は、麻しん含有ワクチン接種の1回目の接種(MCV1)が生後12月~24月の幼児であり、2回目の麻しん含有ワクチン(MCV2)の接種が小学校入学前1年間の子供たちである。さらに2007年には、国としての「5年間の麻しん排除計画」が策定され、その中には10代の若者を対象とした5年間のキャッチアップキャンペーンにより、毎年、中学校1年生と高校3年生相当の年齢の者に対して、原則としてMRワクチンの接種が行われたことを述べた。この施策により、2007~2008年における麻しんの流行の中心であり、またMRワクチンの2回接種を受ける機会が無かった10代への免疫賦与を行うことができたと考えられた。

さらに、国レベルでの麻しんサーベイランス(発生動向調査)として、それまで行われていた定点サーベイランスから、流行状況のより正確な把握を可能にする症例ごとのサーベイランス(全数サーベイランス)へと2008年から移行したことを述べた。全数サーベイランスにより報告された麻しん患者の総数は、2008年に11,013例であったが、2009年に732例、2010年には447例、2011年には439例、そして2012年には283例へと著しく減少した(数値は暫定値)。これらの情報により、人口百万人当たりの麻しん報告数は2008年には86例であったが、2012年には同2.3例となり、臨床診断例と輸入例を除くと同1.6例まで減少したことを示した。この減少には、2008年には最も多く報告のあった年代であった10代の減少が大きく寄与したと考えられた。

2013年以降の状況
以下は2014年の報告書において大きく更新された箇所である。2013年、2014年についてはそれぞれの麻しん報告数が232例、463例となり(暫定値)、特に2013年の終わりから2014年の春にかけて観察された報告数の増加は、他のアジア諸国からの麻しんウイルスの輸入増加に起因していたことが麻しんウイルス株の遺伝子型の分析により明らかとなったことを示した。以前との大きな違いは、各医療機関における検査診断の実施と自治体における麻しんウイルス遺伝子の検出ならびに塩基配列の解析、疫学調査への取り組み強化とその報告の徹底であり、海外から国内に入ってきた麻しんウイルスがそれぞれ大きな流行を起こすことなく、散発あるいは小規模に終息したことを示せた。最も高い割合を占めた遺伝子型はB3であったが(77.5%)、さらにサブタイプまで含めた詳細なウイルス学的解析により、輸入された各ウイルスが日本国内において12月以上継続した地域循環を起こしていないことを示した。2010年以降まで遡っても、遺伝子型B3以外に、輸入されたD4、D8、D9、H1、G3はいずれも12月以上の持続的な地域循環には至っていないことをウイルス学的、疫学的解析により示した。さらに、日本の土着の麻しんウイルス株とされていたD5は2010年5月を最後に国内では検出されていないことを確認した。WHOの求める確定例(検査診断例および確定例との疫学的リンクを有する例)の感染源に関する分析を行ったところ、感染源不明の割合は2012~2013年には4~5割になるなどいったん増加したが、2014年には1割を下回り大きく改善した。この理由としては、麻しん特異的IgM抗体検査(EIA法)が2013年末に改善され偽陽性が大きく減ったこと、および麻しん同様に発熱発疹性疾患である風しんの全国的な流行が2012~2013年にあったことが影響していた可能性を示した。

ワクチン接種率については、2013年度(国内では接種率は年度ごとに集計している)はMCV1については95.5%、MCV2については93.0%であった。2013年度に、24の自治体が参加した血清疫学調査(感染症流行予測調査)による分析では、PA抗体による結果として、2歳以上人口の95%以上が2011年以来、抗体陽性であったことが示された。

2014年の報告における結論
わが国においては、「麻しんに関する特定感染症予防指針」に基づき、国や自治体等の関係者により、サーベイランス、疫学調査、検査の徹底等が行われる体制にあること、麻しんの排除を目標としたワクチン接種への取り組みが行われることが確認された。また、検討を行った総合的な評価の結果、日本国内では少なくとも2014年までの36月以上の間、「良好に機能しているサーベイランスシステムの存在下において、地域または国における土着の麻しんウイルス伝播が12月以上確認されない状態」として定義されている「麻しん排除」の基準を満たしていると考えられた。

*2015年3月27日、マカオにて開催された地域麻しん排除認定委員会(Measles Regional Verification Committee:RVC)での結論を踏まえ、日本は、ブルネイ ・ダルサラーム、カンボジアと共に新たに麻しんの排除状態にあることがWHO西太平洋事務局より認定された(http://www.wpro.who.int/mediacentre/releases/2015/20150327/en/)。2014年に麻疹の排除状態にあることが確認されたオーストラリア、マカオ、モンゴル、韓国と共に、WHO西太平洋地域において7か国 ・地域 が麻しん排除状態にあることとなった。

謝辞:麻しんの排除認定を得る目標を達成するため、麻しん対策に関わったすべての関係者に心より敬意を表します。また、報告書策定にあたり事務局として多くのご協力をいただいた厚生労働省に心より感謝申し上げます。

 

国内麻しん排除認定委員会  (National Verification Committee)
岡部信彦(川崎市衛生研究所)、中野貴司(川崎医科大学小児科)、渡瀬博俊(東京都福祉保健局感染症対策課)、砂川富正(国立感染症研究所感染症疫学センター)、竹田誠(国立感染症研究所ウイルス第三部)、多屋馨子(国立感染症研究所感染症疫学センター)、蜂矢正彦(国立国際医療研究センター国際医療協力局)
(他の主な協力者/駒瀬勝啓:国立感染症研究所ウイルス第三部、高橋琢理・木下一美・佐藤弘:国立感染症研究所感染症疫学センター、三崎貴子:川崎市衛生研究所)

 

 

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