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馬刺し関連腸管出血性大腸菌O157 VT1&2食中毒事例―福島県

(IASR Vol. 36 p. 76-77: 2015年5月号)

 

2014年(平成26)年3月28日~4月14日に馬刺しによる腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 VT1&2産生食中毒事例が発生した。この事例は、4月4日に新潟市からの連絡により探知し、当県の初発患者は3月28日に発症していた。患者は当県を含め11都県に及び、88名[うち入院者38名、溶血性尿毒症症候群(HUS)5名]である。このことについて、概要を報告する。

検査体制は、当所の試験検査課、2支所および2中核市保健所で菌株を分離し、当所微生物課で分子疫学的解析を実施した。解析方法は東洋紡のIS-printing system(IS法)およびパルスフィールド・ゲル電気泳動法(pulsed-field gel electrophoresis: PFGE法)により行った。さらに、PFGE法および反復配列多型解析法(multiple-locus variable-number tandem -repeats analysis: MLVA法)の実施のため国立感染症研究所(感染研)に菌株を送付した。検体は、喫食者48名、接触者(二次感染者)52名、馬刺しを製造した会社の従事者25名、食品22件およびふきとり91件の総数238検体であった。

これらの検体においてデンカ生研の病原大腸菌免疫血清を用いたO群血清型別試験の結果、O157であると判明した32菌株、原因食品由来3菌株ならびに新潟県、新潟市、山形県および秋田県からの譲渡13菌株について分子疫学的解析を実施した。さらに、同時期に疫学情報からは馬刺しを原因食品とした食中毒とは関連性が認められない4菌株が搬入され、それらについても行った。

なお、馬刺し関連の食中毒として菌を検出した32名の内訳は、喫食者28名、二次感染者4名である。

当県において分かり得た日別喫食と発症状況について図1に示す。喫食日は3月28日~4月6日の10日間である。発症日は3月29日~4月22日となっているが、4月22日発症者1名を除いては4月7日までの10日間に発症している。この4月22日に発症した患者は3月31日に喫食しており、4月7日に保健所で検査を受けているが、検出されなかった。よって、菌の陰性化に時間がかかった家族からの二次感染であると考えられる。

患者の年齢は1歳~91歳までに分布しており、10歳以下の患者は5名である。また、馬刺し関連の食中毒とは関連性が認められない4名を含めた36名中、有症者は24名であった。症状の発現状況は腹痛21名、血便17名、水様性下痢14名、発熱4名および嘔吐2名であり、血便の症状を呈していたのは約7割であった。

関連性が認められない者4名のうち3名は、最初に8歳の男児が発症し、その関連調査で無症状の両親から分離された。また、もう1名は食中毒の原因となった馬刺しを取り扱っている他県の飲食店で食事をしているが、馬刺しの喫食はなかった。

当所で実施した分子疫学的検査の数は、IS法39件およびPFGE法52件である。IS法については他県の結果と照合し、一致を確認した。当県で分離された菌株についてはIS法およびMLVA法で4月22日の発症者から分離された1菌株を除いて一致した。さらに、関連性が認められない4菌株も馬刺しを原因食品とした食中毒関連株と一致した。図2は他県の患者から分離された菌株、当県の患者から分離された菌株および当県で馬刺しから分離された菌株を同時にPFGE解析した結果であり、バンドの明暗の違いはあるがすべて一致している。

本事例はEHEC O157による食中毒事例であったため、結果が迅速に得られるIS法により初期の時点から原因食品や他県の分離株と結果を照合することができた。しかし、販売されているキットがO157のみのため、他のO群血清型においても迅速に対応するためには、今後MLVA法について技術の習得が必要であると思われた。

なお、今回初めて生食用馬肉を原因食品とするEHEC食中毒が発生した。保健所の汚染原因の調査で、加工会社による適切な汚染防止対策が講じられていたとは言い難い結果であった。また、馬自体が保菌している可能性も考慮し、食肉衛生検査所でと畜場においての馬の糞便を対象としたEHECの保菌実態調査を実施したが、すべて陰性であった。これらの結果から馬肉が汚染された原因究明には至っていない。

 

福島県衛生研究所
   菊地理慧 冨田 望 菅野奈美 二本松久子 小黒祐子 吉田 学 笹原賢司

 

 

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