国立感染症研究所

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蕎麦屋における腸管出血性大腸菌 O157集団食中毒事例―千葉県

(IASR Vol. 36 p. 77-78: 2015年5月号)

2014(平成26)年7月上旬、千葉県北西部の蕎麦屋において、Shiga-toxin 2産生の腸管出血性大腸菌O157(以下O157)による集団食中毒が発生した。本事例では、感染者から分離されたO157菌株の分子疫学的解析において、multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA法)を採用したことで、食中毒事例の早い段階で管轄保健所に解析結果を提供することができた。

事例概要
7月10日に船橋市内の医療機関から腸管出血性大腸菌感染症(O157)の発生届けがあった。感染者は、千葉県内の蕎麦屋店主であった。同日、管轄保健所によって、積極的疫学調査が実施され、蕎麦屋従業員3名の感染が判明した。この3名のうち1名は、6月29日から腹痛、下痢等の症状を呈していた。利用者の発症状況を調査したところ、7月3日~5日にかけて当該飲食店を利用した4グループ4名がO157感染症の症状を呈していた。感染者に共通する喫食メニューは無かったが、感染者全員が7月3日~5日までの間に当該飲食店で提供された食事を喫食していたこと、患者および従事者便からO157菌株が検出されたことから、7月16日、当該施設を原因とする食中毒と断定した。なお、当該施設は、店主の体調不良により7月7日から営業を自粛していた。その後の調査で、7月3日~6日までの利用者のうち16名(患者12名、無症状病原体保有者4名)のO157感染が確認された()。

分子疫学的解析
7月16日、千葉県衛生研究所に、蕎麦屋従業員および利用者から分離された7菌株(従業員1~2および利用者1~5)のO157菌株が搬入され、これらの菌株について、泉谷らの方法1)に従いMLVA法が実施された。その結果、7菌株中6菌株はすべての遺伝子座位でリピート数が一致し、1菌株は1つの遺伝子座位のみでリピート数が異なっていた()。同一食中毒由来の菌株であっても、僅かな遺伝子変異が認められる場合があることから、当該施設を原因とする集団食中毒であることが裏付けられた。7月19日、これらの解析結果について、管轄保健所から店主への説明がなされた。

考 察
O157に感染した従業員は、食中毒発生以前から下痢症状等があったことから、この者が本食中毒事例の原因となった可能性がある。このことから、店主だけではなく従業員の衛生管理および健康管理等の徹底の重要性が示唆された。また、店主が体調不良となった後、O157感染の判明前に当該施設の営業を自粛したことから、食中毒事例の初期に感染源が断たれ、感染者数が拡大することはなかった。

近年、食品流通網を介した散発的な大規模な集団食中毒が発生している。2012年には、O157に汚染された白菜浅漬の流通により、北海道やその他自治体において150人以上の感染者が発生した。散発的集団食中毒は、発生地域や時期に広がりがあるため、疫学的情報のみでは原因の特定が困難な場合が多い。

疫学的情報による調査を補佐する手段として、現在、多くの公的検査機関ではパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法が用いられている。しかし、PFGE法は菌株の型別解析能に優れる反面、解析に約1週間を要し、解析結果を食中毒事例への対応に活用するのは難しい。さらに、PFGE法の解析結果は、ゲルの電気泳動像であるため、複数の検査機関での結果の共有には不向きである。そこで、近年、簡易かつ迅速に実施でき、解析結果の共有に優れた方法として、IS-printing system(IS法)が開発された。しかし、IS法の解析能(同一菌株か区別する能力)はPFGE法より低い2)

一方、MLVA法では、遺伝子の特定領域における繰り返し配列のリピート数から、菌株間の同一性を判定する。MLVA法はPCR法を利用するため、簡易かつ迅速に実施できる。また、解析結果がリピート数であるため、検査機関間での結果の共有が容易である。さらに、MLVA法の解析能はPFGE法と同程度であることが報告されている1)。本事例で分離された16菌株について、PFGE法も実施したが、MLVA法の結果と一致した(データ示さず)。

結論として、MLVA法は、簡易性、迅速性、解析能および結果共有の面から優れた分子疫学的解析法であり、食中毒事例の対応において有効に活用できると考えられる。今後、多くの自治体の検査機関でMLVA法を導入することで、広域的な集団食中毒事例にも対応することができると考えられる。

 
参考文献
  1. Izumiya, et al., Microbiol Immunol 54: 569-577, 2010
  2. Ooka, et al., J Clin Microbiol 47: 2888-2894, 2009

千葉県衛生研究所
  平井晋一郎 松田卓也 涌井 拓 横山栄二 小林八重子
千葉県習志野保健所
  長谷川弘祥 安田美紀 新 玲子

 

 

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