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同一保育園における腸管出血性大腸菌O145の2度の集団感染事例―大津市

(IASR Vol. 36 p. 81-83: 2015年5月号)

大津市内の保育園において2014(平成26)年10月(以下事例①)と12月(以下事例②)の2度にわたり、腸管出血性大腸菌(EHEC)O145:H-、VT2(以下O145)の集団感染事例が発生したので報告する。

1.概 要
(1)事例①
2014年10月4日、市内医療機関から大津市保健所にO145の患者発生届があった。患者は市内保育園に通う1歳男児で、9月28日より下痢・血便を呈して30日に医療機関を受診し、検便によりO145が検出された。保健所は直ちに患者家族と保育園に対する聞き取り調査を実施し、園内の衛生状況や園児の健康状態を確認し、二次感染予防について指導するとともに、患者家族ならびに患者と接する園児・職員に検便を実施した。その結果、同じ園の別クラスに通う患者の兄弟2人からO145が検出されたため、10月8日に調査対象を全園児・職員に拡大し、検便を実施した。

調査・検便を進める中でO145陽性が判明した者の家族の検便も実施し、結果として園児18人、職員2人、家族8人の計28人からO145が検出された。

本事例においては、終息を次の3つの条件により判断した。O145陽性園児の治療が終了したこと(ア)、患者・無症状病原体保有者(以下無症状者)の陰性が確認できたこと(イ)、O145が検出された全園児の登園再開後にEHECの一般的な潜伏期間である10日間連続して胃腸炎症状を呈する者を認めなかったこと(ウ)を満たしたことから、11月6日に本事例の終息を判断した。

(2)事例②
2014年12月6日、別の医療機関からO145の患者発生届があり、患者が事例①と同じ園の2歳男児と判明した。患者は11月30日より下痢・血便を呈して医療機関を受診し、検便によりO145が検出された。患者家族と園に対する聞き取り調査、ならびに患者家族および全園児・職員が対象の検便を実施した結果、園児18人、家族9人の合計27人からO145が検出された。

事例②では調査や検便に加え、12月8日には園と保健所および所管課合同で保護者説明会を開催し、EHEC感染症や二次感染予防について説明を行った。13日には保育士対象に勉強会を実施し、おむつ交換や防護用具の着脱について実技指導を行った。

終息条件の(ア)と(イ)は早期に満たしたものの、(ウ)の条件を満たすまでに時間を要し、2015年3月30日に終息を判断した。

(3)2事例の集計
最終的に園児122名、職員48名、患者家族76名、計246名を検査し、53名が陽性であった。その66%にあたる35名は無症状者、残りは有症者で、低年齢に多くみられ、血便を呈した各事例の初発2名を除いて軽症であった()。

(4)終息に向けた対策
事例②では週1回の保育環境の訪問観察時に、衛生管理の徹底を目的として実際の保育中に汚染が起こりやすい状況や手技の確認・指導を行った。保育園は、以前は0・1歳児クラスへ行くために必ず通過しなければならなかった汚物室を移動し、新たに隔離された場所に設置した。

トイレには清潔区域と汚染区域の明確なゾーニングを行った。園児の便性状についてブリストルスケールを用いて数値化することにより、保育士や施設看護師との間で園児の健康状態が正確に共有でき、円滑に連携を図れるようになった。

このように改善を進めたにもかかわらず、事例②は12月に発生したため、ノロウイルスの流行期に合致し、終息判断は困難であった。しかし、園が保育内容や衛生管理の抜本的な見直しを行った結果、終息条件(ウ)において胃腸炎を呈する園児の発生は間欠的になり、終息となった。

2.検査方法
検便は直接培養と増菌培養にて行った。直接培養は既報(IASR 34: 135-136, 2013)を参考にCT加ソルボースマッコンキー培地(以下SBMAC)、クロモアガーSTEC培地、DHL培地へ糞便を直接塗布して36℃で1日培養した。増菌培養はノボビオシン加mECに糞便懸濁液を加え42℃で約1日培養し、その後O145免疫磁気ビーズ「デンカ」を用いてO145を選択的に集菌し、SBMACとクロモアガーSTECに塗布後36℃で約1日培養した。

SBMACからはソルボース非分解集落、クロモアガーSTECからはEHEC様集落を釣菌し、DHLからはコロニースイープ法によりVT1/2遺伝子の有無を確認した。直接培養時にクロモアガーSTECでは塗布した検体に含まれるO145がごく少量である場合には、目視可能なコロニーを生じるまでに2日程度要することがあり、培地の確認時間に注意を要した。そのことから培養終了後の平板培地は室温(約22~28℃)にて保管し、翌日(培養開始から2日後)にO145を疑う集落の発育の有無を再度確認した。

SBMACやクロモアガーSTECから釣菌した株は、TSI培地やLIM培地などを用いてO145の鑑別を行った。検出されたO145延べ55株のうちLIM培地においてインドール陰性を示すものが1株みられ、生化学的性状による鑑別においても慎重に判断する必要があった。

制限酵素XbaⅠを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析では、検出されたO145 55株中46株が同一PFGEパターンを示した()。この46株は事例①由来が27株および事例②由来が19株であり、事例①と事例②は同一起源の可能性が高いことが示唆された。残り9株は、事例①由来が1株および事例②由来が8株で2~4バンドの違いを示した。事例②は、事例①に比べ2カ月経過しているため、一部の菌株に変異が起きたと推察された。なお、PFGE解析は、滋賀県衛生科学センターで行われた。

3.考 察
(1)食中毒の否定
当該保育園では給食の提供があったことから、これを原因とする食中毒の可能性について検証を行ったが、症状のあった者の発症日に大きなばらつきがあり、単一曝露を示唆する発症分布を示さなかった。また、給食施設の衛生状況や調理の記録からも特段の不備を認めず、かつ調理従事者の便からO145は検出されていないことから本事例は給食を原因とする食中毒ではなく、園内および家庭内での二次感染による集団感染であると考えられた。

(2)感染拡大の要因
本事例は無症状者や軽症者が大半で、感染が判明するまで登園を継続したことや、平日祝日含めて早朝から夜間まで保育を行うために、多くのフリー保育士が全クラス横断的に従事していたことで感染機会が増加した。

登園の許可について、事例①発生時に園は「保育所における感染症対策ガイドライン」を参考にして、排泄習慣が確立している5歳児以上の無症状者は登園可能とし、陰性園児と同様の生活をさせていた。それにより陰性未確認の無症状者が登園し、陰性園児を感染させた可能性があった。この反省から、事例②では感染者全員に検便による2回の陰性確認を確実に行い、治癒証明書提出後の登園許可と変更した。

また、検便はどの事例においても提出日や結果待ちの時間差があるため、先に陰性結果が出た者が結果待ちの者から感染する可能性があり、本事例においてもその可能性は否定できない。

(3)事例間の関連性
事例①の終息後1カ月程度で事例②が発生したこと、PFGE解析においても高い類似性を示したことから、事例②は事例①の再燃である可能性が高い。

事例①では終息3条件を満たしていたが、陰性未確認の無症状者の登園再開とEHECの特徴である高い感染力により、保育士や保護者が気付かぬうちに再び感染者が発生し、事例②の初発患者が確認された頃には既に感染が拡大していたと考えられる。

4.まとめ
本事例における感染拡大の背景には感染者のほとんどが無症状者や軽症者であったこと、保育園のEHEC感染症に対する認識不足やコスト面による標準予防策の不徹底があった。こうした背景から、事例①終息後にO145が再燃し、事例②に至ったと考えられる。このような集団発生事例を再度起こさないよう、園全体の実情に合わせた実践的で継続可能な標準予防策の指導が重要である。

また、事例②はノロウイルスが流行する冬期に発生したことから、終息判断に苦慮した。そのため、保育園に出向いて保育環境の観察・指導を継続したことは、実際の感染状況を把握する上で適切な手段であったと考えられる。

 

大津市保健所
  清本三紀 原田真弓 原田浩二 井上 敏
  鳴海千秋 中村由紀子 勝山和明

 

 

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