IASR-logo

西アフリカのエボラウイルス病:疫学的所見

(IASR Vol. 36 p. 96-98: 2015年6月号)

西アフリカの国境を接する3カ国であるギニア、リベリア、シエラレオネではエボラウイルス病(EVD)の流行が2014年3月以来1年以上継続している1)(このうちリベリアでは2015年5月9日に終息宣言がなされた2))。

この流行の発端は、2013年12月2日に発熱、黒色便、嘔吐で発症し、その4日後に死亡したギニアのGueckedou Districtの2歳の男児であり3)、感染源はコウモリ等の野生動物と推定されている4)。翌2014年(以後、特に表記がない場合は2014年を指す)1月には、男児の家族や、その看護に当たった医療従事者、葬儀・埋葬に参加した者も、同様な症状と経過で死亡した。当時の調査では、報告された症状が下痢、嘔吐、重度の脱水であること、顕微鏡検査から細菌が検出されたこと、また現地の風土病であることから、病原体としてコレラが疑われていたが、確定診断には至っていなかった。その後、首都コナクリや近接する地域へ1カ月の間に感染が徐々に広がっていった。3月22日、フランス・パスツール研究所が、病原体をエボラウイルス・ザイール種と確定し、同日、ギニア政府は、急速に拡大しているEVDの発生を世界保健機関(WHO)に正式に報告した。さらに国境を接するリベリアとシエラレオネからも、それぞれ3月、5月に確定例が報告され、現在に至っている5)

1976年以降、EVDの流行がたびたび発生し、その診断や対応の経験を積んできた中央アフリカの国々と異なり、EVDを初めて経験するギニアにおいては、今回の流行の初期にEVDを疑い、感染制御の対策を考えることは容易ではなかったと思われる。

2015年5月3日現在、WHOへ報告されている症例は計26,628例(疑い・可能性例を含む)うち死亡11,020例であり、このうち症例数の多い西アフリカ3カ国における疑い例を含む症例と、そのうちの死亡例(カッコ内に報告数と致命率)の報告は、ギニア3,589例(2,386例、66%)、リベリア10,564例(4,716例、45%)、シエラレオネ12,440例(3,903例、31%)である1)

年齢群別の報告数と人口10万人当たりの報告数(カッコ内)は、ギニア:0~14歳560例(12例)、15~44歳1,983例(43例)、45歳以上982例(63例)、リベリア:0~14歳994例(58例)、15~44歳3,171例(186例)、45歳以上1,209例(226例)、シエラレオネ:0~14歳2,376例(98例)、15~44歳6,331例(245例)、45歳以上2,498例(338例)となっている。いずれの国においても、10万人当たりの報告数は0~14歳の年齢群で最も少なく、15~44歳の年齢群ではその約3倍であり、最も多い45歳以上の年齢群では0~14歳の10万人当たり報告数の3~5倍となっている1)。このような年齢分布は、今回のEVD流行において、成人が参列し、遺体や遺体を清めた水と密接に接触する習慣のある、伝統的な葬儀・埋葬が主な感染機会であったことと矛盾しないと思われる。たとえば、シエラレオネでの初期の症例は、ギニア国境付近で行われた、伝統医療を行うtraditional healerの葬儀・埋葬と疫学的な関連があったが、その後もその葬儀・埋葬参加者の死亡、さらにその死亡者らの葬儀・埋葬と、感染のサイクルが繰り返され、結果として多数の症例が発生する事態となった5)。なお、報告数の男女差については、いずれの国においても明らかな傾向はない1)

EVDは、1976年にスーダンで初めて報告されて以来2015年までの約40年間、約30事例にのぼるアウトブレイクが報告された。1976~2012年までの事例6)で報告された症例数と致命率(報告された症例のうち死亡例の割合)の中央値(カッコ内四分位範囲)は、それぞれ44例(16~145)、71%(53~83)であった。また、流行期間も過去の流行では、数週間から4カ月程で終息した。

今回のEVD流行の規模は、流行期間、地理的な拡がり、症例数、死亡例数がいずれも過去の事例を大きく上回る状況となり、2014年8月、WHOは「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)」を宣言した。国際的なEVD感染の拡大として、ギニア、シエラレオネ、リベリアいずれかの国からの輸入例および/またはその輸入例と疫学的関連のある症例が計6カ国で報告されている(本号12ページ参照)。具体的には、アフリカ大陸内ではナイジェリア20例(輸入例1例、国内での感染19例)、セネガル1例(輸入例)、マリ8例(輸入例1例、国内での感染7例)、アフリカ大陸外では、米国4例(輸入例3例、国内での二次感染1例)、スペイン1例(シエラレオネからEVD治療のためにスペインへ入国した確定例からの二次感染例)、イタリア1例(輸入例)、英国1例(輸入例)であった1)。しかし、いずれも適切な疑い症例の隔離、確定例の接触者の調査と隔離などの適切な対応によって大きな流行は阻止された。

2015年5月11日現在、ギニア、シエラレオネでの新規症例の報告数は、ピーク時の毎週数100例から毎週10例程度までに減少した。しかし、いまだにEVDの存在を否定したり、伝統的な葬儀・埋葬を秘密裡に行ったりして、接触者調査が適切に行えない事例が報告されており、予断を許さない状況である。今後も国際的な支援を継続し、発生状況を注視していく必要がある。

 
参考文献
  1. WHO, Situation reports: Ebola Response Roadmap-Situation report, 6 May 2015
     http://apps.who.int/ebola/en/current-situation/ebola-situation-report-6-may-20155
  2. WHO, The Ebola outbreak in Liberia is over, 9 May 2015
     http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/liberia-ends-ebola/en/
  3. Baize S, et al., N Engl J Med, 2014 Oct 9; 371(15): 1418-1425, doi: 10.1056/NEJMoa1404505, Epub 2014 Apr 16
  4. Marí Saéz A, et al., EMBO Mol Med, 2014 Dec 30; 7(1): 17-23, doi: 10.15252/emmm.201404792
  5. WHO, One Year Report
     http://www.who.int/csr/disease/ebola/one-year-report/ebola-report-1-year.pdf?ua=1
  6. WHO, Ebola virus disease, Fact sheet N°103 (updated September 2014)
     http://who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/

国立感染症研究所
 感染症疫学センター 島田智恵 有馬雄三 松井珠乃

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan