国立感染症研究所

IASR-logo

エボラ出血熱への国内対応の概要

(IASR Vol. 36 p. 106-108: 2015年6月号)

はじめに
2014(平成26)年の西アフリカでのエボラ出血熱流行に対しては、厚生労働省(厚労省)でも3月のギニアからの第一報から情報収集を継続して状況を注視し、対応を行っていたが、8月に検疫対応および国内対応の強化を開始した。10月末には検疫対応および国内対応のレベルを引き上げ、対応を一層強化した。本稿では、エボラ出血熱に対し厚労省が行った一連の対応を概説する。

エボラ出血熱に対する一連の対応
平成26年3月23日にギニアが世界保健機関(WHO)に対し、エボラ出血熱のアウトブレイク発生を国際保健規則(IHR; International Health Regulations)に基づき報告した。西アフリカにおける発生状況は、加盟国に対しては、各国のIHR国内窓口を通じて逐次情報提供され、厚労省内でも各関係部署と情報共有が行われ、発生状況を注視した。また、検疫所ホームページ(FORTH)を通じて主に渡航者に向けた発生状況の情報提供を随時行った。

流行状況や国際的な情勢の変化を受け、検疫所では、出入国者に対するポスター等による注意喚起に加え、8月以降、入国者に対する健康相談室の利用の呼びかけを開始するなど、流行国からの入国・帰国者に対して確実に健康相談・問診等を行う体制を整備した。入国者には、空港で日頃から実施しているサーモグラフィーによる体温測定に加え、複数カ国語のポスターや検疫官の呼びかけ等によって、流行国に滞在した場合にはその旨の自己申告を促し、健康相談・問診等を実施した。各航空会社に対しては、過去21日以内に流行国に滞在した乗客は、空港到着後、検疫官に自己申告するようお願いする旨の機内アナウンスの協力を依頼した。このほか、流行国への滞在等が把握できた在留邦人に対しては、企業・団体等を通じ、エボラ出血熱の予防などの必要な情報の提供や、帰国時の検疫所への自己申告のお願いなどを実施した。また、エボラ出血熱が疑われる者の隔離や、健康監視中に健康状態に異常を生じた者への対応などの対応手順等、検疫所における流行国からの入国者の具体的な取り扱いを明確化した。この時点では、検疫所では、過去21日以内にギニア、リベリアまたはシエラレオネに滞在していたことが確認された入国者について、エボラ出血熱患者の体液等に接触のあった者で、38℃以上の発熱等の症状がある者については隔離、また、症状のない者については検疫所による健康監視を行い、38℃以上の発熱等の症状が出た場合、検疫所から居住地の保健所に連絡し、対応することとしていた。

8月7日に全国の自治体に対し、国内発生を想定した初動対応のフローチャート等の周知を図るとともに、各都道府県における発生時の初動対応や医療提供体制等の再確認を依頼した。8月8日には厚労省のホームページにエボラ出血熱専用ページを設置した。

10月21日、輸入症例発生の蓋然性の高まりと十分な感染管理の下での対応の必要性から、検疫所では、過去21日以内にエボラ出血熱の流行国に滞在していたことが確認された入国者は、エボラ出血熱患者との接触歴があるものとみなして健康監視の対象として対応し、1日2回の体温を確認することとした。また、可能な限り過去21日の流行国の滞在歴を確認することができるよう、検疫体制の一層の強化を行い、空港については10月24日から、海港については11月21日から、検疫所と入国管理局の連携を強化した。全国の自治体に対しても、ギニア、リベリアまたはシエラレオネの過去1カ月以内の滞在歴が確認された者は、発熱を呈した場合にはエボラ出血熱の疑似症患者として取り扱うこととして、行政と医療機関への協力・周知を依頼した。医療機関に対しては日本医師会等を通じて連携の強化を依頼した。8月の時点では、流行地からの帰国者・入国者でエボラ出血熱様症状の患者が医療機関を受診した際には、保健所への情報提供を求めていたが、国内において症例が確認されていないことから、慎重な対応を行うため、症状のみでの疑似症の届出は不要とすることとしていた。しかし、この通知以降は、渡航歴があり症状が確認された時点で感染症法上の疑似症として患者確定例と同様の取り扱いをすることになった。

11月21日に全国の自治体に対し、国内で患者が発生した場合の行政機関の対応について、疑似症患者の定義を改めるとともに、発生時の対応フローチャート(図1)を改定し周知した。また、接触歴がある無症状者に対する対応が示され、患者との高リスクの接触があった者等に対しては、健康監視のための対応として、1日2回の体温の報告の他、外出の自粛を求めることになった。これによって、流行3カ国からの帰国者・入国者や医療従事者や家族等患者と接した者に対する積極的疫学調査手順や感染リスクに応じた対応内容が明確化された。また、これまで健康監視対象者に発熱等の症状が出たことを確認した時点で検疫所から都道府県等に患者情報を提供するものであったが、より迅速に対応するため、当該者の情報を事前に都道府県等へ提供することとした。

また、平成26年度補正予算において、国内におけるエボラ出血熱等の診断検査等を万全に期すため、国立感染症研究所のセキュリティ強化を行うとともに、エボラ出血熱の診療体制の整備等を推進するため、感染症指定医療機関および保健所の防護服等の購入や医療機関の感染症病床の整備に対する補助を行うこととした。

おわりに
今回の一連の対応によって、一類感染症対策についての準備状況が全国的に見直され、具体的な検討が大きく前進したといえる。検疫所や保健所等での患者等への対応手順は明確になり、保健所を設置する141自治体すべてで、検体搬送や患者搬送のための訓練が実施された。個人防護具の着脱訓練も全国の地方自治体職員や医療関係者に対して実施された。

対応については大きく底上げがなされた一方で、今後このレベルを如何に維持・向上するか、また、流行の終息に向けてどのように体制を解除していくかが課題である。

 

厚生労働省健康局結核感染症課

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version