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2014年度風疹予防接種状況および抗体保有状況-2014年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 36 p. 130-132: 2015年7月号)

はじめに
感染症流行予測調査における風疹感受性調査は1971年度に開始され、以降、2014年度までほぼ毎年度実施されてきた。本調査は風疹に対する感受性者を把握し、効果的な予防接種施策を図るための資料にするとともに将来的な流行を予測することを目的として、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における抗体保有状況ならびに予防接種状況の調査を行っている。

風疹患者は2008年1月以降、従来の定点報告から全数報告に変更となったが、その患者報告数は2008年294例、2009年147例、2010年87例と減少傾向にあった。しかし、2011年は地域的な流行により患者報告数は378例と増加し、翌2012年には流行の拡大により2,386例と大きく増加した。さらに2013年も流行は続き、全数報告開始以降で最多となる14,344例の患者報告があった。これらの流行の中心は20~40代の男性であったが、この流行後の調査となる2014年度の風疹の予防接種状況および抗体保有状況について報告する。

調査対象
2014年度風疹感受性調査は、宮城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、長野県、愛知県、三重県、京都府、山口県、高知県、福岡県、沖縄県で実施された。抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において、それぞれの地域で主に7~9月に採取された血清を用いて、赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition:HI)試験により行われた。また、風疹の予防接種状況調査については上記に加え、北海道、福島県、茨城県、富山県、大阪府、愛媛県、佐賀県、熊本県、宮崎県でも実施された。2015年3月現在で5,743名(男性2,882名、女性2,861名)の抗体価および7,845名(男性3,988名、女性3,857名)の予防接種歴が報告された。

風疹含有ワクチン接種状況
図1に風疹含有ワクチン(風疹単抗原、麻疹風疹混合:MR、麻疹おたふくかぜ風疹混合:MMR)の年齢/年齢群別接種状況について男女別に示した(※本調査結果は一調査時点における接種状況であり、年度単位の接種状況については厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.htmlを参照のこと)。

風疹含有ワクチンの全体の接種状況(男性/女性)をみると、1回接種者は24%/28%、2回接種者は15%/17%、接種は受けたが回数不明であった者は3%/4%、未接種者は9%/8%、接種歴不明者は49%/43%であり、2013年度の結果(男性/女性:1回24%/27%、2回13%/15%、回数不明3%/5%、未接種9%/9%、接種歴不明51%/44%)とほぼ同等であった。

次に接種歴不明者を除いた1回以上接種者(1回・2回・回数不明)の割合について年齢別にみると、男女とも0歳では数%程度であったが、定期接種第1期の対象年齢である1歳で約80%に上昇した。また、2歳以上19歳までは概ね95%以上(2~19歳:男女とも98%)の者が1回以上接種者であり、この年齢層における男女差は±5ポイント程度であった。しかし、20代以降は男女差が大きくなり、特に40~50代前半の年齢群の男性(40~59歳:46%)は、同年齢群の女性(同:72%)と比較して14~39ポイント低い結果であった。

風疹HI抗体保有状況
年齢/年齢群別の風疹HI抗体保有状況について図2に示した。HI試験により抗体陽性と判定される抗体価1:8以上について2014年度の結果をみると、20代までは男性と女性はほぼ同等の結果であり、0歳で25%程度であった抗体保有率は1歳で約65%に上昇し、2歳以上20代までは概ね90%以上(2~29歳:男性93%/女性96%)を維持していた。

一方、30代以降の抗体保有率についてみると、女性では70歳以上群を除くすべての年齢群で90%以上であったのに対し、男性では30~50代の年齢群で90%を下回り、特に35-39歳群(82%)、40-44歳群(79%)、45-49歳群(74%)および50-54歳群(77%)では女性の同年齢群と比較して15ポイント以上(15~24ポイント)低い抗体保有率であった。また、図2には2012年度および2013年度の結果についても示したが、30~50代前半の年齢群で男女差が大きい傾向は変わらず認められた。

まとめ
2014年度に実施された調査の結果、20歳未満の年齢層においては予防接種状況および抗体保有状況ともに男女差は認められず、定期接種第1期対象年齢の1歳で1回以上接種者の割合および抗体保有率は上昇し、2歳以上ではいずれも概ね90%以上であった。これは、2006年から導入されたMRワクチンおよび2回接種制度に加え、2008~2012年度に実施された定期接種第3期・第4期により、同年齢層における風疹の予防接種状況および抗体保有状況が向上したためと考えられ、今後も定期接種における高い接種率を維持することが重要である。

一方、20歳以上の年齢層において、男性は女性と比較して1回以上接種者の割合および抗体保有率が低い傾向がみられ、とくに30代後半~50代前半ではその差が顕著であった。この年齢層は風疹の定期接種が女子中学生を対象に行われていた世代にあたり、2012~2013年の風疹流行時に多くの患者が発生した年齢層である。しかし、流行後でも感染を免れ抗体を保有していない感受性者がいまだに多く残存していることが明らかとなった。

風疹対策においては2014年度より特定感染症予防指針が施行され、「早期の先天性風しん症候群の発生をなくすとともに、2020年度までに風しんの排除を達成する」ことを目標に掲げており、同指針の中で「風しんの抗体検査や予防接種の推奨を行う必要がある」とされる者には本調査で感受性者が多かった年齢層が含まれていることから、今後、感受性者が減少することを期待するとともに、2015年度も実施が予定されている風疹感受性調査における結果が非常に重要と考えられた。

国立感染症研究所
  感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子
  ウイルス第三部 森 嘉生
2014年度風疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県:
  北海道、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、
  新潟県、石川県、富山県、長野県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、愛媛県、高知県、
  福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県

 

 

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