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小児科定点疾患としてのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の動向(2011年~2015年第24週)

(IASR Vol. 36 p. 149-150: 2015年8月号)

はじめに
A群溶血性レンサ球菌は、上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こす。上気道感染症については、乳幼児では咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が現れ、発赤毒素に免疫のない人は猩紅熱といわれる全身症状を呈することがある。気管支炎を起こすことも多い。発疹を伴うこともあり、免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次疾患を起こすこともある。本稿では、感染症法に基づく感染症発生動向調査において、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位で届出を行う5類感染症の一つであるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の近年の動向について述べる。なお、同症の届出基準は患者(確定例)として、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ発熱、咽頭発赤、苺舌の必要な臨床症状をすべて満たすか、すべて満たさずとも必要な検査所見(咽頭ぬぐい液を検査材料とした菌の培養・同定による病原体の検出、あるいは迅速診断キットによる病原体の抗原の検出、あるいは血清を検査材料としたASO法またはASK法による抗体のペア血清での陽転または有意の上昇)を満たすことなどとなっている。詳細については以下のURLを参照されたい(http://www.mhlw.go.jp/bunyA/kenkou/kekkAku-kansenshou11/01-05-17.html)。

発生動向
2011年~2015年第24週までのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者報告数の推移を定点当たり患者報告数として本号1ページ特集の図1に示す。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生は元より季節性があり、冬から春にかけて患者数は増加するが〔Pediatrics, 2007; 120(5): 950-957〕、2014年後半より例年を超える患者の届出がみられていた。2015年に入り、その傾向は顕著なものとなり、第24週における過去5年間の患者数の比較では、+4.09 SDの増加が観察された。第1週~24週までの累積報告数の状況を各年間で比較すると、2015年の累積報告数(全国203,639、定点当たり累積数64.73)については過去10年間で最多であり、次点となる2008年の定点当たり累積報告数(51.63)、2007年の同(51.27)を大きく上回った。

地理的な分布については、2014年第1週~2015年第24週までの定点当たり累積報告数が最も多かった上位10道県は、山形県(299.00)、鳥取県(293.84)、新潟県(275.98)、福岡県(252.55)、北海道(240.42)、石川県(235.86)、山口県(228.24)、島根県(221.66)、鹿児島県(221.23)、福井県(213.49)の順であった。2015年に入り、第24週までの間に定点より1万人を上回る累積報告数を寄せていた自治体は東京都(18,492)、北海道(12,492)、神奈川県(12,361)、大阪府(12,103)、埼玉県(11,632)、福岡県(11,201)の順であり、大都市圏が上位を占めた。

小児科の定点より報告されている2015年第24週までの累積報告数の年齢別分布については、5~9歳(50.9%)、1~4歳(32.8%)、10~14歳(10.6%)、20歳以上(4.3%)、15~19歳(0.8%)、1歳未満(0.6%)の順となっており、うち5歳児が最も多い(9.4%)。

おわりに
近年のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の検査法、報告における小児科定点数の原則、報告基準などに変化はないことから、2014~2015年にかけての小児科定点医療機関におけるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者報告数の増加は、真の報告数増加を示している可能性がある。これまでに報告された2015年の患者における年齢分布の所見は、保育園から小学校低学年を中心とする集団生活を始める年代年齢層が流行の中心であったことを示唆する。しかしながら、この年齢の傾向は特に今年大きく変化があったわけではなく、また、小児科定点のみからの報告では成人発症のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎については評価ができない制約がある。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の例年より多い報告数が、二次疾患であるリウマチ熱や急性糸球体腎炎の動向などにどのような影響を及ぼしているのかも併せて、今後、分析していくことが重要である。


国立感染症研究所感染症疫学センター

 

 

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