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施設内で発生したA群溶血性レンサ球菌咽頭炎によるアウトブレイクについて

(IASR Vol. 36 p. 150-151: 2015年8月号)

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、学童期の小児を中心に広く流行している感染症であり、例年患者報告数は学校の学期開催期間中に増加し、長期休業期間中に減少することを繰り返している。

2014年11月~2015年2月にかけて、大阪府内の障害児入所施設においてA群溶血性レンサ球菌咽頭炎のアウトブレイクが発生し、経過中にコンサルテーションを求められて疫学調査と介入を行ったのでその結果について以下に報告する。

施設入所者数は当時90名(年齢3~23歳、年齢中央値12歳、男性53名、女性37名)であった。入所者の約3分の2が障害者手帳1級と認定され、他の大半は2級と認定されている。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の流行曲線をに示す。発症者はすべて入所児であり、施設職員の発症は認められなかった。罹患者数は34例(年齢3~19歳、年齢中央値11歳、男性23例、女性11例、罹患率37.8%)、2回目の罹患、3回目の罹患を加えた累積罹患者数は45例であった。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の診断は、発熱、咽頭発赤・腫脹、発疹等の症状によって施設に勤務している医師(主に小児科医)の診察により発症を疑い、A群溶血性レンサ球菌の迅速抗原検査で陽性となった場合に診断されていた。発症例における各症状の内訳は発熱85.3%、咽頭発赤・腫脹76.5%、咳20.6%、体幹部・四肢の発疹17.6%、嘔吐17.6%、痙攣14.7%、その他(苺舌、口周囲発赤、口唇の亀裂等)であった。

初回発症例の大半にペニシリン系抗菌薬が内服投与(34例中32例)されており、症状が継続または増悪した場合や、再発症した例にはセフェム系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬が投与されていた。初回発症例に対する抗菌薬の投与日数は10日~43日間であり、速やかに症状が消失した場合は10日間で投与は終了していた。また、速やかに症状の改善をみない複数例においては、抗菌薬投与中の条件下ではあるものの咽頭培養検査が実施され、そのうちの2例においてStreptococcus pyogenes が検出されていた。どちらも感受性検査では、ペニシリン系とセフェム系抗菌薬には良好な感受性を示す一方で、マクロライド系には耐性を示した。

第1例の発生は2014年11月15日であり、経過中に9~14日間の間隔が開いたことがあったが、2月まで患者の発生が継続した。12月20日以降には同一の児において2回目の発症例も認められるようになり、2015年2月16日には3回目の発症例も現れた()。加えて、2015年2月9日と2月12日は糸球体腎炎の発症例も認められた。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、学校等で日常的にみられる感染症であるものの、通常集団発生がみられた場合においても無症状者に対して抗菌薬の予防投与が行われることはほとんどない。しかし、発症を繰り返したり、あるいは糸球体腎炎やリウマチ熱等の合併症を発症する症例が複数認められる場合は、抗菌薬の予防投与による介入を考慮すべきとの指摘もある1, 2)。今回の施設におけるアウトブレイクでは、患者の発生が3カ月間にわたって継続していること、少なくとも10日間は抗菌薬が投与されているにもかかわらず10例の再発症例(1例は再々発症例)が認められていること、そして2例の糸球体腎炎の発症も認められていることより、施設側と協議を行い、抗菌薬を投与中ではない入所児と、施設職員全員に対して迅速抗原検査を行い、陽性者には保菌者として抗菌薬の内服による予防投薬を行うこととなった。

施設職員では、迅速検査の陽性例は1例であった。入所児への迅速検査は2月23~24日に78例に対して実施され、抗菌薬が投与中であった10例に対しては抗菌薬の投与が終了して72時間以上が経過した後で検査が行われた。他の理由により長期にわたって抗菌薬が投与中であった2名に対しては、検査は実施されなかった。88名の入所児に対する保菌検査では49例が陽性(陽性率55.7%)であった。内訳は、未発症例55例中陽性例は30例(陽性率54.5%)、初回発症治療終了例は23例中14例(陽性率60.9%)、再発治療終了例は10例中5例(陽性率50.0%)であった。迅速検査が陽性であり、保菌者と判定された入所児には除菌薬として29例にペニシリン系抗菌薬が、6例にセフェム系抗菌薬が、14例にマクロライド系抗菌薬が10日間投与された。保菌検査陽性49例中44例の児に対しては、初回の除菌薬投与終了後72時間以上が経過してから再び迅速検査による確認検査が実施された。保菌判定者に対する初回の抗菌薬投与による陰性化率は、ペニシリン系抗菌薬が投与された場合は28.6%、セフェム系抗菌薬が50.0%、マクロライド系抗菌薬では70.0%であった。確認検査陽性例には初回とは異なった抗菌薬が再投与された。抗菌薬の予防投与による介入を行って以降、2月24日の発症例を最後に新たな発症者は認められていない。

施設の特殊性から入所児と職員は濃厚接触する機会がたびたびあるものの、保菌検査の陽性率が大きく異なったことは、職員の発症例がなかったこととも関連していると思われる。一方、入所児では未発症例であっても半数以上(55例中30例)が迅速検査陽性であったことは、同疾患の施設内でのアウトブレイク時の感染対策の困難さを示唆する結果であった。また、施設内での服薬コンプライアンスはほぼ100%であるにもかかわらず、菌の感受性検査結果とは異なり、除菌薬としてペニシリン系抗菌薬が投与された後の菌陰性化率は非常に低かった。ペニシリン系抗菌薬はA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の第一選択薬とされており、同施設においても初回発症例のほとんどに投与されていたが、このことが今回のアウトブレイクが長期化した一因であった可能性がある。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎のアウトブレイク時の抗菌薬の投与を含めた対応については、今後も検討していくべきであると思われる。

 

引用文献
  1. Communicable Disease Control and Health Protection Handbook 3rd Ed, 2012, Blackwell Publishing Ltd
  2. 29th ED Red Book 2012 Report of the Committee on Infectious Diseases, American Academy of Pediatrics

大阪府済生会中津病院 安井良則

 

 

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