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劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離株の emm 遺伝子型、2012~2014年

(IASR Vol. 36 p. 154-155: 2015年8月号)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、溶血性レンサ球菌、主にA群レンサ球菌、G群レンサ球菌により引き起こされる。

A群レンサ球菌には、数多くの表層抗原因子が知られている。このうちMタンパクは、型特異的であり、100以上の型が知られていることから、菌の疫学マーカーとしてよく用いられている。Mタンパクは、抗オプソニン作用を有し、細胞への接着にも関与しており、病原因子として知られている。分離株のM型別を行うことは病因との関連を知る上で重要である。M型別を血清学的方法ではなく、Mタンパクをコードする遺伝子(emm)の塩基配列を決定することで、遺伝子による型別が可能となった。

菌株は、衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンターに集められた。そのうち感染症法の劇症型溶血性レンサ球菌感染症の定義に合致する症例の分離株についてemm 型を調べた。emm 型はBeallら1)の方法に従って行った。

2012~2014年までに劇症型溶血性レンサ球菌感染症から分離されたA群レンサ球菌243株(2012年110株、2013年61株、2014年72株)について、emm 遺伝子型別を行った(図1)。菌種は、243株のうち、238株がStreptococcus pyogenes、5株がS. dysgalactiae subsp. equisimilisであった。全部で30種類のemm 遺伝子型の株が2012~2014年の間分離された。最も多い型は、emm1 型で、41.2%(100株)を占めていた。続いて、emm89 (20.2%、49株)、emm12 (6.58%、16株)、emm28 (6.17%、15株)、emm3 (4.53%、11株)であった。最も多かったemm1 型は、2012年と2014年で最も多く分離された遺伝子型であった。2013年はemm89 型が最も多かった。emm 型の中でも、emm1 型による劇症型溶血性レンサ球菌感染症は致命率が高いことが報告されており2)、今後の動向が注視される。

一方、G群レンサ球菌もA群同様emm 遺伝子を保有しており、emm 遺伝子型別が可能である。劇症型溶血性レンサ球菌感染症から分離されたG群レンサ球菌100株(2012年32株、2013年30株、2014年38株)について、emm 遺伝子型別を行った(図2)。菌種は、100株すべてS. dysgalactiae subsp. equisimilis であった。全部で20種類のemm 遺伝子型の株が2012~2014年に分離された。最も多い型は、stG6792 型で、28.0%(28株)を占めた。続いて、stG485 (13.0%、13株)、stG2078 (9.0%、9株)、stG245 (8.0%、8株)と続いていた。最も多かったstG6792 型は、毎年最も多く分離されている型であった。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症が近年増加していることから、どのような遺伝子型を示す株がこの感染症を引き起こしているか把握するためにも、さらなる調査が必要である。

 
参考文献
  1. Beall B, et al., J Clin Microbiol 34: 953?958, 1996
  2. Ikebe T, et al., Epidemiol Infect 143: 864-872, 2015

国立感染症研究所細菌第一部 池辺忠義 大西 真
大分県衛生環境研究センター 一ノ瀬和也 佐々木麻里
山口県環境保健センター 矢端順子 亀山光博
大阪府立公衆衛生研究所 河原隆二
神奈川県衛生研究所 大屋日登美
東京都健康安全研究センター 奥野ルミ
富山県衛生研究所 三井千恵子
福島県衛生研究所 二本松久子

 

 

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