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クリプトコックス症の世界的な状況(C. gattii 感染症の状況を中心に)

(IASR Vol. 36 p. 186-187: 2015年10月号)

クリプトコックス症は、酵母様真菌であるCryptococcus 属による感染症であるが、主に、中でも比較的病原性の高いC. neoformansおよびC. gattii による感染症を指すことが多い。正確な患者数は把握できていないが、日本では、90%以上がC. neoformansによるものである。C. gattii は、従来、その生息がオーストラリアを中心とする熱帯・亜熱帯地域に限定されており、コアラに感染する病原体として知られていたが、1999年にカナダ・ブリティッシュコロンビア(BC)州のバンクーバー島東海岸地方で集団発生が起こり、以降、バンクーバー市を含むBC 州の各地、および近接する米国ワシントン州やオレゴン州など、散発例も含めて多数の感染例が報告され、死亡例も報告されている1-3)

遺伝子タイプとして、C. neoformans はVNI~VNIVおよびVNBの5つに、C. gattii はVGI~VGIVの4つに分類され、さらに、VGIIは、VGIIa~VGIIc等細かく分類される。オセアニアでは、VGIが主要株であるのに対して、北米ではVGII、特にVGIIaが主要株となっている。C. gattii は、C. neoformans よりも病原性が高く、致命率が高いことが知られているが、北米流行のVGIIaは、VGIなどの従来のC. gattii と比較しても、病原性が高いことが示唆されている。北米流行の中では少数派であるが、米国オレゴン州を中心に発生した新たな遺伝子型VGIIcの株は、VGIIaよりもさらに致死性が高い可能性が指摘されており、今後の動向が注目されている4)

にCogliatiが近年報告した世界的な分布を示す5)。環境分離株も含まれており、また、分離菌すべてにおける比率を示しているわけではないが、アジア全体をみても、C. neoformans の分離頻度が高く、アフリカおよび南米も同様の傾向にある5)。一方、オーストラリアを中心とするオセアニアでは、C. gattiiが60%を超えている。遺伝子型をみてみると、C. neoformans の場合には、いずれの地域でもVNIが最も多いが、C. gattii の場合には、オセアニアではVGIが39%と最も多く、北米ではVGII、特にVGIIaが39%と多い。このように、オセアニアと北米とでは、遺伝子型の分布が異なっていることから、北米におけるC. gattii の比率には、前述の集団発生をもたらした系統的に近縁の株が地域的に拡大していることを意味していると考えてよいだろう。

また、2010年には発生地域への明らかな渡航歴のない日本人での発症例が報告されたが、バンクーバー島で集団発生したVGIIaと同一の株であることが確認され、何らかの形で日本に運び込まれた可能性も考えられ、発生地域の世界的な拡大傾向が憂慮されている6, 7)(本号5ページ参照)。日本におけるC. gattii による感染症の報告数は依然として少ないものの、北米での流行と2010年の日本での報告例を契機として、認知されるようになってきた。日本での既存分離株の遺伝子型解析の結果として、Umeyamaらは、VNIが42株、VNIIが2株、Miharaらは報告では、35株中32株がVNIで、3株がVNIIであることを報告しており、C. gattii は含まれていないが、散発例としては、北海道から堀内らがVGIを、静岡からKawamuraらがVGIIbを報告している(8-12)

播種性クリプトコックス症が2014年9月に感染症法の5類全数把握疾患に指定されて、一般検査室では同定の難しいC. neoformansC. gattii との鑑別が正確に行われることが増え、C. gattii の日本での実情が解明されることが期待されている。

 
参考文献
  1. Byrnes E, et al., J Infect Dis 199: 1081-1086, 2009
  2. Galanis E, Macdougall L, Emerg Infect Dis 16: 251-257, 2010
  3. Springer DJ, Chaturvedi V, Emerg Infect Dis 16: 14-20, 2010
  4. Byrnes EJ III, et al., PLoS Pathog 22; 6(4): e1000850, 2010
  5. Cogliati M, Scientifica (Cairo) 2013: 675213, 2013
  6. Okamoto K, et al., Emerg Infect Dis 16: 1155- 1157, 2010
  7. 国立感染症研究所真菌部, 高病原性クリプトコックス症(Cryptococcus gattiiによるクリプトコックス症:ガッティ型クリプトコックス症)に関する注意, http://www.niid.go.jp/niid/ja/lab/476-b
  8. ioact /485-bioact-cgattii.html
  9. Kawamura I, et al., Med Mycol J 55(3): E51-54, 2014
  10. Nakashima K, et al., Respirol Case Rep 2(3): 108-110, 2014
  11. Umeyama T, et al., Jpn J Infect Dis 66(1): 51-55, 2013
  12. Mihara T, et al., Med Mycol 51(3): 252-260, 2013
  13. 堀内一宏, 他, 臨床神経学 52(3): 166-171, 2012

大阪市立大学大学院医学研究科細菌学 金子幸弘

 

 

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