国立感染症研究所

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ヒトパルボウイルスB19の検査法

(IASR Vol. 37 p. 9-10: 2016年1月号)

はじめに
ヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)の血清型(serotype)は1つとされ、生涯一度しか感染しないとされている。ゲノムの型(genotype)は大きく3つに分類される。現在、国内外で検出される株のほとんどがgenotype 1である。

現在、一般に検査委託会社に依頼ができる検査は、酵素免疫測定法enzyme immunoassay(EIA)によるPVB19 IgMおよびIgG検査とポリメラーゼ連鎖反応polymerase chain reaction(PCR)によるPVB19 DNA検査の3つである。ただし、現在健康保険の適応となっているのは、妊婦への感染が疑われたときのEIAによるPVB19 IgM抗体のみである(IgGは適応外)。小児の伝染性紅斑をはじめとするPVB19感染症にはPVB19 IgMおよびIgGは保険適応がなされていない。また、PCRによるPVB19 DNA診断は疾患にかかわらず保険適応がなされていない。

1. ヒトパルボウイルスB19感染の抗体価測定
一般に健常小児においては、PVB19感染後2週間ほどでPVB19 IgM抗体の上昇を認め、感染後約3カ月間にわたり陽性が続いた後に陰性化する。一方で、PVB19 IgG抗体はIgMが陽性となった数日後より上昇し、一度感染すると生涯にわたり陽性となる()。このためPVB19 IgGの陽性者は既感染、陰性者は未感染と考えることができる。伝染性紅斑の出現時期にはPVB19 IgMおよびIgGともに陽性となっている。

日本国内では、国立感染症研究所・松永泰子博士が確立したEIA系1)をベースにして、1990年代の初めにバキュロウイルスを利用して発現させた中空抗原によるEIAがデンカ生研により開発された2)。IgM抗体測定は、抗体補足法が間接法より非特異反応が少ないことを理由に抗体補足法を用い、IgG抗体は、間接法の方が抗体補足法より感染後長期間が経過しても感度が下がりにくいため、間接法を用いている。中空抗原はVP1とVP2の両方をそれぞれ発現させ、自己集合させた抗原を用いている。自己集合させたVP1とVP2の割合は天然のPVB19における割合とほぼ同じである。世界的にはVP2のみを抗原として使用しているキットが多い。日本国内で検査試薬として認可されているのはデンカ生研のキットのみである。

注意点としては、PVB19感染症の診断にPVB19 IgMの検出は有用であるものの、時に偽陽性がみられることがあげられる。多数の検体をPVB19 IgMにてスクリーニングした場合、特にインデックスが1~2までの検体の半数ほどに偽陽性がみられる。PVB19 IgMインデックスが低い場合は後述するPCR法との併用が望ましい。

2. ヒトパルボウイルスB19感染のウイルスDNA検出
ウイルスDNAの一部を増幅して検出するPCR法がPVB19感染の診断に有用である。免疫が正常な健常人においてもPCR検査にてPVB19 DNAは感染後、半年~1年にわたり陽性を認める。PVB19のPCR検査は、血清からDNA抽出をせずにそのままサンプルとして使用できる。ただし、ヘパリンやEDTAが混じっているとPCR反応を阻害するので、血漿はDNAを抽出してから使用する。PCRはDNAが一定の増幅(約108-9倍)がなされたところで、それ以上サイクルを重ねても増幅されない。そのため、1回目のPCRの後、増幅産物のさらに内側にプライマーを設定して2回目のPCRを行うことで、検出感度を上げる方法がnested PCRである3)。日本国内で検査委託会社に依頼できるPCRはsingle PCRが主流である。また、特別な装置が必要ではあるが、DNAの定量が可能なreal-time PCR法も実用化されている4)

3. ヒトパルボウイルスB19感染の診断にあたっての注意点
PVB19は5,596塩基よりなる1本鎖DNAウイルスである。完成したPVB19ウイルスの中にはプラス鎖の1本鎖DNAゲノムしか存在しないが、ウイルス複製時には二量体複製型の2本鎖となり、不要なマイナス鎖および使用されなかったDNA断片が、ウイルスの外にフリーなDNAとして、骨髄中そして血液中に多量に放出されると考えられる。したがって、ウイルスからDNAを抽出せずに、直接血液検体からPCRなどによりPVB19 DNAを検出できる利点がある。一方で、たとえば髄液よりPVB19 DNAが検出されたとしても、それはウイルスが髄液中に存在していることを証明していることにはならない。ウイルスが移行せずとも、PVB19 DNAのみが移行している可能性があるからである。

 

参考文献
  1. 松永泰子, 他, 感染症学雑誌 66: 434-440, 1992
  2. 要藤裕孝, 他, 感染症学雑誌 69: 1135-1140, 1995
  3. Yoto Y, et al., Br J Haematol 91: 1017-1018, 1995
  4. Ishikawa A, et al., J Med Virol 86: 2102-2106, 2014

 札幌医科大学医学部小児科学講座
   准教授 要藤裕孝

 

 

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