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本邦初の重症熱性血小板減少症候群と診断された小児例

(IASR Vol. 37 p. 42-43: 2016年3月号)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はSFTSウイルス(SFTSV)によるダニ媒介性感染症である。日本では2013年1月に初めてSFTS患者報告がなされ1)、2015年10月末現在163例が報告されている2)。しかし、本症例以外で小児の報告はない。今回、我々は国内で初めてSFTSと診断された小児例を経験した。

症例は生来健康の5歳女児。2015年5月X日に近くの山に出かけ、その4日後に左耳介後部のリンパ節腫脹が出現した。翌日には37℃後半の発熱を認めた。X+6日に母が児の頭頂部にダニが付着しているのを発見した。ダニは自然に皮膚から脱落したが、近医でダニ刺咬部周囲を切開された。帰宅後より39℃の発熱が出現し、翌日も持続したため、ダニ媒介性感染症を疑われ入院した。

入院時、体温38.7℃であり、心拍数、呼吸数も増加していたが、全身状態は良好だった。両側の眼球結膜充血および左耳介後部に軽度の熱感を伴う圧痛が著明な1.5cm大のリンパ節腫脹を認めた。ダニ刺咬部の発赤、腫脹はなかった。入院時の血液検査では、白血球数および血小板数は正常、生化学検査では血清AST値およびLDH値の軽度上昇を認めた(表1)。

発熱後、2回の嘔吐を認めたが、入院後は嘔吐なく経過した。発熱と眼球結膜の充血以外に症状を認めなかったため、輸液のみで経過観察した。入院3日目(第6病日)に腹痛が出現したが、症状は数時間で消失し、嘔気や嘔吐、下痢は認めなかった。また、入院時には血球減少を認めなかったが、同日の血液検査では、白血球数2,300/μl、血小板数10.9×104/μlと減少していた。入院4日目(第7病日)に入院時(第4病日)に採取した血液がPCR法によってSFTSV遺伝子陽性であることが判明し、SFTSと診断した。無治療で入院5日目(第8病日)には解熱し、以後、再発熱はなく、入院8日目(第11病日)に退院した。血小板数の最低値は第7病日の7.1×104/μlであった(表2)。

2015年10月末までに国内で報告された163例のうち、死亡例は43名で、年齢中央値は74歳だった2)。SFTSの潜伏期間は6~14日間であり、臨床所見として、38℃以上の発熱、頭痛、頸部リンパ節腫脹、消化器症状、出血症状、神経症状などが出現する。検査所見では、白血球数と血小板数の減少、逸脱酵素の上昇を認める。この症例では、発熱、頸部リンパ節腫脹、消化器症状、白血球数および血小板数の減少を認めた。致命率は2.5~30%程度であるが、死亡例の大多数は50歳以上である3,4)。重症化の危険因子として、神経症状、出血症状、多臓器不全が挙げられている5)

海外においても小児例の報告は少ない。詳細な経過が確認できた小児4例において、発熱は全例で認めており、消化器症状も3例で認めている6)。一方、出血症状は点状出血を認めた1例であった。成人例では、発熱、消化器症状だけでなく、点状出血や吐血、神経症状を認めた割合が高い7)。小児と比べると、成人のほうが白血球数の減少が顕著である7)。これまでに20歳以下の死亡例の報告はなく、軽症例が多いと報告されている。SFTSの成人例ではIFN-γ、TNF-α、IP-10が重症度と疾患活動性に相関するが8)、小児例での相関は不明である。本症例では、血清サイトカインのうち、INF-γ、IL-10が白血球数と血小板数が減少した第7病日に上昇していたが、軽度の上昇にとどまっていた(表2)。SFTSVと同じブニヤウイルス科に属するウイルスによるクリミア・コンゴ出血熱でも小児例は成人例より軽症であることが多い9)。成人の重症例では過剰な免疫反応が生じており、これが臨床経過に関与していると考えられている。これらのウイルスによる感染症を発症した成人と小児での重症度の相違は、免疫応答の差によるのではないかと推察される。小児例の報告は少ないため、今後症例を集積し、詳細な解析が行われることが望まれる。

 
参考文献
  1. 西條政幸, 他, IASR 34: 40-41, 2013
  2. 感染症発生動向調査
  3. Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011
  4. Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249-252, 2012
  5. Gai ZT, et al., J Infect Dis 206: 1095-1102, 2012
  6. Wang LY, et al., BMC Infect Dis 14: 366, 2014
  7. Liu W, et al., Clin Infect Dis 57:1292-1299, 2013
  8. Deng B, et al., PLoS One 7: e41365, 2012
  9. Arasli M, et al., J Clin Virol 66: 76-82, 2015

産業医科大学小児科
 保科隆之 川瀬真弓 中本貴人 石井雅宏 楠原浩一

 

 

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