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愛媛県におけるSFTSの検査、疫学、対策について

(IASR Vol. 37 p. 43-44: 2016年3月号)

愛媛県における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者発生状況
2013年1月に国内(山口県)で初めて確認されたSFTS事例1)を踏まえて、症例定義に基づく後方視的調査が実施され、2月13日に愛媛県と宮崎県の成人男子2人もSFTSにより2012年に死亡していたことが明らかにされた2, 3)。現時点で(2016年2月12日)、計21名の患者(20名は県内在住者)が愛媛県から報告されている()。後方視的調査で3名、前方視的に17名(2013年6名、2014年10名、2015年1名)が診断され、患者発生数では宮崎県についで2番目に多い。

愛媛県におけるSFTSの疫学的および臨床的特徴
20名の患者の平均年齢は73.7歳、男女比は9対11である。20名中7名が死亡している。患者の居住区(保健所管内)については、15名(八幡浜9名、宇和島6名)が南予と呼ばれる県南部の、5名(松山市3名、中予2名)が松山市・中予在住の患者であった。北西部では発生の報告がなく地域性が認められる。刺し口が認められたのは11名で半数近くは確認されていない。12名(60%)の患者がペット(イヌ、ネコ)を飼っていた。

患者5と患者6は親子で、母親が発症した3日後に娘が発熱と消化器症状を呈した。SFTSウイルス(SFTSV)は体液を介してヒト-ヒト感染することが報告されている。患者6も母親の介助、汚物の処理や衣服の交換を行っていた。この2名から分離されたSFTSVの全ゲノム配列を国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部と共同で解析したところ、塩基配列が完全に一致したことから由来が同じSFTSVと考えられた。そのためヒト-ヒト感染による家族内感染の可能性が示唆されるが、子も大腿部にダニ刺咬痕が認められたことから、マダニに咬まれて感染した可能性も否定できず、ヒト-ヒト感染による家族内感染事例とは断定できない4)

骨髄生検あるいは病理検査が実施された患者の多くで血球貪食像が認められ、SFTSの重要な病態のひとつと考えられる。特に、発症から約2週間で死亡した患者(60代)の病理解剖所見において、リンパ節、骨髄等に著明な血球貪食像を認めた。感染研感染病理部と共同で、各臓器におけるSFTSV抗原を免疫組織染色法で検索すると、縦隔リンパ節、脾臓、肝臓、骨髄に多くの抗原陽性細胞が認められ5)、SFTSVがこれらの臓器中で増殖していたことが示唆された。

SFTS疑い患者検体の検査
2013年3月に当所での検査体制が確立する以前の2症例を除き、計70例の疑い患者の検査を実施し、陽性が19例(27.1%)であった。SFTSの届出基準である、発熱、消化器症状、非消化器症状(筋肉痛、神経症状、出血傾向等)、血小板減少、白血球減少、血清酵素上昇(AST、ALT、LDH)の6項目の出現と検査結果を調べた。SFTSV陽性例では、約7割で6項目すべてが認められたが、ほとんどの陰性例では認められた項目は4~5項目であった。したがって、6項目すべてが認められる場合はSFTSを強く疑うべきである。一方、認められる項目が4~5項目であってもSFTSV陽性の場合があり、6項目すべて満たすことを遺伝子検査の前提にすると、SFTS患者を見逃す可能性がある。

愛媛県におけるSFTS対策
SFTS対策として、①医療従事者、感染症対策担当者を対象とする研修会、②地域住民の教育、啓発、③マダニや野生動物の対策、の3点を主に実施してきた。①については、2013年4月にSFTSに対する認識を深めるため、専門家2名の講師による研修会を実施した。2014年5月にも第2回研修会として、SFTS患者を診療した5名の医師による症例報告、および病理医による2症例の病理学的検討を行った。②については、保健所および市町と連携して2013~2015年に40回以上の住民向け講習会を実施し(のべ4,000人以上参加)、感染対策について周知徹底した。③については、患者発生地を中心に約3,000匹のマダニを採取し、感染研獣医科学部と共同でSFTSV検出検査を実施し、イノシシ、シカ等におけるSFTSV抗体保有についても調査した。マダニSFTSV保有率の高い地域の住民に対し感染対策をさらに徹底した。抗体保有率が高かったイノシシ、シカを中心に野生動物を年間2~3万頭捕獲・駆除した。2015年には患者発生が1名と激減した。確かな根拠があるわけではないが、これらの対策により患者数が減少した可能性がある。

地域住民のSFTSV抗体保有調査
SFTSVの感染実態を明らかにするため、2015年に患者発生地域を中心に農業・林業に従事者する50歳以上のハイリスクグループ694名から採血し、感染研ウイルス第一部と共同でこれらの対象者におけるSFTSV抗体陽性率を調べた。間接蛍光抗体法で抗体陽性者は2名で(抗体陽性率0.29%)、八幡浜保健所管内在住の60代男性と70代女性であった。うち1名は全くSFTSの症状を自覚しておらず、軽い症状を呈しただけか不顕性感染であったと考えられる。

SFTSの国内例が確認されてから3年が経過した。今後は感染対策の徹底に加え、SFTSに特異的な予防・治療法の開発が求められる。

謝辞:「SFTSの制圧に向けた総合的研究」班、愛媛県保健福祉部健康増進課、保健所、医療機関等の関係者の皆様に深謝いたします。 

参考文献
  1. 西條政幸, 他, IASR 34: 40-41, 2013
  2. 西條政幸, 他, IASR 34: 108-109, 2013
  3. Takahashi T, et al, J Infect Dis 209: 816-827, 2014
  4. 本間義人, 他, IASR 34: 312-313, 2013
  5. 金子政彦, 他, 感染症学雑誌 89: 592-596, 2015

愛媛県立衛生環境研究所
  四宮博人 木村俊也 山下育孝 溝田文美 山下まゆみ 大塚有加 菅 美樹

 

 

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