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国内で確認された株を含むSFTSウイルスの分子系統学的解析

(IASR Vol. 37 p. 44-45: 2016年3月号)

重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)は3分節1本鎖RNAウイルスである。ゲノム分節が長い順にL、M、Sと名付けられており、サイズはそれぞれ約6.4キロ、3.4キロ、1.7キロベースある。ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される。同じフレボウイルス属には、リフトバレー熱ウイルスや、2012年に初めて報告されたハートランドウイルスなど重篤な感染症を引き起こすウイルスが含まれる。

今回、日本国内で2014年6月までに感染が確認された合計75人分のサンプル中に確認されたSFTSVゲノムについて、可能な限り全領域をRT-PCRにて増幅し、その遺伝子配列を決定した。これらのSFTSV 75株分に加えて、中国と韓国で確認され、DDBJ/EMB/GenBankに登録されている株を含めて分子系統学的解析を行い、日本国内に分布するSFTSVの分子進化および地理的分布の特徴を検討した1)

SFTSVの祖先の系統学的位置を推定するために、外群としてSFTSVと近縁のハートランドウイルス(図中のHV)のゲノムも含めて解析を行った。近縁とはいえ、そのままではSFTSV株の系統樹が非常に小さく見ずらいため(図1A)、四角で囲んだ領域を拡大した(図1B)。

M分節のゲノムから得られた結果では、SFTSVの系統樹の根の部分(そこから伸びる枝がハートランドウイルスと接続する部分)、つまりSFTSVの祖先が、それぞれ中国で確認された株の大多数と日本で確認された株大多数が形成する2つのクレードを明確に分ける位置に存在した。本稿では割愛したが、L分節とS分節の系統樹についても、M分節ほど明らかではないが、中国で確認された株と日本で確認された株を分ける節の近傍に根が存在した。そこでこれら2つのクレードをChineseクレードおよびJapaneseクレードと定義した。系統樹の樹形より、これら2つのクレードは合計8つのジェノタイプ(C1~C5はChineseクレード内、J1~J3はJapaneseクレード内)によって構成されていることが明らかとなった。日本国内で確認された株のほとんどはジェノタイプJ1に属しており、ジェノタイプJ2、J3に属する株は少数であった。各県ごとのジェノタイプの分布を図2に示す。日本国内で確認された株のうち3株はChineseクレードに分類され、そのジェノタイプはC3~C5であった。これら3株が感染していた患者たちに直近の渡航歴はなかった。一方で中国、または韓国国内で確認された株にはジェノタイプJ3に分類されるものが存在することも明らかとなった。以上より、SFTSVは稀に地理的な距離や海という障壁を超えて別の地域に持ち込まれている可能性が示唆された。地理的、距離的障壁があるにもかかわらずSFTSVが移動する理由は現時点で不明であるが、いくつかの可能性が推測される。SFTSVはマダニによって媒介される。マダニは動物に付着し長距離を移動しうる。マダニを長距離輸送する動物として渡り鳥が考えられる。実際に、SFTSVと同じブニヤウイルス科に分類されるクリミア・コンゴ出血熱ウイルスはマダニが付着した渡り鳥によって様々な地域に運ばれていることが報告されている2, 3)。もう一つの可能性はヒトや家畜である。古来より中国、韓国、そして日本の間ではヒトや家畜の行き来が盛んであった。検疫などのシステムが整備される前の時代には、これも保菌ダニが長距離を移動する原因となることが考えられる。


参考文献
  1. Yoshikawa T, et al., J Infect Dis 212: 889-898, 2015
  2. Lindeborg M, et al., Emerg Infect Dis 18: 2095-2097, 2012
  3. Palomar AM, et al., Emerg Infect Dis 19: 260-263, 2013

国立感染症研究所ウイルス第一部
    吉河智城 下島昌幸 福士秀悦 谷 英樹 福間藍子 谷口 怜 西條政幸
同感染症疫学センター 山岸拓也 大石和徳
同獣医科学部 森川 茂

 

 

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