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SFTSV定量的リアルタイム RT-PCR法と,SFTS患者のウイルス量と予後の関係性について

(IASR Vol. 37 p. 45-47: 2016年3月号)

国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部では、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)のウイルス学的検査法として遺伝子検査法、抗体検査法、ウイルス分離法などを行っている。これまで、SFTSVの遺伝子検出法として、コンベンショナルone-step RT-PCR法(cvPCR)が紹介されている(IASR 35: 40-41,2014)。このcvPCRは、現在、各地方衛生研究所(地衛研)で実施可能で、各地衛研で陽性と判定された検体は、感染研ウイルス第一部において再検査されている。感染研では、この方法の他に定量的リアルタイム RT-PCR法(qPCR)も実施されている。本稿では、開発されたqPCRと、qPCRによって決定されたSFTS患者血中ウイルス量と予後の関連について解説する。

SFTSV定量的リアルタイム RT-PCR法(qPCR)の確立
qPCRには、SFTSVのNP、GPC、RdRp遺伝子を標的としたプライマー・プローブセットが設計された()。SFTSVのHB29株、YG1株、SPL005株を用いてqPCRの検出限界が検討され、最も低いSPL005株で1TCID50/反応まで検出可能であった1)。それぞれ17.8(HB29)、20.0(YG1)、8.3(SPL005)コピー数/反応(平均15.4コピー数/反応)に相当する1)。開発されたqPCRでは、Rift Valley fever virus、Forecariah virus、Heartland virusなどSFTSVに近縁なフレボウイルスの遺伝子は増幅されず、SFTSVに特異的であった。本qPCRにより中国株HB29株のみならず、中国株と同じジェノタイプに分類される日本株の遺伝子も検出されることが示された。実際、本法により複数の中国株が患者より検出されている(本号6ページ参照)。これらの結果から、開発されたqPCRは中国株、日本株ともに検出可能であることが示唆された。また、NPとGPC遺伝子を標的としたプライマー・プローブセットを混合したmultiplex qPCRも確立された。Multiplex qPCRの検出感度はそれぞれqPCR単独の場合とほぼ同等であった1)。SFTS患者の血中ウイルス量は、103コピー数/ml以上と報告されていることから2)、multiplex qPCRによるSFTSVゲノムの検出がSFTS診断法として有用であることが示された。

SFTS疑い患者の検体を用いたcvPCRとqPCRの検証
SFTS疑い患者の検体を用いたcvPCRとqPCRによるSFTSVゲノム検出の相関が検証された1)。急性期の血液および咽頭ぬぐい液を用いたcvPCRとqPCR結果は、ほぼ一致した。しかし、尿および脳脊髄液中のウイルスゲノム濃度が低い一部の検体は、cvPCRとqPCRの間で成績が一致しない場合があった1)。これら尿および脳脊髄液の一部の検体は、cvPCRとqPCRでともに検出されないか、あるいは検出されてもウイルスRNA濃度は低かった(104コピー数/ml以下)1)。血清、血漿および咽頭ぬぐい液は、尿、脳脊髄液に比べ、ウイルス遺伝子量が高く、ウイルスゲノム検出に適していると考えられた。以前、Sunらによって報告されたqPCRのプライマー・プローブセットは、中国株をもとに設計されている2)。そこで、感染研で開発されたqPCRと以前に報告されたqPCRをSFTS疑い患者の検体を用いて比較した。以前に報告されたqPCRで検出されなかった検体は、感染研で開発されたqPCRでもすべて検出されなかった。しかし、感染研で開発されたqPCRで検出された検体の中には、ウイルスコピー数が10倍以上高い値を示す場合があった1)。このことから、日本株については、感染研で開発されたqPCRの検出感度はより高いと考えられた。

SFTS患者の血中ウイルス量と予後の関係性
qPCRによって算出された血中のウイルスコピー数と患者の予後の関係性の解析から、死亡患者の急性期血清中ウイルスコピー数の平均値は、回復した患者のそれに比べ、有意に高いことが示された(図A1)。また、患者血清の発症からの日数と血中のウイルスコピー数の解析から、回復患者の血清中ウイルスコピー数の平均値は、発症から3~10日後に亡くなった患者に比べ、有意に低いことが明らかとなった(図B1)。死亡患者と回復患者間で血中ウイルスコピー数の平均値に有意な差が示された理由として、少なくとも発症後3日から回復するまでの間、回復患者では少量のウイルスが維持されているのに対して、死亡患者では多量のウイルスが維持されていると考えられた。既に患者の重症度と相関があると報告されている。血中サイトカイン,ケモカイン濃度、血小板数、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度とアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)濃度などとともに、ウイルスRNAの定量結果は予後の予測などに有用な情報を提供すると考えられる。

 
参考文献
  1. Yoshikawa,et al.,J Clin Microbiol 52 (9):3325- 3333,2014
  2. Sun,et al.,J Clin Virol 53 (1):48-53,2012

国立感染症研究所ウイルス第一部
  福間藍子 吉河智城 福士秀悦 下島昌幸 西條政幸

 

 

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