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抗SFTSウイルス薬開発の進捗状況

(IASR Vol. 37 p. 49-50: 2016年3月号)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス(SFTSV)感染によって引き起こされるSFTSは、発熱、消化器症状を主徴とし、病名通り血小板数が著明に低下することと白血球数減少を伴うことが特徴の新興感染症である。時には、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血球貪食症候群(HPS)、多臓器不全なども認められ、様々な症状の後に重篤化することも多い。日本においては、約30%にまで及ぶ高い致命率を示している。こうした重症化を防ぎ死亡者数を減らすことが課題である。しかし、SFTSに特異的な治療方法は現在までのところ確立されておらず、対症療法が基本となっている。HPSに対する治療薬としてメチルプレドニゾロン剤が投与された例も報告されているが1)、動物実験でのステロイド剤の効果はみられておらず2)、そのSFTS治療薬としての有効性は明らかでない。

抗ウイルス薬の一つであるリバビリンやインターフェロンが、SFTSVの増殖を抑制することは、培養細胞では確かめられている3-5)。また、動物実験でのリバビリンの発症予防効果は限定的であるが、認められている2, 5)。ただし、ウイルス増殖がピークに達している時期のSFTS患者にリバビリンを投与しても効果は期待できないと考えられている6)

最近、抗ウイルス薬として注目されているのが、ファビピラビルである。ファビピラビルはインフルエンザウイルスに対するポリメラーゼ阻害薬として開発されてきたが、これが様々なRNAウイルスに対して抗ウイルス効果を示すことが分かってきている。7)、エボラウイルスに対しても、マウスでの動物実験で抗ウイルス効果が認められたことから8)、実際に2014~2015年の西アフリカにおけるエボラ出血熱流行地域において感染患者での臨床試験が進められた。

国立感染症研究所では、ファビピラビルのSFTSVに対する抗ウイルス効果を培養細胞実験および動物実験で評価した。その結果、SFTSVの培養細胞での増殖は、ファビピラビルを培地中に添加することによって著しく抑制され、ウイルスが最大で1,000~10,000倍程度低下することが明らかにされた5)。この抑制効果は、SFTSVの株にかかわらず、調べられたすべての株で同様に認められた。次に、ファビピラビルが動物モデルにおいても抗ウイルス効果を示すか否かを評価した。SFTSVは、通常の実験用マウス種においては、ほとんど症状を示すことがないため、一般的にウイルスなどの病原体に対して感受性が高いとされるインターフェロン受容体欠損(IFNAR-/-)マウスを用いた。予想通り、SFTSVはIFNAR-/-マウスに致死的な感染症を引き起こした。リバビリン投与群と比較して生存率、体重変化、ウイルスゲノム量を検証した結果、ファビピラビル投与群では、ウイルス感染とほぼ同時に投与した場合、体重減少もみられず100%の生存率を示した5)。また、血中のウイルスRNAも、リバビリン投与群ではウイルス感染後7日目まで高い値で検出されるのに対し、ファビピラビル投与群では、感染2日目にはほぼ検出限界以下となった5)。組織病理解析においても、感染マウスの組織ではウイルス抗原や細胞の壊死が認められるのに対して、ファビピラビル投与群では、ウイルス抗原は検出されず、組織も非感染マウスのそれに近い状態であった5)

治療を目的としたファビピラビルの有効性を評価するためには、予防的な投与だけではなく、症状が現れてから投与を開始しても治療効果が示せるかが重要となる。そこで、ウイルス感染後、ファビピラビルの投与開始時期を遅らせた場合のマウスの生存率について調べた。エボラウイルスなどでは、症状の指標の一つである体重減少が認められてからファビピラビルを投与しても、治療効果を示せないことが報告されている8)。SFTSV感染モデルにおいては、体重が10%減少する感染後3日以内に投与した場合は、100%生存し、体重が15%以上減少した状態の4日目以降の投与でも50%以上生存するレベルの治療効果を示した。これらの成績は治療薬としての有効性が期待できるものである。

現在、SFTSに対する特異的な治療薬は開発途上の段階であり、ウイルスの細胞への侵入を阻害できるような抗体製剤の開発やウイルスの増殖を阻害できる合成化合物などの効果も検討されている。ただ、上述したファビピラビルは現在のところ、最も有効な候補治療薬の一つとして考えられる。


参考文献
  1. 本間義人, 他, IASR 34: 312-313, 2013
  2. Shimada S, et al., Virology 482: 19-27, 2015
  3. Shimojima M, et al., Jpn J Infect Dis 67: 423-427, 2014
  4. Shimojima M, et al., Virol J 12: 181, 2015
  5. Tani H, et a.l, mSphere 1: e00061-15, 2016
  6. Lu QB, et al., Antiviral Res 119: 19-22, 2015
  7. Furuta Y, et al., Antiviral Res 100: 446-454, 2013
  8. Oestereich L, et al., Antiviral Res 105: 17-21, 2014

国立感染症研究所ウイルス第一部
    谷 英樹 福間藍子 福士秀悦 谷口 怜 吉河智城 下島昌幸 西條政幸
   同感染病理部
    岩田奈織子 佐藤由子 鈴木忠樹 永田典代 長谷川秀樹
   同動物管理室 河合康洋
   同獣医科学部 宇田晶彦 森川 茂

 

 

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