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動物におけるSFTSウイルス感染状況

(IASR Vol. 37 p. 51-53: 2016年3月号)

野生動物におけるSFTSウイルス抗体保有状況
国内で2012年末に最初の患者が報告された山口県で捕獲されたイノシシ(370頭)とシカ(502頭)における重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)に対する抗体保有率を調査した(図1)。その結果、イノシシは8.6%、シカは43.2%の陽性率であった。シカにおいては2010年からSFTSVの抗体が維持されていた。このことからSFTS患者が報告される以前から山口県の野生動物にはSFTSVが存在していたことを示している。

次に2014年にSFTS患者が初めて報告された地域のSFTSV抗体保有状況を調査した結果、アライグマ(1742頭中190頭、陽性率10.9%)、タヌキ(531頭中39頭、7.3%)、イノシシ(89頭中2頭、2%)、アナグマ(74頭中6頭、8%)、サル(15頭中3頭、20%)、ハクビシン(16頭中5頭、31%)、シカ(9頭中1頭、11%)からSFTSV抗体が検出された。一方、イタチ17頭、テン13頭、キツネ2頭、ネコ1頭、野ウサギ3頭からはSFTSVに対する抗体は検出されなかった。多くの野生動物がSFTSVに感染していることが明らかとなった。

アライグマとタヌキにおける抗体保有率の年次推移を比較したところ、アライグマでは2008年から、タヌキでは2010年から抗体保有が確認され、その後急激に抗体保有率が上昇していた(図2)。このことは、この地域では最近SFTSVが侵入し、野生動物で蔓延した結果、患者が発生したと考えられる。野生動物における抗体調査はSFTSV感染リスクを知る上で有用な指標になることが証明された。

家庭飼育犬におけるSFTSV抗体保有状況の調査
国内各地の動物病院の協力を得て、945頭の家庭飼育犬のSFTSV抗体の調査を実施した。その結果、3県12頭、1.3%からSFTSV抗体が検出された。陽性犬に明らかな臨床症状は認められていない。イヌにSFTSV抗体が検出された県は、既にヒトでの患者が報告されている西日本の地域であり、患者発生と一致していることが明らかとなった。

野生動物および飼育犬におけるSFTSV感染状況の調査
アライグマ671頭、サル11頭、飼育犬136頭の血清からSFTSV遺伝子の検出を試みた。その結果、アライグマ16頭(2.4%)、サル1頭(9%)、イヌ2頭(1.5%)の血液中にウイルスを保有していることが判明した。陽性動物に明らかな臨床症状は認められていない。アライグマの月別のウイルス検出率の比較では4~7月、11月、12月のアライグマの血液中からウイルス遺伝子が検出された(表1)。これはヒトの患者発生の傾向およびダニの発生数の推移と一致している。

アライグマ体内におけるSFTSVの分布状況
SFTSVに自然感染したアライグマ2頭の捕獲に成功した。そこで体内におけるウイルス抗原分布状況を調査した結果、血液を介して感染しているためか、全身にウイルスが分布していることが確認された。注目すべきは肺や大腸からSFTSVが大量に検出されたことである。さらに、糞便中からもウイルスが検出されている(表2)。これらの部位からウイルスが排出されている可能性を考えなければならない。しかし、今回検出されたのは遺伝子だけであり、感染性のあるウイルスが存在しているかは不明である。

一連の調査から判明した所見

   1.ヒトを含めた多くの動物がSFTSVに感染(図3
 2.野生動物での蔓延がヒトへの感染リスク
 3.飼育動物にもSFTSVが感染
 4.動物は血液中にSFTSVを保有している可能性
 5.SFTSV感染が拡大している地域の存在

今後への提言

 1.野生動物でのSFTSV感染の調査を継続し、ヒトへの感染リスクを知ることが重要である。
 2.動物がSFTSVに感染している可能性を考えて、動物取扱者は感染リスクを回避する防御法をとることが必要である。
 3.患者が発生していない地域でも今後SFTSVが侵入する可能性がある。

謝辞:本調査のサンプル採集に協力していただいた獣医師、狩猟者、野生動物関係者、解析を実施した山口大学共同獣医学部獣医微生物学教室の教員および学生に深謝します。


山口大学共同獣医学部獣医微生物学教室 前田 健

 

 

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