国立感染症研究所

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麻疹および風疹の予防接種状況・抗体保有状況―2015年度感染症流行予測調査(暫定結果)

(IASR Vol. 37 p. 72-74: 2016年4月号)

はじめに

感染症流行予測調査における麻疹および風疹の感受性調査は, いずれも1970年代に開始され, 以降, ほぼ毎年度実施されてきた。本調査は麻疹および風疹に対する感受性者を把握し, 効果的な予防接種施策を図るための知見を得ること等を目的としており, 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における予防接種状況ならびに抗体保有状況について調査を行っている。

麻疹の予防接種は1978年(対象:幼児), 風疹の予防接種は1977年(対象:中学生女子)に定期接種化され, その後, 1994年の風疹の定期接種対象者の変更(幼児), 2006年の麻疹風疹混合(MR)ワクチンの導入, 2回接種の開始(第1期, 第2期), 2008~2012年度の中高生への接種(第3期, 第4期)等が実施されてきた。

2015年度はわが国における麻疹の排除状態が認定(2015年3月)された後の調査となり, また風疹については特定感染症予防指針の公示(2014年3月)後2年目の調査でもあることから, 両疾病に対する予防接種状況および抗体保有状況は, 今後の麻疹・風疹対策を実施していく上で重要な情報と考えられる。

調査対象

2015年度の麻疹感受性調査は23都道府県, 風疹感受性調査は17都府県で実施され, 麻疹のゼラチン粒子凝集(PA)抗体価, 風疹の赤血球凝集抑制(HI)抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。2016年3月現在, 麻疹は6,601名, 風疹は5,361名(男性2,621名, 女性2,740名)の抗体価および予防接種歴が報告された。

予防接種状況

麻疹および風疹の予防接種状況についてそれぞれ図1, 図2に示した。なお, 本調査結果は一調査時点における接種状況であり, 厚生労働省で実施している年度単位の接種状況調査の結果とは異なるため, 結果の解釈には注意が必要である。

麻疹含有(麻疹単抗原, MR, 麻疹おたふくかぜ風疹混合:MMR)ワクチンについて接種歴不明者を除いた 1回以上接種率(1回・2回・回数不明)を年齢別にみると, 第1期対象年齢の1歳(※調査時点での第1期未接種者も含まれる)で約80%, 2歳以上20代までは概ね95%以上であった。また, 第2~4期に2回目の接種機会があった年齢層(調査時点の6~24歳および5歳・25歳の一部)のうち, 接種歴が明らかであった6~24歳の2回接種率は60%であった。

同様に風疹含有(風疹単抗原, MR, MMR)ワクチンについてみると, 接種歴不明者を除いた1回以上接種率は男女とも1歳で約80%, 2歳以上19歳までは概ね95%以上であった。しかし, 20代以上は男女差が大きくなり, 特に30~40代では女性が約70%であったのに対し, 同年齢層の男性は約60%であった。また, 接種歴が得られた6~24歳の2回接種率は男女とも約60%であった。

抗体保有状況

麻疹および風疹の抗体保有状況についてそれぞれ図3, 図4に示した。

麻疹のPA抗体価1:16以上の抗体保有率は, 昨年度の調査に続き2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示した。また, 麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上についてみると, 2歳以上ではほとんどの年齢/年齢群で80%以上の抗体保有率であった。

次に風疹のHI抗体価1:8以上の抗体保有率についてみると, 2歳以上30代前半までは男女とも同様の傾向を示し, ほとんどの年齢/年齢群で90%以上であった。また, 2012~2014年度の調査でみられた30~50代の年齢層における大きな男女差は本年度調査でも認められ, 30代後半から50代前半の抗体保有率は女性で97%と高かったが, 男性では約20ポイント低い78%であった。

まとめ

2015年度の調査において, 麻疹の抗体保有率は2014年度調査に続き2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上を示し, 高い接種率・抗体保有率が維持されていると考えられた。麻疹の排除状態を維持するためには, 今後も高い接種率・抗体保有率を維持することが重要である。一方, 風疹については30代後半~50代の男性における抗体保有率はいまだに低く, 2020年度を目標とした風疹排除達成を実現するためには, 定期接種対象年齢における接種率・抗体保有率の維持に加えて, この年齢層の感受性者対策が非常に重要である。 

国立感染症研究所感染症疫学センター 
 佐藤 弘 多屋馨子
国立感染症研究所ウイルス第三部 
 駒瀬勝啓 森 嘉生 竹田 誠
2015年度麻疹・風疹感受性調査実施都道府県:
 北海道, 宮城県, 山形県, 福島県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 埼玉県, 千葉県, 東京都,
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