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海外での風疹対策の現状

(IASR Vol. 37 p. 76-77: 2016年4月号)

Global Vaccine Action Plan 2011-2020(GVAP)1)は, 世界の人々にワクチン接種機会を公平に提供し, ワクチン予防可能疾患を制御することを目的としており, 2012年の世界保健総会で採択された。この中で2015年までに世界保健機関(WHO)6地域のうち少なくとも2地域で風疹の排除を達成し, さらに2020年までには少なくとも5地域において排除を達成することを目標に掲げている。風疹の排除は, 「良く機能したサーベイランス制度の下で, ある地域において12カ月以上にわたって土着の風疹ウイルスによる伝播が認められず, その伝播に伴った先天性風疹症候群(CRS)の発生が認められないこと」 と定義される2)。これを達成するためには各国で風疹ワクチンを国家の定期接種プログラムに導入し, 高い接種率を維持させることが求められる。2016年1月時点で接種プログラムに風疹ワクチンが導入されているのは194カ国中147カ国(75.8%)であり, 2014年末から7カ国(ベトナム, 東ティモール, ミャンマー, ブルキナファソ, カメルーン, イエメン, ジンバブエ)が追加された3)。2016年にはさらに11カ国での導入が見込まれている3)。2014年の対象年齢群における風疹ワクチン接種率は全世界で46%と推定され, 年々増加が認められる(2005年24%, 2010年41%)ものの, 不十分である4,5)。WHO地域ごとの接種率は, アフリカ地域(10%), 東地中海地域(42%), 南東アジア地域(12%), アメリカ地域(92%), ヨーロッパ地域(94%), 西太平洋地域(91%)と大きな差が認められる4)

158カ国からの報告を元に, 2014年における世界の風疹発生率は100万人当たり4.9人と推定されており, 2012年(176カ国からの報告による)の100万人当たり13.4人から大幅な減少がみられる5)。これは, ヨーロッパ地域および西太平洋地域での大規模流行が終息したことに起因すると考えられる。また, 2014年のCRS発生率は, 100万出生当たり0.06例と推定されている(111カ国からの報告による)5)

日本の所属するWHO西太平洋地域ではこれまで風疹の制御を目標にしてきたが, 2014年に開催された地域委員会(Regional Committee for the Western Pacific)において風疹の排除を目標にすることが承認された6)。すべての所属国は, できる限り早期に風疹含有ワクチンを定期接種プログラムに導入すること, ならびに全数把握による風疹患者数のデータをWHO地域事務局に報告することが求められるようになる。排除目標年は現時点で定められていないが, 2015年の技術諮問委員会(Technical Advisory Group)では2020年を排除目標年とすることが推奨された5)

アメリカ地域は, 2010年までの風疹排除目標に先んじて2009年に風疹排除状態に至り, 2015年4月には正式に風疹およびCRSの排除達成が宣言された5)

ヨーロッパ地域は, 2015年までに風疹排除の達成目標を掲げている。2013年と比較して2014年の風疹患者報告数が激減したが5), これは2013年に大規模流行があったポーランドでの患者報告数が減少したことに起因する。しかし, ポーランドでは2014年10月~2015年9月までの1年間で, 今なお排除の指標を大きく超える100万人当たり59.6人の風疹患者報告がある7)。2013年の流行初期には患者の81%を15~29歳の男性が占めたが8), 2014~2015年は1~9歳の小児での患者報告が62%を占めている7)。1歳以上の患者のうち, 1回以上の風疹含有ワクチン接種がある者の割合は半数を超えている。しかし, ポーランドの患者報告の1%程度しか実験室検査による確定例がなく, データの信頼性に疑問が残ることから, 解釈には注意が必要である。

南東アジア地域では, 2020年までに風疹およびCRSを制御することを目標としている9)。東地中海地域では風疹排除もしくは制御の目標は示されていない。アフリカ地域は2020年までに47カ国中25カ国以上で風疹含有ワクチンを導入することを目標としている10)

予防接種に関する戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)は2015年にGVAPの遂行状況について中間評価を行った11)。風疹排除の2015年までの目標(WHO 2地域で排除を達成)については, アメリカ地域のみ達成されたものの, 他の地域では目標を達成できる見込みがほとんどないと厳しく評価した。前述のように多くの国々で風疹ワクチン未導入であり, さらに導入国であっても接種率が不十分である国が多くあることを問題として挙げ, 同じく軌道から外れている麻疹とともに各国は一層真剣に取り組む必要があるとしている。

 

参考文献
  1. WHO, Global vaccine action plan, 2011-2020, 2012
  2. WHO, WER 88: 89-98, 2013
  3. WHO, IVB Database, 11 January 2016
  4. WHO, WER 90: 617-632, 2015
  5. WHO, Global vaccine action plan monitoring, evaluation & accountability, Secretariat Annual Report 2015, 2015
  6. WPRO, Regional framework for implementation of the global vaccine action plan in the Western Pacific, 2015
  7. ECDC, Surveillance Report, Measles and rubella monitoring October 2015, 2015
  8. Paradowska-Stankiewicz I, et al., Eurosurveillance 18(21), 2013
  9. SEARO, Strategic plan for measles elimination and rubella and congenital rubella syndrome control in the South East Asia region 2014-2020, 2015
  10. AFRO, Regional strategic plan for immunization, 2014-2020, 2015
  11. SAGE, 2015 Assessment report of the global vaccine action plan, 2015

国立感染症研究所ウイルス第三部 
 森 嘉生 坂田真史 竹田 誠

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