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麻しんおよび風しんの対策について

(IASR Vol. 37 p. 81-82: 2016年4月号)

我が国の麻しんおよび風しんの対策については, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 〔1998(平成10)年法律第114号〕 第11条第1項および予防接種法 〔1948(昭和23)年法律第68号〕 第4条第1項の規定に基づき, 麻しんに関する特定感染症予防指針(以下, 麻しんの指針という。)および風しんに関する特定感染症予防指針(以下, 風しんの指針という。)を策定し, これらの指針に基づき, 対策を推進しているところである。

ここでは2016(平成28)年1月25日に, 施策の実施状況に関する評価等を行うため開催された, 麻しん風しん対策推進会議での検討等に基づき, 麻しんおよび風しんに関する施策の経緯および近年の状況についての概要を述べる(厚生労働省ホームページ参照 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou.html?tid=214233)。

麻しん対策に関しては, 1976(昭和51)年6月から予防接種法に基づく予防接種の対象疾患に麻しんを位置付け, 1978(昭和53)年から積極的に麻しんの発生の予防およびまん延の防止に努めてきた。2006(平成18)年度からは, 現行の麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)による2回の接種へと移行し, より確実な免疫の獲得を図ってきた。しかし, 2007(平成19)年には10代および20代を中心とした年齢層で麻しんが大流行し, 社会的な混乱が生じたこと等の事態を受け, 麻しんの指針を策定し, 2015(平成27)年度までに麻しんを排除し, かつ, その後も排除状態を維持することを目標に定め, 国, 地方公共団体, 医療関係者, 教育関係者等が連携して取り組んでいくべき施策についての新たな方向性を示してきた。

その後, 2008(平成20)年度からの5年間を麻しんの排除のための対策期間と定め, 定期の予防接種の対象者に, 中学1年生と高校3年生に相当する年齢の者を時限的に追加する等の措置を実施して, 麻しん発生数の大幅な減少と大規模な集団発生の消失, 抗体保有率の上昇等の成果をあげてきた。

さらに, 2012(平成24)年12月には指針の一部を改正し, 麻しん患者の届出を医師による診断後, 直ちに行うべき疾患として定め, 確実な評価のため原則として全例に検査診断等を実施し, 麻しんの患者が1例でも発生した場合には感染経路の把握等の調査を迅速に実施する必要性を規定する等, 関係者が協力しながら, 一層の麻しん対策を充実させるための体制を構築してきた 〔2015(平成27)年5月施行の改正感染症法により, 診断後直ちに届出が必要な感染症として規定〕。

こうした長年にわたる, 国, 地方公共団体, 医療関係者, 教育関係者等による献身的な取り組みと協力によって, 平成27年3月に, 我が国が麻しんの排除状態にあることが世界保健機関西太平洋地域事務局に認定されるに至っている。

風しん対策に関しては, 1977(昭和52)年8月から先天性風しん症候群の予防を主な目的として中学生女子を対象に定期の予防接種を行うため, 予防接種法に基づく予防接種の対象疾患に風しんを位置付けたことに始まる。その後, 風しんの発生の予防およびまん延の防止のため, 1995(平成7)年4月に接種対象者を男女幼児へと変更するとともに, 時限措置として中学生男女も対象に接種を行った。平成18年度からは, 麻しん対策とあわせて, MRワクチンの使用を開始し, 接種回数を変更するとともに, 平成20年4月から平成25年3月にかけて麻しん対策と同様に2回目の接種の機会が設けられた。

これらの予防接種による対策の進展とともに, 風しんの流行は小規模化し, 2004(平成16)年以降, 大きな流行はみられてこなかった。しかし, 平成24年から, 首都圏や関西地方などの都市部において, 20~40代の成人男性を中心に患者数が増加し, 平成25年には14,000例を超える患者が報告され, 平成24年10月以降, これまでに45例の先天性風しん症候群が報告される状況となった。中長期的視点に立ち国および関係者が連携して風しんに対する施策に取り組む必要があることから, 平成26年3月に風しんの指針を策定するとともに, 指針に基づく対策を円滑に実施するため, 国立感染症研究所において職場における風しん対策ガイドライン等の5つの手引きを作成している。

平成26年度から, 予防接種を必要とする者を抽出するための抗体検査や情報提供を行うことにより, 効果的な予防接種を実施し, 風しんの感染予防やまん延防止を図ることを目的に, 主として妊娠を希望する女性に対する風しん抗体検査費用の助成(「風しんの抗体検査事業」)を開始した。平成26年度には, 全国で106,684名が当該事業による風しん抗体検査を受けた。また, これらの継続的な対策の必要性から, 平成27年度以降においても, 特定感染症検査事業として抗体検査の実施体制を維持することとしている。

また, 経済産業省等に協力を求め, 「従業員の健康管理を経営的な視点で考え, 戦略的に取り組んでいる企業を 『健康経営銘柄』 として選定し, 公表することで, 企業の健康経営の取り組みが株式市場等において, 適切に評価される仕組みづくり」 において, 感染症対策の評価項目として 「健康診断時の麻しん・風しんなどの感染症抗体検査の実施」, 「予防接種の費用補助」 等を追加し, 職域での麻しん・風しんなどの感染症対策を推進している。

さらに, 平成27年度には, 報道機関等の関係者との連携を強化し, 国民に対し, 風しんおよび先天性風しん症候群とその予防に関する適切な情報提供を行うため, テレビドラマとのタイアップ企画を実施し, リーフレット作成, 主演俳優による塩崎厚生労働大臣への訪問, 大阪での予防啓発セミナーを開催し, また, 麻しん・風しん対策推進会議に先立ち普及啓発イベントを開催, SNSでの啓発メッセージを発信するなど, 幅広く活動を実施している(本号22ページ参照)。

2016年3月現在において, 麻しんおよび風しんの大規模な流行はみられていないが, 将来において, 指針の目標である麻しんの排除状態を維持し, 早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに, 2020(平成32)年度までに風しんの排除を達成するためには, 社会全体で関係者が一体となって麻しん・風しん対策を推進していくことが重要であり, 指針に基づいた継続的な対策を実施できるよう取り組んで参りたい。

厚生労働省健康局結核感染症課
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