国立感染症研究所

IASR-logo

同一保健福祉環境事務所管内で連続して発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例について―福岡県

(IASR Vol. 37 p. 88-89: 2016年5月号)

2015(平成27)年5月に福岡県内の同一保健福祉環境事務所管内で腸管出血性大腸菌O157(VT1, VT2)(以下O157)による食中毒疑い事例が2事例連続して発生した。分子疫学解析の活用によって, 2事例の関連が明らかとなり, 食中毒事例と断定できた。その概要について報告する。

1. 発症状況

事例1では, 福岡県内の飲食店Aで5月14日に馬刺し丼, その他を喫食した1グループ4名全員が食中毒様症状 〔腹痛, 下痢(血便あり)。潜伏期間は77~100時間〕 を呈した。

事例2では, 5月16日または5月18日に福岡県内の食肉販売店Bで購入した馬刺しを喫食した京都市住民1グループおよび福岡県住民2グループの合計3グループ11名中6名が食中毒様症状 〔腹痛, 下痢(血便あり), 嘔吐等。潜伏期間は48~144時間〕 を呈した。

2. 細菌検査結果

事例1では, 患者便4検体中2検体からO157が検出された。飲食店Aの調理従事者便, 配膳従事者便, 器具や施設のふき取りおよび食品(5月13日と畜分の馬刺し1検体)からO157は検出されなかった。一方, 事例2では, 患者便5検体(2グループ)中4検体および食肉販売店Bの従事者便4検体中2検体からO157が検出された。

3. 疫学調査および分子疫学解析結果

(1)疫学調査結果
    事例1では, 患者1グループに, 飲食店Aにおける喫食以外に共通する食事および行動は認められなかった。5月14日に提供された馬肉は, 福岡県内のと畜場Cおよび, と畜場C併設の食肉処理場Dで5月7日, 13日のいずれかに, と畜・処理された馬であった。飲食店Aの調理従事者1名は, と畜場Cおよび食肉処理場Dで5月14日午前中に牛のと畜・処理作業にも従事していた。また, 飲食店Aにおいて, 「生食用食肉の衛生基準」 に適合しない加工その他不備な点が認められた。

事例2では, 患者3グループ間での接触はなかった。患者3グループが喫食した馬刺しは, と畜場Cおよび食肉処理場Dで5月13, 15, 18日のいずれかに, と畜・処理された馬であった。O157が検出された従事者2名(いずれも馬刺しの喫食歴は無し)のうち1名は, と畜場Cおよび食肉処理場Dで5月14日に牛のと畜・処理作業にも従事していた。食肉販売店Bは, 馬肉の他に加熱用食肉も取り扱っていた。また, 食肉販売店Bにおいて, 「生食用食肉の衛生基準」 に適合しない加工その他不備な点が認められた。

(2)分子疫学解析結果
    各O157患者等から分離された合計6株(事例1の患者株1株, 事例2の患者株3株および従事者株2株)についてIS-printingおよびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による分子疫学解析を実施した。その結果, 検査したすべての株においてIS型およびPFGE型が相互に完全一致した()。よって, 各原因株はいずれも同一由来, あるいは相互に関係することが示唆された。なお, 参考株として当年度に搬入された別の事例株2株についても同様の解析を行ったが, 本事例とは別のIS型およびPFGE型を示した。

4. 原因食品の特定

事例2については, 患者3グループの接触がなく, 共通食が同時期に食肉販売店Bが販売した馬刺しのみであること, 患者便および従事者便からO157が検出されたことなどから, 馬刺しが原因のO157食中毒と断定した。

事例1については, 当初, 患者便からO157が検出されたものの, 飲食店Aの利用客のうち症状を呈したのは1グループのみであったこと, 患者便以外の検体からO157が検出されていなかったことから, 飲食店Aを食中毒の原因施設として断定できないものと判断していた。しかしその後, 事例2が発生し, 両事例で患者が喫食した馬刺しが同時期に同一のと畜場Cおよび食肉処理場Dでと畜・処理されたものであることが判明し, 分子疫学解析を実施した結果, 検査したすべての株においてIS型およびPFGE型が一致したことから, 事例1についても飲食店Aを食中毒の原因施設と断定した。ただし, 事例1については, 患者グループが馬刺し以外の食品も喫食していること等から原因食品の特定には至らなかった。

5. 汚染経路の特定

汚染経路としては, 事例1および事例2いずれにおいても, と畜場での汚染が第一に考えられた。しかし, 従事者からの食品を介した二次汚染あるいは原因施設内での交差汚染等も否定できなかった。

6. 考 察

事例1は単独の事例だけでは食中毒と断定する判断材料がなかったが, 疫学的関連性が疑われた事例2と組み合わせた分子疫学解析の活用によって食中毒と判断することができた。よって, 散発事例で関連性が疑われる場合は, 迅速な分子疫学解析が必要であると考えられる。

福岡県保健環境研究所
 前田詠里子 岡元冬樹 重村洋明 西田雅博 村上光一 世良暢之
福岡県保健医療介護部保健衛生課 
 清水良平
北筑後保健福祉環境事務所 
 野田里加

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version