国立感染症研究所

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近畿の飲食チェーン店で発生した食中毒が疑われる腸管出血性大腸菌O157事例

(IASR Vol. 37 p. 89-90: 2016年5月号)

2015年9~10月に飲食チェーン店を原因施設と疑う食中毒事例が発生した。当該チェーン店は近畿を中心に15店舗あり, 4店舗を利用した患者から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157が分離されたが, 店舗ごとの感染者は少なく, 利用日が異なっていたことから, 分離株を精査し, 各症例の関連性を調査した。

事例の概要

奈良県にあるA店を利用した3グループ4名が発症し, 3名からEHEC O157(VT1, VT2)が分離されたため, 10月3日に奈良県が食中毒事例として発表した。その後, 大阪府内の3店舗(B店, C店, D店)の利用者にも患者が発生し, 10月9日までに合計で7グループ8名が発症し, 7名からEHEC O157が分離された。患者はいずれも成人の男女で, 少なくとも5名は血便を呈し, 4名は入院していた。患者への聞き取り調査から, 利用店舗や利用日は異なっていたが, どの患者も牛レバーを加工した 「炙りレバー」 を喫食していたことがわかった。

疫学マーカー解析

近畿ブロック内で分離された6株について, IS-printing System(IS)法の結果は2株ずつ3タイプに分かれ, このうちのひとつは運動性陰性株(O157:HNM)であった()。Multilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)の結果も3タイプに分かれ, 近畿ISコード 「84591 215275」 と 「249711 116975」 はそれぞれMLVA type 14m0426, 15m0101であり, ISコード 「118143 114891」 の2株は, MLVA typeは異なっていたものの, 同一のMLVA complex 「15c036」 であった。仙台市在住の患者(9月20日B店を利用)由来株も15c036であった。これらの遺伝子型別結果を利用店舗ごとにみると, A店患者とB店患者からは2タイプ分離されており, それぞれ遺伝子型は一致していた。また, C店患者とD店患者の分離株は同じ遺伝子型であったが, A店およびB店患者分離株とは異なっていた。

考 察

当該チェーン店の 「炙りレバー」 は, 堺市にある本社併設のセントラルキッチンでスライスや真空包装など加工された上で各店舗へ卸され, 本社作成の 「調理マニュアル」 にしたがって各店舗で加熱調理し提供されていた。また, 店舗への配送は2~3日に1回で, A店とB店, C店とD店はそれぞれ同じ配送日であった。加工冷凍されたレバーはロット管理ができておらず, A店およびB店に配送されたレバーが, 2タイプのEHEC O157で汚染されていたのか, タイプの異なるO157が付着したレバーが2ロットあったのかは不明である。C店およびD店の患者は, A店, B店の患者よりも利用日が6日以上遅く, 異なるEHEC O157で汚染された別ロットが提供されたと考えられた。

EHEC感染症は感染菌量が少ないことから, 同一の感染源であっても散発的に探知されることが多く, 感染源を特定できることは少ない。近畿ブロックでは, 広域散発事例を探知するため, EHEC O157のIS型別結果をデータベース化し, その情報を共有している。本事例は, 同一IS型の登録が集中したわけではなかったが, 情報共有ネットワークを活用して分離株の遺伝子型別結果を情報交換し, 利用した店舗や利用日が異なる症例の関連性を明らかにできた。

当該飲食チェーン店では, A店における食中毒発生により10月3日から全店舗で炙りレバーの提供を自粛した。その後EHEC患者の発生はなく, 現在も提供を中止している。

本事例の調査にご尽力いただいた大阪府食の安全推進課, 奈良県消費・生活安全課, 堺市保健所食品衛生課, 大阪市保健所感染症対策課, 仙台市健康福祉局の関係各位に深謝致します。

大阪府立公衆衛生研究所
 勢戸和子 原田哲也 田口真澄 河原隆二 久米田裕子
奈良県保健研究センター 
 田邉純子
堺市衛生研究所 
 福田弘美
大阪市立環境科学研究所 
 中村寛海
仙台市衛生研究所 
 松原弘明
国立感染症研究所細菌第一部 
 泉谷秀昌

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