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PFGEによるO157, O26, O111以外の腸管出血性大腸菌における広域感染事例の解析

(IASR Vol. 37 p. 95-97: 2016年5月号)

2015年に国内でヒトから分離された腸管出血性大腸菌(EHEC)のうち, 国立感染症研究所・細菌第一部に送付されたO157, O26, O111以外のEHEC(non-O157/O26/O111)は363株あり, 45種類のO血清群が確認された(2016年4月現在)。これらのO血清群の上位3つは, 検出頻度の高い順にO103(27%), O121(18%), O145(9%)であった(表1)。分子疫学解析のため, XbaIによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した結果, これらの菌株のPFGE型は, それぞれO103が59種類, O121が33種類, O145が20種類検出された(表1)。O103, O121, O145, O146の菌株については, 2015年以前に検出されたPFGE型がそれぞれのO群で1種類以上存在したが, non-O157/O26/O111株の多くのPFGE型は2015年に初めて検出されたパターンであった。各O血清群のデンドログラムにおいては, 集団事例由来株等がクラスターを形成した。

広域感染事例の早期探知のため, 広域で共通のPFGE型を示す株(広域株)の解析を行った結果, 2カ所以上の地域(都道府県)で検出された同一PFGE型(広域PFGE型)は4血清群(O5, O103, O121, O146)において10種類が確認された(表1, 2)。O121株の広域PFGE型TN121k6は, 2014年12月に複数の地域において検出されたPFGE型で, 2015年には1月と3月にそれぞれ異なる地域において検出された(表2)。TN121k9は2015年に5カ所以上の地域で検出され, TN121k9株は5月中旬から短期間に集中して分離されていた(表2)。O146株の広域PFGE型TN146k1は, 2013年に初めて検出されたPFGE型で, 2014年には数カ月にわたって複数の地域において多数検出されており, 2015年も9カ月間にわたって4カ所の地域で検出された(表2)。

non-O157/O26/O111株については, 分離頻度の高い血清群O103とO121で複数の広域PFGE型が存在することが明らかとなった。近年, 国内外においてnon-O157株の分離が増加傾向にあり, 今後, 当該株の分離増加に伴いnon-O157/O26/O111の広域株も増える可能性が示唆される。血清群O146は2013年以降に分離株の増加が認められる。TN146k1株はいずれも散発事例由来株であったが, PFGE解析結果から近縁と推測されるO146株が近年広域で流行していることが示唆される。血清群O5は2015年に分離株の増加が認められた。TN5L1株は短期間に1ブロック(九州)に集中して分離されていた。いずれも散発事例由来株であり, 当該株に関連する感染事例の発生については共通の疫学情報を一部認めたが, 原因究明には至らなかった。血清群O5は, デンカ生研社製の抗大腸菌抗血清では現在のところ型別不能であり, 各自治体による報告から早期に当該株の国内分離状況を把握することは難しい。このような株に関しては, 関係機関において迅速に情報共有し, 分子疫学解析を実施することで関連株の抽出を行う必要がある。

non-O157/O26/O111の2015年分離株においては, 10種類の広域PFGE型が検出され, PFGE解析結果から近縁と推測される株が広域で分離されている現状が明らかとなった。いずれの広域株も散発事例由来であったが, いくつかは短期間に集中して分離されており, 疫学的関連性が推測される。このような広域株による感染事例を早期に探知し, 感染源の究明および拡大阻止に寄与するため, 今後もPFGEを用いた分子疫学解析を実施する予定である。

菌株送付ならびに情報共有にご協力頂きました関係機関の先生方に深謝いたします。引き続きご理解ご協力のほど宜しくお願いいたします。

国立感染症研究所細菌第一部
 石原朋子 伊豫田 淳 泉谷秀昌 大西 真

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