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沖縄県におけるレプトスピラ症患者の発生状況, 2008~2015

(IASR Vol. 37 p. 105-106: 2016年6月号)

レプトスピラ症は, 病原性レプトスピラの感染によって起こる急性熱性の人獣共通感染症である。ヒトへの感染は, レプトスピラを保菌する動物の尿や, その尿で汚染された水や土壌との接触で起こる。沖縄県での患者発生は他県に比べて多く, 注意が必要な感染症のひとつである(IASR 29: 8-10, 2008)。今回は, 2008~2015年に確定診断されたレプトスピラ症について報告する。

患者発生状況

2008年1月~2015年12月の8年間にレプトスピラ症が疑われた257症例について検査を実施した結果, 103例(40.1%) が本症と確定した。年別検査件数を図1に示す。患者発生は, 6~12月および3月で確認され, 特に8月と9月に集中し, この2カ月で全体の70.9%(73例) を占めていた(図2)。患者の性別は男性89例(86.4%), 女性14例(13.6%) であった。患者の年齢は10歳~84歳までと幅広く, 年齢群別では20~30代50例(48.5%), 40~50代24例(23.3%), 10代20例(19.4%), 60代以上9例(8.7%) の順であった。推定感染地域は, 八重山地域が51例, 沖縄本島の北部地域42例, 中部地域2例, 南部地域2例の順で, 不明は5例であった。海外からの輸入感染例も1例あった。集積事例は2件発生し, 2008年に北部地域での19例, 2013年に八重山地域での6例(IASR 35: 14-15, 2014) であった。

主な臨床症状は発熱(95.1%), 筋肉痛(49.5%), 関節痛(44.7%), 眼球結膜充血(46.6%) で, 血液または尿検査では肝機能障害(39.8%) や腎機能障害(39.8%) がみられた。重症型の主徴である黄疸は21例, 腎不全は9例であった。

推定感染機会は, 河川でのレジャー・労働が80例(77.7%) と最も多く, 次いで農作業8例(7.8%), 河川以外での淡水との接触が7例(6.8%), ネズミとの接触1例(0.9%) の順で, 不明は7例(6.8%) であった(図2)。特に患者の多かった8, 9月の約9割(65例) は, 河川でのレジャー・労働であった。

実験室診断

本症の病原体診断は, 顕微鏡下凝集試験(MAT)による抗体検査, 分離菌の同定検査およびflaB遺伝子をターゲットとしたnested-PCR検査により実施した。抗体検査は, ペア血清については抗体陽転あるいは4倍以上の凝集抗体価の上昇が認められた場合, 単一血清では160倍以上の場合を陽性と判定した。本症と診断した検査法の組み合わせは, 分離のみが8例, 分離+MATが12例, 分離+PCRが16例, 分離+MAT+PCRが20例, MATのみが31例, MAT+PCRが12例, PCRのみが4例であった。

推定感染血清群は, 7種類が確認された。Hebdomadisが58例, Pyrogenes12例, Autumnalis10例, Grippo-typhosa7例, Javanica3例, Australis3例, Ballum3例であった。また, MATにおける複数の血清群に対する交差反応等により感染血清群の判定が困難な症例が7例あった。最も多く検出されたHebdomadisは, 北部地域では42例中27例(64.3%), 八重山地域では51例中27例(52.9%)を占めていた。Grippotyphosaは7例すべてが八重山での感染であったことから, 八重山地域特有の血清群であることが示唆された。

まとめ

沖縄県では毎年レプトスピラ症が発生し, そのほとんどが八重山地域と沖縄本島北部地域での河川でのレジャー・労働によるものであった。また, 本県を旅行中にレプトスピラに感染し, 帰宅後に発症した例(IASR 24: 326-327, 2003, IASR 35: 14-15, 2014)も報告されている。

レプトスピラ症は感冒様の軽症型から黄疸, 出血, 腎不全を伴う重症型までその臨床症状は様々であり, 黄疸発症者は非発症者に比べ受診が遅い傾向がある。診断にあたっては, 臨床症状とともに水や土壌および動物との接触など疫学的背景の問診が重要であり, 地元住民, レジャー関連業者および観光客に対してはレプトスピラ症予防と早期受診に関する知識の普及啓発が重要と思われる。

沖縄県衛生環境研究所
 喜屋武向子 柿田徹也 加藤峰史 久場由真仁 新垣絵理 髙良武俊 久髙 潤  
沖縄県中央食肉衛生検査所
 岡野 祥
国立感染症研究所細菌第一部
 小泉信夫

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