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検査室におけるHIV感染診断法をめぐるトピック

(IASR Vol. 37 p.173-174: 2016年9月号)

2008年に日本エイズ学会・日本臨床検査医学会により「診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2008」が公表された1)。本ガイドラインに示されている通り, 検査室におけるHIV検査はスクリーニング検査法と確認検査法からなる。スクリーニング検査法にはIC法, PA法, ELISA法, CLIA法があり, 0.1~0.3%程度の偽陽性が発生するが偽陰性を出さない(真の感染者を見落とさない)ように開発されている。一方, 確認検査法には, より特異性が高いウェスタンブロット(WB)法が用いられる。抗HIV-1抗体検出用, 抗HIV-2抗体検出用のものがそれぞれ市販されている。

近年新たに発売されたほとんどすべてのスクリーニング検査用診断薬は, 抗HIV-1/2抗体とHIV-1 p24抗原を同時に検出でき, セロコンバージョン前の感染急性期をも検出可能な第4世代検出試薬と呼ばれるものである。スクリーニング検査法として最も推奨される診断薬であるが, コストの問題から, 抗HIV-1/2抗体検出試薬のPA法が選択される場合もある。

IC法は操作が簡便で特別な反応・測定装置が必要なく, かつ個包装で室温での保管が可能なことから, 保健所やエイズ啓発イベント会場等で行われる即日検査に用いられ, HIV検査の普及啓発に大きく貢献している。現在検査薬として市販されているエスプラインHIV Ag/Ab(富士レビオ社), ダイナスクリーン・HIV Combo(アリーアメディカル社)はいずれも抗HIV-1/2抗体とHIV-1 p24抗原を同時に検出できる試薬である。

先に述べたように, スクリーニング検査陽性検体の中には一定の割合で偽陽性検体が含まれているが, スクリーニング検査陽性または判定保留となった検体に対し, 異なるキットを用いた追加スクリーニング検査を行うことで偽陽性の割合を減らすことができる。さらに真の陽性例を確定診断するため確認検査を行う必要がある。しかしながら, ここ20年以上にわたって新たな確認検査用試薬はわが国の市場に導入されておらず, この10数年間のスクリーニング検査試薬の技術の進歩により, 「スクリーニング検査陽性, 確認検査(WB法)判定保留または陰性」となる検体が増えている。

さらに愛知県における5例のHIV-2感染例2,3)の報告を受けて発出された通知4)によりHIV-2感染例を念頭においた検査体制が取られるようになって以降, 当所においてHIV-1とHIV-2の交差反応による鑑別困難例の相談を受ける機会も増えている。

HIV感染急性期はその後の無症候期と比べて血中ウイルス量が多く他人を感染させるリスクが高いため, その検出は重要な課題である。感染急性期で抗体価が低いためにWB法陰性となった場合には, 核酸増幅検査(NAT)の使用が有効である。わが国でHIV-1核酸増幅定量試薬として製造販売承認を受けている試薬は, いずれも感度・特異度に優れた試薬であるが, 使用には高価な機器の導入が必要になる。また, 報告されているすべてのHIV-1サブタイプ/CRF/グループに対応しているが, HIV-2には対応していないことを念頭におく必要がある。スクリーニング検査陽性, WB法判定保留または陰性でNAT陽性となった場合, HIV-1感染急性期であることが強く疑われる。一方で, NATはコンタミネーションによる偽陽性の可能性を考慮する必要があり, 現在製造販売承認を受けている核酸増幅検査試薬は薬事上「定量(測定)」試薬としての承認であり「定性(検出)」試薬としての承認ではないことからも, このようなケースでは, 3~4週間後にあらためて検査を行い, WB法陽性を確認する。

ところで, 2014年7月に, 米国CDCが推奨するHIV検査アルゴリズムが大幅にアップデートされた5)。スクリーニング検査法として第4世代試薬の使用が明記されたことに加え, これまでわが国と同様に確認検査法として使われてきたWB法に変わり「抗HIV-1/2抗体鑑別系試薬による検査」と, この方法で「HIV-1/2ともに陰性」または「HIV-1判定保留HIV-2陰性」であった場合に「HIV-1核酸増幅検出系試薬を用いた検査」を行うよう推奨している。

抗HIV-1/2抗体鑑別系試薬として, 当初「Multispot HIV-1/HIV-2 Rapid Test(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社)」が推奨されていた。WB法と比べて操作が簡便なだけでなく判定が容易であり, 性能面でも多くの検査室でHIV-1感染急性期のWB法陰性または判定保留検体を検出できたこと, HIV-2鑑別診断特異性が高いことが紹介されているが, 検体希釈後再測定が必要になる検体があること等の不便さが指摘され, 同等の性能を有すると報告されている同じバイオ・ラッド ラボラトリーズ社の「Geenius HIV-1/2 Confirmatory Assay」に置き換わることになりそうだ。本試薬は米国だけでなくEUやカナダにおいても検査試薬として承認を受けており, わが国にも導入が期待される。

 

引用文献
  1. 診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2008, 日本エイズ学会誌 11(1): 70-72, 2009
  2. 伊部史朗ら, IASR 31: 232-233, 2010
  3. Ibe S, et al., J Acquire Immune Defic Syndr 54: 241-247, 2010
  4. 健疾発第0203001号:医療機関および保健所に対するHIV-2感染症例の周知について
  5. Laboratory Testing for the Diagnosis of HIV Infection; Updated Recommendations http://www.cdc.gov/hiv/pdf/hivtestingalgorithmrecommendation-final.pdf

国立感染症研究所エイズ研究センター
 草川 茂

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan