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近年における「おたふくかぜワクチン」の接種歴調査の結果について―2015年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 37 p.198-199: 2016年10月号)

はじめに

わが国において, おたふくかぜワクチンは1981年に使用が開始されたが, 流行性耳下腺炎は予防接種法における対象疾患に含まれておらず, 任意接種の位置づけであった。1989~1993年までは麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンが麻しんワクチンの定期接種時に選択可能であったが, その後は現在に至るまで任意接種のままである。予防接種法に基づく定期接種対象疾患の接種歴については, 地域保健・健康増進事業の一環として, 各ワクチンの接種歴が地域, 年齢, 性, 期・回数別に報告されているが, 任意接種のワクチンについては当事業での接種歴の把握は行われていない。本稿では, 感染症流行予測調査におけるおたふくかぜ含有ワクチンの接種歴調査により得られた結果について報告する。

感染症流行予測調査について

感染症流行予測調査は, 集団免疫の現況把握および病原体検索等の調査を行い, 各種疫学資料と併せて検討し, 予防接種事業の効果的な運用を図り, さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的としており, 厚生労働省, 国立感染症研究所, 都道府県・都道府県衛生研究所等が協力して実施されている。

調査内容は, 定期接種対象疾患に関する抗体保有状況の把握(感受性調査)および病原体の浸淫状況・型の把握(感染源調査), ならびに疫学情報(地域, 年齢・月齢, 性別, 予防接種歴, 罹患歴等)の収集であるが, 予防接種歴については定期・任意を問わず各ワクチンについて調査が実施されている。

おたふくかぜ含有ワクチンの接種歴調査

2015年度の調査においては, おたふくかぜワクチンおよびMMRワクチンの接種歴について23都道府県から計6,224名の報告があった。

両ワクチンの接種歴が不明であった者は全体で65%と多くを占め, とくに成人層では約70~85%が接種歴不明者であった。これら接種歴不明者を含めた全体の接種歴の割合についてみると, 未接種者は18%, 1回接種者は10%, 2回接種者は1%, 回数不明接種者は6%であった。

次にいずれかのワクチンの1回以上(1回, 2回, 回数不明)の接種歴があった者について年齢別にみると, 0歳では被接種者がみられなかったが, 1歳では24%, 2~3歳では約40%(2歳38%, 3歳40%)の者が1回以上接種者であった。以降, 4~11歳は30%前後, 12歳~20代は概ね20%, 30代以上では10%以下の割合であった(図下段)。

また, 接種を受けたワクチンの種類が明らかな者についてみると, 多くの年齢群でおたふくかぜワクチンによる被接種者がほとんどを占めていたが, 25~29歳群(1986~1990年生まれ相当)ではMMRワクチン被接種者の割合の方が高かった。

まとめと考察

2015年度の調査において, おたふくかぜワクチンおよびMMRワクチンの接種歴が不明であった者が多くを占めていたが, おたふくかぜワクチンは任意接種であることや, MMRワクチンは約5年間のみの使用であったことから, 接種歴不明者の多くは未接種者であると考えられた。したがって, 接種歴不明者を含めた検討において, 1回以上の接種歴があった者は2~3歳で約40%を示したが, これは現在の接種率の状況に近いと推察された。また, 約10年前の2006年度に実施された本調査による結果においては, 2~3歳で1回以上の接種歴があった者は約15%であったことから, 近年の接種率は以前より上昇していると考えられた。しかし, 感染症発生動向調査における流行性耳下腺炎の患者報告数(2015年後半から増加し, 2016年はほとんどの週で過去5年間の同時期平均+1SDを超え, さらに第27~35週は同時期平均+2SDを超えている:2016年第35週時点)をみると, 流行を防ぐために十分な接種率でないことは明らかである。

流行性耳下腺炎は発症した場合に後遺症を残す合併症もあることから, 発症・重症化および流行を防ぐためには定期接種化による接種率の向上が望まれる。


国立感染症研究所感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子
2015年度おたふくかぜ含有ワクチン接種歴調査実施都道府県
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