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鳥・ブタインフルエンザの流行状況について

(IASR Vol. 37 p.220-221: 2016年11月号)

鳥インフルエンザ

A/H5亜型ウイルス:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例は,2003年以降,世界の16カ国で856例が確認されており,そのうち452例が死亡例である(2016年10月3日現在)1)。エジプトではA(H5N1)ウイルスが家禽の間で定着し,家禽との接触などが原因によるヒト感染例が2014年の終わりから急増し,2015年に続き2016年も8例の感染例が報告されている1)。エジプトの他には,西アフリカ,ヨーロッパ,アジアで家禽や野鳥への感染が報告されており2),特にカメルーンでは,2014年以降家禽での流行が続いているが,これまでのところ西アフリカでのヒト感染例の報告はない1)

近年は,NAがN1以外のA/H5亜型高病原性鳥インフルエンザも世界各地の家禽や野鳥の間で蔓延しているが,ヒトへの感染が確認されているのはA(H5N6)ウイルスのみで,2016年は7例のヒト感染例が報告されている。これまでA(H5N6)ウイルスのヒト感染例は中国からの報告のみであり,2014年以降のヒト感染例は累計で14例あり,うち10例が死亡例である。分子系統解析により,2014年にヒトに感染したA(H5N6)ウイルスのHA遺伝子はクレード2.3.4.4に分類され,NA遺伝子はA(H6N6)鳥インフルエンザウイルス,その他の内部遺伝子はA(H5N1)ウイルスのクレード2.3.2.1に由来していた。2015年にヒトに感染したウイルスでは,HAおよびNA遺伝子は2014年のウイルスと同じだが,内部遺伝子はA(H9N2)鳥インフルエンザウイルスに由来するウイルスも見つかっており,A(H5N6)ウイルスは土着の複数の亜型の鳥インフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こっていると考えられている3,4)。現時点では,A(H5N6)ウイルスでのヒトに感染しやすくなるような遺伝子変異は確認できていない1)。現在,その他A/H5亜型高病原性鳥インフルエンザの主な流行地は,A(H5N2)は台湾,フランス,米国,A(H5N8)ウイルスは韓国,A(H5N9)はフランスである2)

A/H7亜型ウイルス:A/H7亜型の高病原性鳥インフルエンザは世界各地で発生しており,2016年は,メキシコでA(H7N3)ウイルスが,イタリアでA(H7N7)ウイルスが,米国でA(H7N8)ウイルスが流行している2)。これらA/H7亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染例の報告はこれまでのところないが,今後も注視していく必要がある。

一方,2013年に世界で初めて鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例が中国で報告されたが,2016年10月20日現在で803例のヒト感染例が確認されており,うち316例は死亡例である5)。毎年,冬季に感染者数が増大するが,年間の感染患者数は年々減少しており,2015年10月以降の第4波では約120例のヒト感染例が報告されている。ヒト感染例のほとんどは,生鳥市場などで感染した生鳥や汚染環境に曝露したことと関連性があり,まだウイルスはヒトからヒトへの持続的感染を起こしやすい性質を獲得していない6)。中国国内では動物に対するサーベイランスが行われており,2016年7月の1カ月に27省,計4,242カ所から88,567血清と52,837検体を集めて調査した結果,A(H7N9)ウイルス陽性例はなかったが,57血清でA/H7抗体陽性7)が検出されている。中国国内ではA(H7N9)ウイルスが蔓延している状況が続いているが,このウイルスは家禽に対してほとんど病原性を示さないため,感染した家禽をモニターすることが難しく,感染拡大のコントロールは困難な状況にあり,今後もヒト感染への危険性はなくならないと考えられる。

A/H9亜型ウイルス:2013年以降,鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例は中国およびエジプトで散発的に報告されており,2016年は新たに7例が確認されているが1,8),いずれも症状は軽症であり,これまで死亡例は報告されていない。中国国内ではA(H9N2)ウイルスが家禽の中で土着しており,このウイルスに感染した家禽との接触により感染したと考えられている。
 

日本国内では鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例は未だ報告されていないが,世界各地の家禽や野鳥に鳥インフルエンザが蔓延し,ヒトへの感染例も多数報告されている状況であり,ヒトからヒトへ効率良く感染する性質を変異により獲得して世界各国で大流行する可能性や,今後日本でも野鳥を介して家禽に鳥インフルエンザが拡がる可能性もある。鳥インフルエンザの流行状況については引き続き注視していく必要がある。

ブタインフルエンザ

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため,ブタが交雑宿主となって遺伝子再集合により新たなウイルスを排出する可能性がある。現在世界的には,ブタの間で様々な遺伝的背景を持つA(H1N1),A(H1N2),A(H3N2)ウイルスが循環しており,これまでにも散発的にブタからヒトへの感染例が確認されてきた9)。ヒト感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために“variant(v)viruses”と総称される。
 

アメリカの状況:1990年代後半から,それまでブタの間で循環していたClassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスと,鳥とヒト由来のインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こり, Triple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1),A(H1N2),A(H3N2)ウイルスが循環するようになった10)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは,このTriple reassortantウイルスとEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスである11)。2009年以降は,A(H1N1)pdm09ウイルスがブタの間でも循環して,さらなる遺伝子再集合が起こり,北米大陸のブタの間で循環するインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している12)。近年は主に農業フェアなどにおけるブタとの接触をきっかけとした,ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例が多数報告されている。2005年12月以降2016年9月現在までに372例のA(H3N2)vウイルス,20例のA(H1N1)vウイルス,8例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染例が報告されているが,ヒトからヒトへの感染はまだ報告されていない13)

中国の状況:近年Eurasian avian-like系統のブタインフルエンザA(H1N1)ウイルスのヒト感染例が死亡例1例を含めて数例報告されている14,15)。これらのヒト感染例は地域的に離れた場所で散発的に起きており,ヒトからヒトへの感染は確認されていないが,ウイルスの受容体結合部位にヒトへ感染しやすい変異を持ち,フェレットを用いた動物実験で飛沫感染することが確認されたウイルスも見つかっている16)

日本では1970年代後半からClassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環し始め17),その後ヒトのA(H3N2)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したA(H1N2)ウイルスが循環していたが18),2009年以降は,A(H1N1)pdm09ウイルスとの間で遺伝子再集合が起きていることが明らかとなっている19,20)。日本ではこれまでブタインフルエンザウイルスのヒト感染例は報告されていないが,ブタインフルエンザウイルスの発生状況を引き続き注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. WHO, Monthly Risk Assessment Summary, Influenza at the Human-Animal Interface http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/HAI_Risk_Assessment/en/
  2. OIE, Update on Highly Pathogenic Avian Influenza in Animals (Type H5 and H7)
    http://www.oie.int/en/animal-health-in-the-world/update-on-avian-influenza/2016/
  3. Pan M, et al., J Infect 2016 Jan; 72(1): 52-59
  4. Shen YY, et al., Emerg Infect Dis 2016 Aug; 22(8): 1507-1509
  5. FAO, H7N9 situation update
    http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/H7N9/situation_update.html
  6. WHO, Human infection with avian influenza A(H7N9)virus-China
    http://www.who.int/csr/don/17-august-2016-ah7n9-china/en/
  7. 中華人民共和国 農業部獣医局,2016年7月分全国動物 H7N9インフルエンザ観測状況 http://www.moa.gov.cn/sjzz/syj/dwyqdt/201608/201608/t20160822_5249404.htm
  8. ProMED mail
    http://www.promedmail.org/
  9. Myers KP, et al., Clin Infect Dis 2007 Apr 15; 44(8): 1084-1088
  10. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 2013; 370: 113-132
  11. Garten RJ, et al., Science 2009 Jul 10; 325 (5937): 197-201
  12. Nelson MI, et al., J Infect Dis 2016 Jan 15; 213(2): 173-182
  13. http://www.cdc.gov/flu/swineflu/variant-cases-us.htm
  14. http://www.who.int/influenza/vaccines/virus/201602_zoonotic_vaccinevirusupdate. pdf?ua=1
  15. Qi X, et al., Arch Virol 2013; 158(1): 39-53
  16. Yang H, et al., Proc Natl Acad Sci USA 2016 Jan 12; 113(2): 392-397
  17. Sugimura T, et al., Arch Virol 1980; 66: 271-274
  18. Nerome K, et al., J Gen Virol 1983; 64(Pt 12): 2611-2620
  19. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 2013 Dec; 19(12): 1972-1974
  20. Kanehara K, et al., Microbiol Immunol 2014 Jun; 58(6): 327-341

国立感染症研究所
インフルエンザウイルス研究センター
 影山 努 中内美名 高山郁代 齊藤慎二 小田切孝人

 

 

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