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2015/16シーズンのインフルエンザ脳症について

(IASR Vol. 37 p.221-223: 2016年11月号)

はじめに

インフルエンザ罹患に伴う合併症の一つとして,インフルエンザ脳症が知られている。インフルエンザ脳症の報告は,日本を中心としたアジア諸国からの報告が多く,また,小児例が報告の中心だが,少数ながら成人例の報告もある。

日本では,感染症法に基づいた,感染症発生動向調査として,「急性脳炎」 が5類感染症全数把握疾患に指定されており,診断した医師は全例最寄りの保健所へ届け出ることが求められている。報告基準は臨床症状に基づいており,必ずしも確定診断のための検査は求められていないが,病原体を規定しない急性脳炎(以下,脳症を含む)のサーベイランスを行っている国は稀であり,貴重な情報である。

急性脳炎の報告の中で,インフルエンザに関連すると届け出られた報告を集計し,2015/16シーズンの傾向について以下に述べる。

2015/16シーズンのインフルエンザ脳症の報告数と過去2シーズンとの比較

2015/16シーズンは, 計224例のインフルエンザ脳症の報告があった(2016年9月27日現在)。図1には,2013/14~2015/16シーズンのインフルエンザ脳症の報告数とインフルエンザウイルスの型別割合の推移を示している。2015/16シーズンは,過去2シーズンと比較すると,2倍以上の症例が報告されており,インフルエンザ脳症の報告が多かったことがわかる。また,型・亜型別にみると,2015/16シーズンはA型,あるいはA(H1N1)pdm09と記載された症例が60%以上を占めていたが,B型と報告された症例も約30%あった。2015/16シーズンはB型の割合が2014/15シーズンより多く,2013/14シーズンと同程度であった。

図2に2013/14~2015/16シーズンにおけるインフルエンザ脳症報告数および全国約5,000箇所のインフルエンザ定点から報告されるインフルエンザ患者報告数の週別定点当たり報告数の推移を示した。2015/16シーズンのインフルエンザ脳症の報告数は,A(H1N1)pdm09が流行の主流でシーズン後半にB型の報告が増加した2013/14シーズンと同様の傾向がみられた。

インフルエンザ脳症の報告数のピークは,2013/14シーズンは2014年第7週,2014/15シーズンは2015年第2週,2015/16シーズンは2016年第5週であり,インフルエンザ定点当たりの報告数の増加に合わせてインフルエンザ脳症の報告数も増加していた。また,2015/16シーズンの定点当たりインフルエンザ患者報告数は過去2シーズンと比較して大きな増加は認められなかったが, 2015/16シーズンではインフルエンザ脳症の報告数は,過去2シーズンと比較して約2倍と多かった。

図3に,2013/14~2015/16シーズンにおけるインフルエンザ脳症の年齢別報告数とその割合を示した。各シーズンともに,10歳未満の症例が多く,2015/16シーズンは10歳未満が報告の70%を占めていた。2015/16シーズンは,過去2シーズンと比較してインフルエンザ脳症の報告数が多かったが,15歳以上の報告数については過去2シーズンと同程度であった。以上のことから,2015/16シーズンは,15歳未満の小児例の報告が多かったために,全体の報告数が増加したと考えられた。実際に,2015/16シーズンは,過去2シーズンと比較して,インフルエンザによる入院患者数が15歳未満において最も増加した1)

まとめ

2015/16シーズンは過去2シーズンと比較して,インフルエンザの定点当たり報告数には明らかな増加はなかったが,インフルエンザ脳症の報告数が多く,特に15歳未満で報告の増加がみられた。

 

参考文献
  1. 今冬のインフルエンザについて (2015/16シーズン)
    http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1516.pdf

国立感染症研究所感染症疫学センター

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