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6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2013/14および2014/15シーズン(厚生労働省班研究報告として)

(IASR Vol. 37 p.230-231: 2016年11月号)

はじめに

インフルエンザワクチンの有効性研究に関する最近の考え方は,「複数シーズンにわたり,統一的な手法で継続的に有効性をモニタリングする」というものである。欧米諸国で実施されている有効性モニタリングプロジェクトでは,症例・対照研究の亜型であるtest-negative designが採用されている1,2)。当該デザインの長所は,検査確定インフルエンザが結果指標であることに加え,発病後の受診行動が症例・対照間で似通うため,「受診行動に起因するバイアスを制御できる」という点である3,4)

厚生労働省研究班「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究」では,test-negative designにより,6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしている。本稿では,2013/14シーズン(予備調査)と2014/15シーズン(本調査)の結果を,報告書から抜粋して述べる5,6)

方 法

デザインは多施設共同症例・対照研究(test-negative design)である。2013/14シーズンは大阪府で実施し(5施設が参加),2014/15シーズンは大阪府と福岡県で実施した(9施設が参加)。研究期間は,各地域におけるインフルエンザ流行期である。

対象者の適格基準は下記の通りである。

①研究期間に,インフルエンザ様疾患(ILI)(38.0℃以上の発熱plus [咳,咽頭痛,鼻汁and/or呼吸困難感])で参加施設を受診した小児
 ②受診時の年齢が6歳未満
 ③発症から受診まで7日以内(ただし,2014/15シーズンは「38.0℃以上の発熱出現後,6時間~7日以内の受診)

以下の基準に1つ以上合致する者は,本研究の対象から除外した。

・調査シーズンに,型にかかわらず検査確定インフルエンザの診断既往を有する者(ただし,2014/15シーズンはこの除外基準を撤廃)
 ・調査シーズン9月1日の時点で,月齢6か月未満
 ・インフルエンザワクチンの接種後,アナフィラキシーを呈した既往を有する者
 ・今回のILIに対して,すでに抗インフルエンザ薬を投与されている者
 ・今回のILIが入院中に出現した者
 ・施設に入所中の者
 ・大阪府外あるいは福岡県外に居住する者

本研究のstudy base(研究対象者を生み出す“source population”)から研究対象者を選定する過程で,選択バイアス(selection bias)が生じることを回避するため,系統的手順による登録を行った()。登録時,保護者に自記式質問票への記入を依頼し,同胞数,通園有無などの情報を収集した。当該シーズンのインフルエンザワクチン接種歴については,対象者が参加施設で接種を受けた場合,診療録の情報を担当医が転記した。その他の施設で接種を受けた場合は,担当医が母子健康手帳の記録を転記するか,保護者に自宅で母子健康手帳の記録を転記してもらい返送を依頼した。

登録時に全例から鼻汁を吸引し,共同研究機関の大阪府立公衆衛生研究所でreal-time RT-PCR法(以下,PCR法)による病原診断を行い,インフルエンザウイルス陽性の者を症例,インフルエンザウイルス陰性の者を対照(test-negative control)と分類した。条件付き多重ロジスティック回帰モデルにより,検査確定インフルエンザに対するワクチン接種の調整オッズ比(OR)を計算した。ワクチン有効率は(1-OR)×100(%)として推定した。

結果と考察

に,インフルエンザワクチン接種の調整ORを示す。2013/14シーズンの1回接種と2回接種の調整ORはいずれも0.49と有意であった(有効率51%)。当該シーズンの主流行株であったA(H1N1)pdm型(症例387人中184人で陽性)に対する有効率は,1回接種37%,2回接種56%であり,2回接種で有意であった。2014/15シーズンの1回接種と2回接種の調整ORは0.69と0.59(有効率:31%と41%)であり,2回接種で有意であった。なお,2014/15シーズンで解析対象となった症例は,すべてA(H3N2)陽性であった。

以上より,6歳未満児における検査確定インフルエンザに対するワクチン有効率(2回接種)は,いずれのシーズンも有意な効果を示した。2014/15シーズンの有効率の方が低かったが,当該シーズンの主流行株であったA(H3N2)型は,海外ワクチンあるいは国内ワクチンのA(H3N2)株から大きく抗原変異したと報告されている。一方,2013/14シーズンの主流行株であったA(H1N1)pdm型は,ワクチン株と良好に合致していた。2シーズンの有効率の違いは,ワクチン株と流行株の合致度を反映していると考える。

おわりに

Test-negative designは,インフルエンザワクチン有効性研究におけるこれまでの課題を解消しうる手法である。一方で,まだ歴史の浅いデザインであるため,潜在するバイアスに注意を払いながら,そのようなバイアスを極力排除する努力をすべきと考える。厳密な計画の下に実施されたtest-negative designからの論拠を積み重ねることにより,わが国においてもインフルエンザワクチン有効率の“abstract universal statements(要約された普遍的見解)”を導くことができるだろう。

 

参考文献
  1. Treanor JJ,et al.,Clin Infect Dis 2012; 55(7): 951-959
  2. Kissling E,et al.,Euro Surveill 2009; 14(44)
  3. Jackson ML,Nelson JC,Vaccine 2013; 31(17): 2165-2168
  4. Foppa IM,et al.,Vaccine 2013; 31(30): 3104-3109
  5. 福島若葉ら,厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD (vaccine preventable diseases) 対策への適用に関する分析疫学研究 平成26年度総括・分担研究報告書,pp15-26,2015
  6. 福島若葉ら,厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究 平成27年度総括・分担研究報告書,pp15-26,2016

大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 福島若葉

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